2021年12月8日水曜日

 新型コロナ政策による人事分断とコンフリクトーー日本型経営品質の挑戦

 

   富山大学名誉教授・ハリウッド大学院大(六本木ヒルズ)

   (元財務省財務総合政策研究所特別研究官・元北京大学客員教授)

        清家彰敏

 

序章

本稿は新型コロナによる行政と企業の対応によって、企業はオンライン化を迫られている。個人化の潮流とデータ処理能力によって従業員の人事分断が起こり、組織内にコンフリクトが起こっている。それに対して経営者、人事部門が対応を誤ると、顧客満足と従業員満足の統合を基盤とする日本型経営品質の強みが失われる可能性があり、人事分断とコンフリクトによって、変容を迫られている企業の現状について経営品質の視点から考察する。次に、このコンフリクトに対して前向きに対応する日本型経営品質とはどうあるべきかについて、提案を行う。特に、現在経営学で世界においてテーマとなっているデータサイエンス視点を加えて提案を行う。

 

2企業内におけるコンフリクトと人事分断

新型コロナ感染は、感染拡大と収束が波状的に起こり、国家、地方自治体の政策担当者は初めての経験のため、場当たり的な政策が繰り出されている。政策への対応は企業においては産業と企業業績によって大きく分かれ、同じ産業内、産業間でのバリューチェーンの分断が起こっている。新型コロナによる巣ごもり仕事では、個人として自立できている社員にとって、居心地の良い場が作られる。逆に個人としての自立ができていない社員にとっては苦痛である。

現代社会の様相を表す言葉として1990年代後半以降,「個人化」ないし「個体化」 individualizationという概念が用いられるようになった[1]1960年代の高度経済成長は地域共同体を衰退させ家族を孤立させた。1970年代後半までは家族、学校、企業が衰退する地域共同体を補完した。乾彰夫は1990年代からの新規学卒就職の崩壊および若年労働市場の不安定化と格差化によって、生徒・学生から就職し、社会人となり親の保護からはずれた存在となるという青年期の枠組みが解体したと指摘している[2]。家族、学校の衰退に加え、新規学卒一括採用が崩れ、最後の砦の企業も、終身雇用・年功序列が崩れ始めている。

ベックは「福祉国家による近代化のなか,前代未聞の射程範囲と力学をもった社会の個人化が始まった。[3]」として、伝統的な階級による諸制約や家族の扶養から解放され、「マルクスの言う『窮乏化による階級形成』あるいはウェーバーの言う『身分による共同体化を通じての階級形成』[4]」は破壊された。渋谷望[5]は,ケインズ主義的福祉国家において標準的なライフコースとして理念化されていた「画一的」な労働者の生き方そのものが、多様でフレキシブルなものへと脱構築されるとしている。個人は自立せざる得なくなったのである。

竹内常一は、1970年代には日本型集団主義によって子どもは学力だけでなく、「心」「肚」のような人格的特性までを含めて総合的に囲い込まれることになり、学力に加えて忠誠競争をさせルことに対して矛盾が噴出し始めたとしている[6]。この問題は日本型集団主義の日本企業において、1990年代以降同じ現象が起こっており、新型コロナによる巣ごもり仕事はそれを助長したと考えられる。

コンフリクトは1990年代から始まった企業組織における「個人化」の現象で個人化に先行する構成員と集団の原理を維持しようとする構成員間で徐々に加速化していた。そのコンフリクトが新型コロナによる巣ごもり仕事によって、顕在化したのである。社会の「個人化」は、「親密圏の変容」に繋がり、組織の中に大きなコンフリクトを起こしている。「親密圏」は、福祉国家のもとでは、承認をめぐる闘争の場と化す[7]。「親密圏の変容」という事態は、社会意識に共同体指向と個体指向の二極化を生み出す。二極化は、個人化の潮流と新型コロナによって、人事分断に繋がり、組織にコンフリクトを起こす。経営品質における従業員満足を大きく低下し、社員の人間形成にまで困難をもたらしている。

 

3一人起業・一人企業化による従業員満足と経営品質

現在、起業は盛んに行われており、人事分断によるコンフリクトを社外への排出によって解消する手段となる。新興企業の多くは経営者個人の能力から起業しており、一人起業が多い。携帯電話、個室は個人が起業するインフラとなっている。海外から投資を集めている日本のベンチャー企業の多く[8]は経営者個人が世界から注目されている。

