2021年10月16日土曜日

社会の変化と日本官僚組織の変化  

            社会の変化と日本官僚組織の変化

           富山大学・ハリウッド大学院大学 

                清家彰敏

序章

 本稿は元大蔵事務次官(現財務省)・元国務大臣の相沢英之氏、元通商産業事務次官(現経済産業省)・元参議院議員の矢野俊比古氏らのオーラル(伊藤隆東京大学名誉教授・清家彰敏、伊藤・清家(2021))など、経済産業省などに繋がるオーラルを資料とし、論者が財務省財務総合政策研究所特別研究官、文部科学省科学技術政策研究所客員研究官と政治家・官僚・経営者・非営利団体代表などと交流を行ってきた経験を下に、官僚組織の変遷と将来について考察を行う。

研究のフレームワークとして、本稿は、時間軸における過去・現在・未来の3つの社会変化が、どのような組織変化をもたらしているか、を論じる。空間軸においては、政府と営利組織と非営利組織は相互作用を与え合い、補完し合い、起業と廃業の生滅を繰り返し、学習模倣しあってきた。現在は政府と営利組織は海外との関係で分断が行われターゲットポリシーは民主主義成熟国家として行えない。それに対して政府と非営利組織は連携が社会から期待されている。日本社会は欧米へのキャッチアップを目指した戦後復興、高度成長時代は夢を追った。その後の民主主義成熟の時代は個人の既得権を守り現在に至っている。

2.過去 高度成長期

高度成長期の自由民主党55年体制の下では官僚主導型政治といわれた。政治は欧米諸国へのキャッチャアップを目指し、国民は欧米諸国の生活を理想とし、官僚組織は欧米モデルを追求しやすいように、ボトムアップダウン型になった。官僚組織は、戦前戦中の統制経済の組織モデルで、目標が戦争遂行から米国のキャッチアップに変わった。終身雇用、年功序列であり、民間企業と異なり省庁ごとの組合による組織ごとの賃金体系は成立しなかった[1]

この構造において、官僚は、高度成長期前半は事務次官までジョブローテーションを繰り返し50代前半で昇進し、50代後半には選挙を経て大臣、総理となった。世界の変化は日本政府の変化をもたらし、日本社会の変化をもたらしてきた。この社会において官僚組織は自由と民主主義の下、変化し続けている。バトワール(2019[2]によると、通商産業省事務次官は1950年代後半入省後24年、60年代前半28年、後半29年、1970年代前半31年、1976年退官まで32年と昇進は遅くなっている。22歳で入省して54歳で第2の人生へ向かえる。

高度成長期においては、官僚は内部組織でドラッカーのいう長期的競争の原理で職務を遂行した。矢野元通商産業事務次官の場合1948年入省13年で8部門ローテーションし62年課長、1.5年強に1回ローテーションで課長になった。73年審議官へ昇進、10年間で7回異動、1.5年弱に1回である。80年事務次官、81年退官。事務次官まで64回異動で1.5年に1回異動である。平均1.5年に1回のローテーションである。

組織間関係では、政界、外郭団体、業界と連携した。長期的競争での最終勝者は事務次官でその後政界へ転出した。相沢元大蔵事務次官の場合は局長になって8年間に5回異動、事務次官は1年間で、74退官、平均1.5年に1回である。この間田中角栄総理など歴代総理と財政のパートナーとして活動、76衆議院議員、90国務大臣経済企画庁長官になり03総選挙で落選まで27年間活動した。退官者は外郭団体、業界へ転出した。

護送船団方式と言われた官僚組織は、組織間関係の他省庁、外郭団体、業界の担当者とヒッペル(1991)のユーザーサプライヤーインタラクションで新しいアイデア、政策、制度を創出してきた。今井・伊丹・小池(1982)の中間組織は大蔵省から始まり官僚組織から産業界まで日本全体で成立していた。矢野(1982)の「日本株式会社」である。

