2013年12月21日土曜日

組織間関係における競争構造――中国政府との共同研究

組織間関係における競争構造――中国政府との共同研究


○清家彰敏(富山大学)・馬淑萍(中国国務院)



1.序論
本研究は、中国政府と日本側研究グループにおける「日中産業競争力比較」共同研究2013年~2015年の基礎となる研究である。日本の有力企業は巨大な企業集団を作っている。中国の「中央企業」と呼ばれる中核国有企業100社は巨大な企業集団を作っている。
この企業集団に属する各企業の関係は、組織間関係論で理解される。本研究は、「競争」が組織間関係において、どのような機能を持っているかを問題とする。組織間関係の中の企業群は協調と同時に競争であり、また複社発注、委託車種配分などで競争させられる関係である。
 本研究は日中の企業集団における組織間関係において、競争の持つ機能と構造、管理、日本企業が優れた面については中国企業への理論移転について考察する。

2.日本政府における大蔵省主計官の査定と産業の特徴
 大蔵省(財務省)主計官の投融資ミックスを考慮する査定は、通商産業省など各省庁の原課の要求を通じて産業をドライブし、競争力を形成してきた。プロジェクトの規模総額を大きくするには、返済義務のある融資・借入の比率を増やせば大きくなる。その査定が戦後産業競争力形成の歴史を作った。
例えば、鉄鋼業は、最新技術を追求した大規模設備と投融資における借入の比率の大きさが産業競争力と企業間の激烈な競争の原因となった。企業の借入金の大きさは損益分岐点を押し上げ、高い操業度でなければ利益が出ない。操業度を上げるために、どの企業も最先端技術を追求、最有望市場の開拓を常に優先する。その結果、投資の矛先は時代ごとに刻々と変化せざるをえない。企業は、矛先をどちらへでも柔軟に変えうるように、多能かつ同質な組織になっていく。多能で同質な企業は棲み分けができないから相互に猛烈な競争を繰り広げる。
また最先端技術、最有望市場を狙ったインフラ、設備投資は、大蔵省(財務省)主計官の査定において好印象となる。主計官は、投融資ミックスで、返済義務のない予算、金利の安い政府系銀行の財政投融資の比率を高くし、プロジェクト、企業の返済負担を減らす。これが、主計官が日本の産業競争力を作り上げることに貢献してきた構図である。
 投融資における借入金の大きさがもたらした鉄鋼業の特徴は、造船、自動車、石油化学、電機業界、建設業などにも見られ、日本産業の特徴となった。この特徴の形成に主計官の投融資ミックスの影響が大きかったと思われる。このような企業間の多能化、同質化の競争は敵対関係における多能化、競争である。本研究は仲間同士、企業グループ内の多能化と競争化の利益について論じる。

3.日本の企業グループ
 日本の企業グループは、製造業では、①親企業が系列の部品企業から部品の安定供給を受ける。②内製化した場合の財務的、人的負担を軽減し、親企業本体をスリムにできる。③親企業は部品企業との間で、安定した受注と技術・経営指導、資金援助、長期計画など多面的情報提供を受ける。④技術の共同開発、改善、イノベーション、生産・物流の同期化(世界に広がる工場・サプライチェーンのジャストインタイム)を行う。企業グループは市場と組織の中間的存在であると規定できる。市場利用のコストより安いコストで取引が可能な場合には、組織化して生産要素を入手したほうが有利になる[1]。企業グループは市場を組織化する戦略の結果作られる。
製造業の企業グループは、親企業が部品を組み立てて最終製品を造るピラミッド型と親企業が先端素材・先端部品を多様化させて供給する逆ピラミッド型がある。ピラミッド型はトヨタ生産方式に代表されるトヨタグループが代表である。逆ピラミッド型は新日鉄住金グループが代表である。新日鉄住金の高炉が造る鉄鋼を全産業に供給する際、用途に合わせて加工する企業群である。ピラミッド型は規模の経済が、逆ピラミッド型は範囲の経済がグループの原理となる。ピラミッド型はトヨタグループが完成型のひとつと考えられるが、逆ピラミッド型はまだ未完の型で今回の日中産業競争力研究の課題と考えている。例えば、パナソニックがサムスン、アップルへ先端部品を供給する際、膨大な技術資源を活用し、顧客ごとに先端部品子会社を分社し、逆ピラミッド型グループを構築することは合理的である。