個人化の潮流と新型コロナなどによる人事分断がもたらすコンフリクトを解消する手段として、企業内における一人企業[9]について、ソニーなどを事例として取り上げた。成熟社会となった21世紀においては社会、集団内での自己実現の場は少なく、ゲームによって個人は仮想の自己実現をするようにもなっている。一人企業はコンフリクトの解消だけでなく自己実現を現実に達成することを助ける。

本稿で主に人事分断によるコンフリクトの解消と経営効果で提案するモデルは、個人化の潮流の中での一人開発、一人生産、一人営業である。個別の活動の促進によりコンフリクトは確実に解消される。

一人開発の事例はアイリスオーヤマの成功であり、経理的独立は京セラのアメーバ組織で実現できている。日本企業の海外企業に対する相対的コスト高と低賃金は集団作業の結果である。一人でやれば良い仕事を集団で行えばコスト高になり、分配によって低賃金になる。個人化が進んでいることは、コンフリクト解消のコストと調整作業によるコストが過去より急増していることを意味している。この結果が30年の日本経済の低迷と無関係ではない。

インターネット上に情報が溢れる現在、経験豊富な開発者にとっては、成熟市場でプロトタイプが確定されている商品の集団開発による調整と合意獲得は煩わしい作業である。集団開発は開発者が苛立ちを感じるだけである。革命的な商品以外は、生産、営業の情報も必要ない。若い開発者が何度か経験すれば世界でもっとも低価格な商品が実現できる。人事部門は一人開発をやりやすくするため、集団開発の現場から不要な人員を異動させるべきである。

一人生産は、生産の現場を決定する人は経験豊富な一人にする。単純な生産現場を一人が追求する。革新的な生産システムが発明されない限り、集団での生産現場についての協議はない。生産技術部は解体、人員は異動すべきである。一人営業は、成熟市場であれば一市場一人で、集団協議はなくてもやれるはずである。異動人材は国内新市場開拓か、海外市場開拓を担当する。

一人開発、一人生産、一人営業において、重要なことは、3人以外はビジネスコストに算出しないということである。そうすれば、海外の特に日本の競争相手である韓国、台湾、中国のビジネスコストより安いコストで商品が提供できるはずである。世界シェア45%のYKKはファスナーの生産で中国では2割のシェアしかとれない。その理由は高コストであるが、3人ビジネスにすれば、コストで競争できる。

一人起業・一人企業化によってコンフリクトが解消され従業員満足が得られ、加えてコスト競争力も向上する経営品質が実現可能となる。個人化して、一人企業になると、その支援を情報通信がすることになる。特にオンラインでの仕事環境は一人企業の支援インフラとなる。

新型コロナ感染拡大の際に、優良企業のオンライン業務への移行は徹底している。世界企業のY企業は、政府が緊急事態宣言解除後も人事部門は従業員の安全を勘案し、緊急事態の継続、オンラインでの業務を全社に指示している。それに対して、業績の悪い企業は特に営業サイドの従業員など業績に関わる部門に出社を期待し、また取引先の要請に応えて外出せざるを得ない。この結果、オンラインの仕事環境、データ処理能力(データサイエンス)の差が多くの企業、事業の業績をK字に分化させている。

 

4データサイエンスと従業員の個性を生かす経営品質

 21世紀の日本は成熟社会になり、生活の質を向上させる、人生100年時代できるだけ健康寿命を長くし、若々しく生きたと願う人が多くなっている。全国津々浦々、できるだけ若さを保つことが価値になってきている。お若いですね、が最高の褒め言葉となってきた。 外見の若さを保つビジネスを担うのは美容、化粧品、美容医療などでありビューティビジネスと言われる。体質の若さを問うビジネスは、医食同源で語られる。本稿では、特にビューティビジネスにおけるデータドリブン、データサイエンスについて考察してみよう。美容は一人企業の典型である。また化粧品企業の美容部員も個人の美的センス、一人企業と言える。

 SDGsと新型コロナウイルスの影響で顧客は習慣や商品の購買は適切なのか、見直し始めている。ビューティビジネスは顧客、従業員、経営者自身の健康・美容・容姿・服飾・仕事・生活・趣味遊戯について、データで見直すところから始まる。