高度成長期の構造は、①受益者側は業界で、業界は欧米へのキャッチアップを目指し計画と要望を作り、②各省庁のイノベーション担当者がその要望を取り上げ、それを、③各省の大臣官房の計画の枠の中で、④各省の資金課が取りまとめ、⑤大蔵省主計局の主計官が財政投融資、市中銀行融資も考慮して予算を査定し、⑥業界がそれぞれの企業の計画に基づき実行を行い、⑦その成果を各省庁が評価し、⑧業界を各省庁が行政指導を行い、その後フィードバック①以降を繰り返してきた。護送船団方式といわれた構造である。

各省庁は経済を加速させるアクセル官庁(俗称)と規制を強め経済を減速させがちなブレーキ官庁(俗称)に分かれる。各省庁資金部門は所管産業から情報を集める(ボトムアップ)。各省庁資金部門は大蔵省主計局に情報を集中させる(ボトムアップ)。大蔵事務次官、主計局長は政治家と協議、予算の大枠を決定(トップダウン:配分の決定)。主計主査による各省庁の予算・投融資の査定(ミドルアップダウン)。主計局次長・主計官から主計主査によるフレキシブルトップダウン縦調整が行われた。主計官間のネットワーク組織横調整である[3]。年功序列は変わらず、人事は長期競争による昇進と系列(外郭団体・民間)への転出、それによる系列組織強化であった。

省庁は、通商産業省などの業界を所管するライン官庁と科学技術庁などの業界を所管しないスタッフ官庁に二分された。各省庁間では人事交流があり大蔵省入省で他省の事務次官になることもあった[4]。また通商産業省に代表される業界を支援する「アクセル官庁」と規制する「ブレーキ官庁」に対して予算による調整が大蔵省となった。ブレーキ官庁の規制から逃れる情報を通商産業省産業資金課が業界から集め大蔵省に上げ、ブレーキ官庁を押さえる予算査定で、高度成長が加速されることも多かった。

この構図は、ターゲッティングポリシーが許されるキャッチアップ型国家の段階まであった。日本が世界の民主主義成熟国家(本稿で現在の日本を「民主主義成熟」国家と定義)として世界の主要国となってからは、海外と社会の変化に合わせて官僚組織は変化した。

3.民主主義成熟時代

1980年代以降ベンチャー投資ブームが起こった。この主役は通商産業省である。大蔵省の財務支配からの脱出をもアクセル官庁は試みる、その典型が通産省ベンチャー投資ブームである。権限の一部が、大蔵省主計官から通商産業省へ移った。NTTの民営化による株式売却収入を原資とした基金で、通商産業省は研究開発等への出資を行った。組織間関係でのインタラクションは通商産業省の機能である。民主主義成熟時代の組織は、終身雇用組織が米国よりの外圧による産官分離でネットワーク分散型組織へ、社会における派遣社員の登場と急増の社会現象が起こった。1991年のバブル経済崩壊以降、政治主導型が強まった。国民は安寧な生活でリスクを避け、政治に無関心で、既得権が非常に多くなった。政治は欧米との競争の時代となり、トップダウンの大統領制を理想とし、中曽根康弘内閣、小泉純一郎内閣において、大統領型の総理が議員内閣制下で行われた。

総理のリーダーシップは、日本経済の拡大とともに、海外の政治指導者、巨大企業経営者との緊張の中で徐々に強化された(牧原出,2013)中曽根康弘内閣(198211月~8711月)はリーダーシップ強化、内閣強化として、官房長官を各省に対して優越させ、審議会などを活用した。橋本龍太郎内閣(19961月~987月)は省庁を削減(城山・細野,2002)し、内閣に特命担当大臣を設置し、各省を越えた政策決定、調整を行わせた。大蔵省が解体され、1990年代からの護送船団方式への内外の批判と行政改革により、財務省、金融庁に分離し、予算・財政投融資と銀行融資の分離が起こった。小泉純一郎内閣(20014月~069月)は内閣官房に企画権限を付与し、各省庁に基本方針を出した。主計官の機能は剥ぎ取られ縮小されたが、投融資ミックスの司令塔として、内閣の経済財政は財務省出身の首相秘書官が担当した。内閣官房は200名から800名へと拡大させた。