4.仮説
1)日本企業は、構成員に長期間にわたり競争させ、合理的な行動を組織構成員に行わせる。
2)日本企業の人事制度「ジョブローテーション」は構成員の多能化、汎用化、互換化を進める。
3)競争相手が増えるため競争は激しくなる。長期雇用のため、構成員間で長期間競争が起こる。
4)長期間競争は、企業の内部組織において、構成員に出世競争、改善競争、イノベーション競争を行わせ、企業は長期間連続的に革新される。
5)企業グループの経営においても、各企業を競争させ合理的行動を行わせることが可能である。
6)各企業を多能化、汎用化、互換化させることは、競争構造をつくる。
7)多能化することで競争相手が増加し、日本型経営の強みが内部組織の境界を越えて広がり、強みが企業グループ全体(組織間関係)でも発揮される。
8)長期間競争は、グループ全体の効率化、イノベーションを実現する。
9)柔軟な戦略が行えるようになる。

5.競争の企業グループにおける理論
日本企業におけるジョブローテーションは、入社から退社まで構成員を2年から3年のサイクルで人事異動させ、構成員の多能化、汎用化、互換化を進める。構成員は連続的に競争を続ける。競争は企業における効率的な生産方法を発見する[2]。また組織における権益と権限の不当な行使、機会主義的行動は「組織の失敗」をもたらす。組織の失敗も競争化は防ぐ。ハイエクから敷衍すれば、競争は個人だけでなく、企業などの組織に対しても生き残るための合理的な行動を強いる。
競争が企業に合理的行動を強いる。企業は合理的な存在ではなくても、経済競争で生き残るためには合理的でならざるをえない。ジョブローテーションにおける長期間競争が個人に合理的な行動を強いるように、企業に対しても合理的行動を強いることが可能である。それが、企業グループ内の購入部品における複社発注構造であり、トヨタグループで1980年代から機能した自動車の委託・受託競争構造「ボディローテーション」である(清家)。どちらも競争によって企業に合理的行動を強いる。競争を行わせるために、企業を多能化、汎用化、互換化しようとする構造が構築される。

6.企業互換部門と競争構造

 企業グループに参加する企業間で競争させることは企業に合理的な行動を行わせる。そのためには、以下の構造が考えられる。以下は、白桃書房他のトヨタグループ(清家(1995)『日本型組織間関係のマネジメント』白桃書房、佐伯(2011)他[3])の事例研究から帰納した。「企業を多能化、汎用化、互換化し、競争構造を構築する」ための組織設計理論つくりを意図する。

  グループ内の各企業が共通な部門を持つ。部門の例は技術部、工場、品質管理部、営業部。
  グループは企業を「行」とし、部門を「列」としたマトリックス構造である。
  各企業の部門間で横断的に情報を共有する(グループ横断会議・連絡会・研究会)。
  各企業の社員は、入社から退社までグループ横断会議・連絡会・研究会に参加し、仲間意識を持つ。
  グループ横断会議・連絡会・研究会ではグループ全体の情報を公開する。
  グループ横断会議・連絡会・研究会は部門・階層(参加者の役職)のマトリックス構造となる。
  各企業の部門をグループ内で互換性のある存在、互換単位化させる。互換部門。
  グループは企業を「行」とし、互換部門を「列」としたマトリックス構造になる。
  同じ実験ができる技術部、同じ製品が作れる工場、同じ製品を営業できる営業部へと変化する。
  競争基準として、品質・コスト・納期・安全とイノベーションなどの指標を可視化する。
  より競争基準の達成度が高い互換部門へ優先的に発注、注文が行われる。
  弱い互換部門の排除のメカニズムが働く
  競争基準と情報共有、情報公開によって各企業の互換部門間で競争が起こる。
  互換部門間の競争は、互換部門に合理的な行動を強いる。
  競争構造は、部品の複社発注などの複数互換部門間の競争から、全企業全互換部門の競争まである。
  グループ企業内の競争を継続させるため、弱い互換部門への指導、教育をグループ全体で行う。

このグループ内競争構造を維持するために情報の公開・グループ内共有が必要となる。市場では、情報の不完全性によって、成長可能性を秘めた産業、企業、事業、個人へ適切な資金が集まらないという「市場の失敗」がある。しかし、グループ内では市場と異なる情報公開の手法を内包することが可能であり、情報の不完全性を解消して、優れた互換部門へ経営資源を集めることができる。