 データ至上主義の時代「ユヴァル・ノア・ハラリらによって論じられている、人類には自由な意思など無い」ともいわれる社会ではデータがビジョンを描く。

 SDGsで社会、ビジネス経営者に目標が与えられたときもデータドリブンであることは言うまでもない。データドリブンの時代に経営者、美容室の店長、企業、化粧品企業の社員は機械学習と連携する作業を要求される。

 機械学習や深層学習を使った画像解析やアルゴリズムの開発も行う。データサイエンス革命を主導するリーダーは、外部の大学や研究所などと連携をとり、研究課題の立案から実践まで幅広く業務を推進する。

データドリブンによるビューティビジネスにおけるデータの裏付けデータに裏付けられたビューティ理論の構築が求められ、製品・サービスと顧客の仕事・生活・趣味遊戯の関係の実証的研究が行われている。人体の研究:美容において人の皮膚計測などの医学的研究、化粧品の使用効果を人の皮膚で評価していく研究など多くのテーマが、研究課題となっている。データドリブンによるデータサイエンス革命がビューティビジネスで起こっていると規定できる。

データサイエンスの出力はバーチャルリアリティ(virtual realityVR)と拡張現実(augmented realityAR)が使われる。スマートフォンなどを顧客にかざすと、過去の顧客の画像と美容カルテが現れる。QRコードを読み取ると、スマートフォンのカメラを通じて現実の顧客に重なって次々現れ、もっとも好ましい髪型・メーキャップを選ぶことができる。

フェースブックでは、不適切な写真をAIが監視、自殺防止にも役立ている。テキストデータ、画像データを使った転移学習の事例である。フォースブックは、1日に投稿される100億枚の画像から、不適切な画像をAIで摘出している。人間にはいくら時間があってもできないような作業が必要な場合、AIは有効である。フェースブックはこのAIのアルゴリズム(転移学習)をフェースブックAIで解説している。画像からインサイトを抽出したいときの参考になる。データサイエンティストがビューティビジネスで、フェースブックのAIIBMAIワトソンを使うことも考えられる。

IBMAIワトソンは医師のカルテから世界中の症例を検索し、患者に最適な治療法の候補を医師に提示し、医師は治療を行うことができる。

この技術とIBMAIワトソンを使えば、顧客の顔写真の3D画像から世界中の多くの髪型でもっとも適した髪型候補を探しだし、美容師が顧客にもっとも適した髪型を選ぶことができる。

データドリブンのビューティビジネスは、データや統計技術を用いてエビデンスを提示する。

データの形式が同じであれば,全て同じような現象が起きていると期待したくなるが、結局のところデータを生成した背景は千差万別であり、その都度データの裏にある現象を解析する必要がある。

データドリブンの時代においては社員の個性が多様であるほど、データサイエンスの手法が生かされると思われる。

化粧品の株式会社コーセーのデータサイエンスは成功例のひとつである。コーセー先端技術研究室先端技術研究グループ数理情報研究ユニット伊藤理恵氏は「会社って同じ雰囲気の人が集まりがちなようなイメージだったのですが、コーセーは個がしっかりしていて、そこがすてきだなと思ったんです[10]」コーセーの先端技術研究室がデータサイエンスで効果を上げている理由は、社員の個性が光っているからとも言える。

データサイエンスと従業員の個性を生かす経営品質が実現可能である。

データサイエンスからの美容医学と個人化の流れの中で、個人の個性を生かす生配信を武器とした日の出医療福祉グループの事例について考察してみよう。

 

5日の出医療福祉グループアートメイククリニック&ミセルクリニック

医療技術は多くの研究データと内外で発表される論文によって、次々新しい施術が最先端機器と共に登場してくる。美容医療において、データサイエンスの利活用が懸案と考えられる。日の出医療福祉グループアートメイククリニック&ミセルクリニックの大西奉文病院長は、美容医療はあらゆる年代層にとって必要で、高齢者のアンチエイジング、男性の美容医療は特に大きな市場であり、社会活性化に繋がると考えている。周回バスによる地域全体の美容医療希望者集客と多数の先端医療機器揃えによって規模の経済を達成させ、外観、広告費や内装費などのコストを抑え、美容医療コストを大幅に低下させた。