第2次安倍晋三内閣(201212月~)は、官房長官が全体を掌握し、可能な財政政策の範囲で、公約に掲げられた項目について諮問機関の審議で意思決定を行った。官僚組織は政治主導のトップダウンのブレイクダウン型組織へと変化していき、安倍晋三内閣において、人事は人事局によって、政治による審議官以上の選別が行われるようになった。また官僚が、各省庁のキャリアコースから政治任用で外され、官邸、内閣府で政治家の下で働くケースが多くなり、内閣府は数倍以上に巨大化した。官僚が、省庁を早期退官し、政治家、民間企業、ベンチャーを起業するケースが増加し、インフォーマルながら官僚採用市場も登場した。また大臣によっては、官庁の性質をトップダウンによって、変化させる事例も出てきている。例えば、2019年9月から2021年10月の小泉進次郎環境大臣はスタッフ官庁である環境省をアクセル官庁化した。民主主義成熟時代の官僚は一貫して日本エリートの横のネットワークの発進点として機能してきた。

民主主義成熟時代は、①国民と日本の影響を受ける世界が受益者側となり、②各省庁を退官した若手国会議員と出身官庁の官僚が国民と世界の要望を取り上げ、それを、③自由民主党の政調会の計画の枠の中で、④幹事長が取りまとめ、⑤政治家(総理・内閣)と首相補佐官の政策を受けて財務省主計官が予算査定して、⑥国会議員がそれぞれの地域、所管官庁が企業への予算執行を監督し、⑦国民と世界とマスコミがその成果を評価し、⑧国会議員と官庁が指導し、マスコミは報道し、司法が裁定し、その後フィードバック①以降を繰り返す構造となった。成熟した民主主義国家の複雑な構造となった。

史的に組織の力学の視点で考察すると、時代ごとに、立案実行、査定展開のどちらかが力を強め、主体となってきた。その結果、立案実行が主体となるとボトムアップ、査定展開が主体となるとトップダウンにといった力学にもとづき組織設計が行われた。

終章 未来データドリブンの時代の官僚組織

日本の官僚組織の変遷について考察を行った。キャッチアップ時代は夢を追い、民主主義成熟時代は既得権を守り、未来のデータ至上主義の時代「ユヴァル・ノア・ハラリらによって論じられている、人類には自由な意思など無い」ともいわれる社会ではデータがビジョンを描く。SDGsで社会に目標が与えられたときもデータドリブンであることは言うまでもない。データドリブンの時代に官僚は機械学習と連携する作業を要求される。村瀬俊朗・王ヘキサン・鈴木宏治[5]2021)機械学習の強みは今まで人間でしか実現できないと考えれていた分類や特定の作業を、機械が学習を通して作業の精度を高めることができるとしている。ルティーン業務を24時間態勢に、問題解決案を機械学習によって複数提出選択する。永山晋[6]2021)は機械学習によって得られた結果の解釈可能性の低さを、課題としている。機械学習過程をブロックチェーンで保存し過程検証作業を的確に行える。官僚組織が大きく変革する未来が予見できる。

 参考文献

伊藤隆監修・清家彰敏監修・中澤雄大編集(2021)『回顧百年 相沢英之オーラルヒストリー』かまくら春秋社

日本政策投資銀行(2002)『日本開発銀行史』日本政策投資銀行

城山英明・細野助博編著(2002)『続・中央省庁の政策形成過程』(中央大学出版部)

今井賢一・伊丹敬之・小池和男(1982)『内部組織の経済学』東洋経済新報社

牧原出(2013)、政策決定における首相官邸の役割、2013627

https://www.nippon.com/ja/features/c00408/

矢野俊比古(1982)『日本株式会社の反省 わが国産業の新しい活路』日本工業新聞社

Hayek,F.A.(1945)”The Use of Knowledge in Society”,American Economic Review,Sept.

Hippel,E.(1988)The Source of Innovation,Oxford Press,NY.

Williamson,O.E.(1986) Economic Organization:Firms,Markets and Policy Control,Wheatsheaf Book Ltd,1986.