7.情報の不完全性の解消と競争力

  グループの上位主体(親企業)はグループ各企業の互換部門に対して、他の企業の互換部門の情報を「競争の基準」として提供、全グループに公開する。
  上位主体(親企業の)の互換部門の情報も同様に公開する。
  構成員の心理は常に「競争相手は強力」であるという意識である。
  また常に自己の所属する互換部門は完結しておらず「不十分」な存在として認識される。
  したがって、常に課題を互換部門に対して持つことになる。
  他企業の互換部門に対し、不利な条件で競争を行わされているという「被害者意識」も発生する
  これらは競争と成果についてポジティブに機能する。学習における「良い意味での競争者の存在」と「コンプレックス」が起す過剰適応としての学習ドライブで説明できる。
  競争はどの部門が優れているか、どの部門がもっとも巧みに実行できるかを発見する仕組みである。
  互換部門間競争は過剰適応をもたらすため、上位主体から構成員に対しての「動機づけ」の必要は減少する。管理は楽になる。
  前出の「グループ横断会議・連絡会・研究会」から課題が継続的に発生、前向きの改善、解決が行われ、イノベーションが起こる。
  互換部門の構成員の心理は「欲望なき競争、競争の自己目的化」で説明できる。個々には競争が始まる前に野心があったはずであるが、野心は消えて、競争に勝つこと自体に満足を覚える[4]
  このような満足は遊戯に見られる競争に似ている。製造業、小売流通業など業種を問わないでみられる。セブン-イレブンの「おでん部会のチームMD」など商品開発競争とイノベーションを楽しんでいる。商品開発などの場を楽しむ、「遊戯」への欲求から生じてくる競争心が生まれる[5]
  グループ内における情報の不完全性の解消は、各互換部門の経営資源の可視化、アクセスの容易さの向上で、イノベーション創出力や製品開発力を高めて競争力の源泉となる[6]

8.互換部門の競争力と「仕事量」の公平な分配

互換部門はより互換的であることが組織間関係において競争優位を獲得する根源である。この点で、グループ内競争構造は、野中(1990)のいう同質化競争である。多くの労働者が同じ内容の職務を経験していくことによって、熟練の内容が同じように幅広くなるため、労働者間の代替性が高まる。労働者間の代替性が高まれば、職場内の人員配置がより柔軟になる。また労働者間の競争を強める。
上位主体(親企業)からのグループ企業への仕事量(発注額)は「被害者意識(不公平感)」を最小にする。これは必ずしもトップダウンではなく、グループ内での調整・合議決定も合理性を持つ。グループ企業は上位主体に対して分配の決定に欠かせない情報提供をいとわないことが、長期的には利益になることを認識している。

9.小売流通業への応用の可能性

 小売流通の企業グループで代表的なのはセブン-イレブン・ジャパンである。トヨタ生産方式は世界中にまた全産業に伝播したが、セブン-イレブンもその影響を強く受けている。2013年現在、全国1万6千店(米国8千店、タイ・韓国7千店、台湾5千店など世界合計5万店)、全国年間売上3兆5千億円、国内従業員6千人である。
コンビニエンスストアは100平方メートル台の売り場に3000品目の商品を取り揃える。立地はマーケットのあるところに競合店がある無しに関係なく、出店し、競合店を超えることを目標にする。店舗の改善は経営相談員中心で行い、店のオーナーと改善を行う。これらのチームは競争と多能化を志向している。
多品種少量在庫販売に対応し、配送の多頻度化、短いリードタイム、小さな発注ロット、製造・納品日付や商品管理温度帯の特定、ゼロ欠品状態、納品時間帯の指定などを供給業者へ要求する。オリジナル商品は、おにぎり、サンドイッチ、惣菜、サラダ、菓子、カップラーメン、アイスクリーム、化粧品など商品の半分以上を占める。
また競争下で独自開発ブランドの新商品開発とその商品の生き残りを目指し、部会チームMDが競争を行う。新商品の開発はもっとも開発力の高い企業が中心となる。毎週100品目新商品を発表する。
例えば、ロールパンの新商品開発の部会のチームMD(マーチャンダイジング)は190円の手作りパンを開発とかを手がける。商品本部は「真似の上を行く」開発目標をつくりチームを牽引する。チームには武蔵野フーズ、北海道産小麦粉などの食材メーカーが参加する。

11.結語

仮説について以下が検証できたと思われる。
1)              日本企業は、構成員に長期的競争を行わせ、合理的な行動を組織構成員に行わせる。長期雇用に立つジョブローテーションは構成員の多能化、汎用化、互換化を進め内部組織で長期的な競争が起こる。
2)              企業グループにおいて、企業の部門を多能化、汎用化、互換化させることで、内部組織における日本型経営の強みが企業グループ全体でも発揮される。長期的競争を各企業、各部門に行わせ、グループ全体として合理的行動を行わせる。競争構造をつくり、柔軟な戦略が行えるようになる。長期的競争は、グループ全体の効率化、イノベーションを実現する。

今後検証を行う課題として以下をあげる。

1)日本企業は、現場、大衆が多くの改善、開発などのイノベーションを行う。しかし、ソニーなどではガラパゴス化でむしろ企業経営にとってマイナスとも言われる。またセブンイレブンの毎週100点の新商品は発展の源泉となっている。その違いはどこにあるのか、日本産業の競争力をあげるために何をなせばいいか。日本の産業内の過当競争、現場の開発競争がもたらすガラパゴス化は、海外との連携では長所となるのではないか。
2)世界において、グローバル化の程度が低い日本企業とドイツ企業がもっとも産業では成功している。
それはなぜか。


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