[1] 外郭団体においては団体ごとの賃金体系が行われたため、外郭が高給のことが多く、出向すると出向期間は給与が上がるとも言われた。

[2]バトワール「通産省の産業政策と通産省エリートの役割──高度経済成長期を中心に」『横浜国際社会科学研究』第24巻第Ⅰ号file:///C:/Users/seike/Downloads/3-Nematov.pdf2021920日検索58

[3] 伊藤大一は大蔵省内という同一組織内に歳出の主計局と歳入の主税局が存在し、情報を独占し、情報の非対称性によって大蔵省が他省庁、政治家に対してアドバンテージを持ったとしている。これは大蔵省主計官の自律性を高め、その結果、上記の投融資ミックスを可能とした。伊藤太一は通産省が業界との産業ネットワークからの情報をもち、大蔵省が銀行からの金融ネットワークからの情報を持っていたと指摘、主計官はその2つのネットワークからの情報の結節点で、2つの情報を統合できる存在であったとしている。

[4] 企業グループの系列組織と同じ構造。相沢オーラル「各省次官級へ多いときは同期で5人ほど行った」

[5] 「アンケート調査を超えてーー自然言語処理や機械学習を用いたログデータの活用を模索する」『組織科学』白桃書房Vol.55No.1

[6] 「現実の説明と制御:社会科学おける機械学習の活用」『組織科学』白桃書房Vol.54No.4


2021年7月12日月曜日

 トヨタ自動車の戦略構想と組織間競争

-ソニー・任天堂からの学習-

清家彰敏 ハリウッド大学院大学教授・富山大学名誉教授

Toyota Motor Corporation's Strategic Concept and Inter-Organizational Competition

-Learning from Sony and Nintendo

 

Akitoshi SEIKE

Hollywood Graduate School of Beauty Business/University of Toyama

 abstract

I propose a novel strategy for Toyota Motor Corporation. 

The current strategy of the woven group may fail because Toyota's structure is not suited to the new automobile business and technology in CASE. 

The failure of the past strategy was also caused by the mismatch of the alliance and collaboration with Tesla. 

In the smart city car business, Toyota should learn from Sony's and Nintendo's strategies that achieve great success in the world. 

The optimal strategy depends on whether the competition among business suppliers is heterogeneous or homogeneous. 

In Sony's strategy, heterogeneous suppliers are assumed to struggle for existence. 

In the case of Nintendo, homogeneous suppliers compete. 

 

Finally, with global perspectives, I also envision a strategy that considers China, the United States and other countries. 

Keyword

CASE

Strategy

Tesla

heterogeneous competition

homogeneous competition

Sony

1.緒言

トヨタ自動車の戦略について分析、提案を行う。トヨタ自動車の現在の戦略は失敗する可能性がある。過去の戦略の失敗は、テスラ・モータース社(1)との提携、連携の失敗であり、今回のウーブングループ(2)による戦略も失敗する可能性がある。失敗の理由はトヨタの体質が新しい自動車ビジネス、CASE(3)などの技術に合っていないためである。トヨタ自動車はスマートシティにおける自動車ビジネスで、ソニー(4)、任天堂(5)の戦略から学習して、戦略を立案すべきである。戦略立案の際に、ビジネスの場におけるサプライヤー・プレイヤー企業間の競争の原理が、異質化競争であるか同質化競争であるかによって成功する戦略が変わる(清家,1999)。なお本稿の競争概念はハイエク(1945)に依拠する。ソニーから学ぶときはサプライヤー、プレイヤー企業が異質化競争を起こすことにより、任天堂から学ぶときはサプライヤー、プレイヤー企業が同質化競争を起こすとき戦略は成功する。ソニー、任天堂といった日本企業に関わらず世界に視点を移して、戦略を、中国、米国などと連携して構想べきであるとの提案も行う。

 

2.ものづくり日本企業のことづくり企業への転換の課題

日本企業はものづくりで世界を牽引してきた。世界のビジネスにおいてことづくりに重心が移るにつれて、戦略構想を変化させていく必要が出てきている。

今井賢一他(1982)、ウイリアムソン(1986)は組織間関係、組織における市場化における競争を日本企業の強みとした。本稿では組織において、競争する単位をグループと個人に2分する。一般にグループは内部を同質化しようとする傾向があり、競争の性質は同質化競争と規定できる。それに対して個人は自由に発想、行動し、そこから競争優位を獲得しようとする傾向があり、個人間の競争の性質は異質化競争と定義できる。

ものづくりは同質化競争とそのマネジメント(清家,1995a)で論じられ、現在もその傾向が強い。それに対して、ことづくりは異質化競争によってイノベーションを起こし、競争優位を獲得する。情報通信・AI支援でのビジネスを一人で行う一人企業(清家,1999)は、米国、中国において異質化競争を繰り広げている。世界的企業で多くの従業員を雇用していても、優れた個人が全て創造、決定し、一人企業として成功している事例は多い。

完全な自由と完全な拘束では競争は起こらない。競争は自由と拘束の中間で起こる。拘束は理念、投入、態度、過程、産出、効果のどれを固定するか、によって同質化競争と異質化競争に分かれる。同質化競争は理念、態度、過程を拘束する。異質化競争は投入、効果を拘束する。

具体的には同質化競争は投入と産出と効果は市場の変化によって予測できない。従って予測できないものに対して、経営者は責任を問わない。経営者は、理念、態度、過程が経営者からみて合理性を持っているかどうか、によって組織間競争を起こさせうる。

ことづくり企業においては、①ことづくりとソフト開発においてプレイヤー企業を集める、②プレイヤーを単位化して異質化競争させる、③選別を進め重点投資を行う、④コトづくりに強みをもったプレイヤーを呼び寄せるコンテンツを集める、➄ソフトの世界展開による世界制覇、これがものづくりで成功し、今後ことづくりで日本企業が成功するための課題である。ものづくり日本企業の今後のために、代表的なものづくり企業であるトヨタのCASEビジネスへの進出を事例として、日本企業の変化を考える示唆としたい。

 

3.トヨタのソニー・任天堂からの学習による組織間競争戦略の試論

ジョブローテーションは、人間の異動によって同質化競争を行い、長期的競争による日本のものづくり企業に成功をもたらした。それに加えてトヨタはサプライチェーンにおいて市場化による競争構造を作った。ウイリアムソン(1986)は取引コストで理論化を試みた。清家(1995b)で詳説したトヨタのボディローテーションはピジネスの移動によって同質化競争を行おうとする。トヨタはグループ内の複数企業のデザイン、開発、生産過程を細分化、単位化し、戦略的にローテーションする。単位化は互換に繋がり、同質化した互換単位はグループ内での仕事の争奪をめぐり競争を行う。トヨタ自動車は単位のコスト、品質を比較し仕事の配分を決める。豊田英二元トヨタ自動車会長のいう「うちでやった方がお得ですよ」は、すなわち魅力的な単位“にならなければグループ内で敗者になる。

サプライヤーはトヨタ自動車と同じ部門を作り、情報を共有しており、人材教育の共通の場(会議体)を持っており、人材はトヨタ自動車と交流しながら共に成長していく。

トヨタのウーブン・プラネット・ホールディングスとウーブン・コア(6)とウーブン・アルファ(7)(以下ウーブン、ウーブングループと略記)はCASE対応が求められソフト開発の多様性を持った異質な人材、チームで構成されている。トヨタはウーブンに対して成功体験に裏付けられた同質化競争の論理で管理すれば、組織の失敗を起こす。トヨタの競争力である同質化競争、リーン生産方式が、ウーブンが行おうとしていることづくり、ソフト作りの体質に合わないからである。

 イーロン・マスクのテスラ・モーターズ(テスラと略記)とトヨタの連携は破局した。トヨタは全面支援をテスラに行ったが、新しい自動車ビジネスにおいて組織の失敗となった。その組織の失敗を再度起こす可能性が高い。ウーブングループの経営者は、トヨタに対して、ものづくり、ハードに対する尊敬は持っているが、ことづくり、ソフトに関してはトヨタが不慣れであると感じている可能性は高い。トヨタが組織の成功を収めるためにはどうすれば良いか。トヨタの体質に合わせたウーブンの組織改革、体質が近い日本企業からの学習による組織間競争による戦略構想作りが課題である。日本において、ことづくり、ソフトづくりでの世界覇権企業はソニーと任天堂に代表される(清家,1999)。

 ソニーはプレイステーション(8)で①高性能低価格のハードづくり、②コトづくり、ソフトづくりを社外に依存(異質化競争)、③モノづくりでは特に強みがないが、④コンテンツによるコトづくりに強みを求める、ことにより世界覇権をとってきた。

この戦略から学習すれば、トヨタは①高性能低価格の自動車で世界市場の覇権をとっているので、②コトづくり、ソフト作りを社外に依存(ヒッペル(1988)のユーザーとの共創による異質化競争)し、③電気自動車によってものづくりによる強みが消えていく中で、④スマートシティに関するコンテンツによるコトづくりを強みにするために、世界のコンテンツをソニーのように積極的に購入していく、戦略である。④コンテンツ獲得に関しては、SDGs、スマートシティにおいては医療データ、環境データからスマホの生活データまで膨大である。世界でトップのコンテンツ獲得の成否が組織の成功をもたらす。

 任天堂は①ハードと一体化したことづくり、②ソフトづくりを監督、③ネットワーク内のソフト会社に開発競争(同質化競争)させ、④日本的なことづくりとソフトの競争力で世界覇権をとってきた。その典型がマリオ(9)からあつまれどうぶつの森(10)などである。この戦略から学習すれば、①ハード(トヨタ車)と一体化したことづくり、②ウーブンのソフトづくりを監督、③ネットワーク内のソフト会社に開発競争(同質化競争)させ、④日本的なことづくりとソフトの競争力で世界覇権をとっていく。トヨタの体質には任天堂のほうが合っている。

しかし、任天堂の戦略を模倣するなら、ウーブンは社長を日本人から選ぶ、その日本人は世界におもてなしの自動車都市生活のことづくり、ソフト作りを行える人材でないといけない。任天堂から人材をウーブンのトップに持ってくる。組織の失敗の危険は、④日本的なことづくりとソフト開発、特にウーブンシティなどによる日本人のおもてなし感覚のスマートシティが世界でガラパゴスになる可能性が高い点である。

トヨタはソニー、任天堂のどちらから学習するのが望ましいか。トヨタは学習組織としても知られている。元町工場で大野耐一氏がトヨタ生産方式、新郷重人氏がシングル段取りを確立し、1970年代80年代とグループ全体が学習していった。次いで80年代~00年代メルセデスベンツの学習が起こり、レクサスの誕生となった。

トヨタの戦略における日本企業ソニー、任天堂からの学習について、ソニーは異質化競争、任天堂は同質化競争である。任天堂はことづくりとソフトにおける同質化競争で世界制覇し、トヨタはものづくりとハードにおける同質化競争で世界制覇を果たした。ことづくり、ソフトで任天堂が世界制覇できた理由はゲーム業界においては世界のことづくり、ソフトづくりのデファクトスタンダードは日本が作っていたからと考えられる。同様にトヨタの成功もトヨタ生産方式が世界のものづくりとハードのデファクトスタンダードになったからである。ウーブンシティが自動車業界のことづくり、ソフトのデファクトスタンダードになれば、任天堂からの学習は成功となる。ウーブンシティが世界のデファクトスタンダードになり得ない理由は三つある。日本の都市は世界の標準ではない。日本の都市の課題は世界の都市の課題ではない。三つ目は日本の自動車業界のことづくり、ソフトづくりは世界のガラパゴスである可能性が強い、である。

 ソニーか任天堂かの選択もあるが、二方面戦略もありえる。トヨタは世界の自動車覇権を今後の10年は握る可能性が高い。資金力が極めて大きい。この間にウーブンを2つに分け、ウーブン1はソニー模倣、ウーブン2は任天堂模倣を行わせる戦略が望ましい。

 ソニーと任天堂はマイクロソフトの参入を阻止できた。その理由はソニーと任天堂という2つの異なるタイプのゲーム企業2社があり、世界市場が3番手を必要としなかったとの見方もできる。今後の10年間をウーブン1とウーブン2が世界市場を席巻すれば、トヨタの覇権はそれ以降も続く可能性がでてくる。

 

4.トヨタのグローバル化への提案

現状のウーブンの戦略についても自動車関係者T氏、経営学者T教授、マスコミN氏へのインタビューを行ったが3人とも失敗するだろうとのことであった。テスラの二の舞になるとの話もあった。“日本”を意識しないならトヨタの戦略は以下である。世界において競争力があると思われるのは、ウーブン・コアだけである。ウーブン・コアはトヨタ、デンソー、アイシンなどトヨタグループのモノづくり、ハード作りグループと競争的にグループ単位で研究開発を行い。ドイツを競争相手として同質化競争で勝機がでる。ウーブン・コアは欧州で同質化競争、インドではスズキと同質化競争を行うことで成功しうる。

 ウーブン・アルファは現状では成功はおぼつかない。ウーブン・アルファはことづくり、ソフトづくりを行わなければならない。この分野は米国と中国広東が圧倒的に優れている。ウーブン・アルファに勝機はない。特に規制が少ない広東の優位は圧倒的である。広東にウーブン・アルファは本社を置き、広東の企業(一人企業)を異質化競争させることで勝機が出る。ウーブン・プラネット・ホールディングスは米中に対してまったく勝機がない。米国と中国は交通システム、ハードで共通点が多い。大型の車が多く、米国の超大型トラックは中国でも走れる。日本では走れない。中国の車も米国でそのままの仕様で走れる。規模感の共有は貴重である。ウーブン・プラネット・ホールディングスは米中のプレイヤー・サプライヤー(一人企業)に異質化競争をさせることで勝機を見いだせる。

 

5.結語

トヨタの戦略について分析、提案を行った。トヨタはスマートシティにおける自動車ビジネスで、ソニーからサプライヤーの異質化競争による戦略を、任天堂からサプライヤーの同質化競争による戦略を学習することが可能である。CASEにおけるビジネスでは供給側のサプライヤーだけでなく販売側のプレイヤーの異質化競争、同質化競争による戦略を構想しなければならない。また世界に視点を移して、異質化競争の戦略を、中国、米国などのプレイヤーと連携して構想すべきであるとの提案も行った。

参考文献

(1) https://www.tesla.com/ja_jp(2021年3月10日検索)

(2) https://www.woven-planet.global/jp/homehttps://www.tesla.com/ja_jp(2021年3月10日検索)

(3) https://global.toyota/jp/mobility/case/(2021年3月10日検索)

(4) ソニー広報センター編(1996)『源流』ソニー創立50周年記念

歴史・ソニーJapanhttps://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/(2021年3月10日検索)

(5) https://www.nintendo.co.jp/(2021年3月10日検索)

(6) https://www.woven-planet.global/jp/woven-core(2021年3月10日検索)

(7) https://www.woven-planet.global/jp/woven-alpha(2021年3月10日検索)

(8) https://www.playstation.com/ja-jp/ps5/(2021年3月10日検索)

(9) https://www.nintendo.co.jp/character/mario/(2021年3月10日検索)

(10) https://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.html(2021年3月10日検索)

日本語

今井賢一他(1982)『内部組織の経済学』東洋経済新報社.

清家彰敏(1995a)『日本型組織間関係のマネジメント』白桃書房

清家彰敏(1995b)「自動車産業の高度成長とプロセス・イノベーション」野中郁次郎・永田晃也編著『日本型イノベーション・システム』白桃書房

清家彰敏(1999)『進化型組織』同友館

清家彰敏(2002)『顧客組織化のビジネスモデル』中央経済社

英語

Hayek,F.A.(1945)”The Use of Knowledge in Society”,American Economic Review,Sept.

Hippel,E.(1988)The Source of Innovation,Oxford Press,NY.

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Williamson,O.E.(1986) Economic Organization:Firms,Markets and Policy Control,Wheatsheaf Book Ltd,1986.

(組織学会2021年度研究発表大会 2021年6月5日オンライン大会報告)