兵庫県加古郡稲美町にて創設20年、地域に密着した医療機関の美容医療部門。地域に根ざした通いやすい美容クリニック。美容治療は保険がきかない施術が多く、広告費や内装費などのコストを抑えた。医療機関だからこそできるレーザー脱毛・シミ治療を多くの方に提供、シミ・くすみ・肝斑・ニキビ跡などに効果的で、機器は最新機器を揃えている。地域医療を超えた地域全体の若返りビューティビジネスである。

簡素な二階建ての建物である。

飾りのないフロアにアンチエイジング機器が一列に並べられている。

お婆さん、お爺さんが、周回バスから降りてきて、若返り治療を受けて、帰る。笑顔の大西奉文病院長が出迎える。彼の口癖は「早く安く」である。

美容医療は個人の美的センスが鍵となる一人企業である。医療脱毛と肌治療とアートメイク悩み・コンプレックスを解消する。特に美容皮膚科が提案するメディカルアートメイクは中核の医療技術となっている。メディカルアートメイクは、落ちないメイクである。皮膚の浅い層に専用のニードルを使用して色素を着色、タトゥーとは違い表皮部分に着色するので新陳代謝と共に徐々に薄くなり消えていくため抵抗感は少ない。アートメイクは医療行為であり医師の管理の下、医療従事者がアートメイクを行う。

施術は、①医療脱毛、②わきが・多汗症治療に加えて、③スレッドリフトはメスを使用せず、溶ける糸でたるみを改善、糸は体内に吸収される。

NMN点滴はNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は加齢に伴い体内での生産量が減る。NMNを摂取することで、身体の見た目や機能を回復する。

マイヤーズ・カクテル点滴は、米国自然療法医の定番で治癒力を高める点滴療法であり、ビタミンとミネラルの栄養素を多量に投与して、治癒力を高める。

⑥ヒアルロン酸は、シワの溝や凹みで影となっている箇所にヒアルロン酸を注入し、ボリュームアップすることでシワやたるみを改善する。

ほうれい線・シワ取り注射による、ヒアルロン酸治療は、無表情でも目立ってきたシワ・笑うとできる小ジワなど、肌に刻まれた気になるシワを簡単に改善させる。

HIFU HIFUリニアは、超音波高密度集束加熱により肌たるみの引き上げができる。

⑨ダーマペン4は、ニキビ跡やクレーター、小ジワ改善。16本の超極細針を電動振動させ皮膚に微細な穴を無数に開け、皮膚の創傷治癒効果で肌質や瘢痕を改善する。

 施術における眉アートメイクは女性だけでなく、男性に人気である。眉によって表情は大きく変わり、自身のイメージに合った、例えば男性的な強い印象を与える眉にして欲しいといった希望も多い。眉アートメイクでは看護師としての経験、医療知識に加えて美的センスが求められる。ストローク(3D・毛並み)11本毛並みを描き上げることで、ナチュラルな眉を実現させる。オーダーメイド(4D・毛並み+パウダー)は、ストロークで毛並みを施した後、パウダー眉の技術を用いて陰影を部分的につけていく。地毛となじみが出て、より自然な眉となる。

松岡佑美子看護師は専門職能、一人企業である。「アートメイクにおいて、等級が『アーティスト』であるが、さらに上級のアーティストへの道を目標にしている」とのことであった。この施術は男性が急増しており、男女ともに美容医療がトータルビューティへ革命的な変化をもたらす可能性がある。理想の眉毛 男性顔の印象を変えたい。

医療データを解析し大西病院長は最先端機器の導入と顧客情報から施術環境を向上させている。アーティストの松岡看護師は、優れた顧客とのユーザー・サプライヤーインタラクション(Hippel,E1988))によって知恵を創造し、新しい施術を工夫し、技能の向上を計る。データドリブンと個性の両立が成立している。

営業において個性が輝くのは生配信である。日の出医療福祉グループのミセルクリニックは、インフルエンサーによる生配信へも挑戦しようとしている。クリニックの開店において、インフルエンサー以外の広告手段を使わなかった。武器としての生配信である。新型コロナなどにより直接顧客に対面する機会が減り、インフルエンサーの生配信は貴重な情報となる。

顧客サービスは対面とオンラインがある。対面の減少はサービスの標準化、マニュアル化を進める。企業から顧客へのオンラインによるサービスは顧客それぞれに対応するよりは、生配信によるインフルヱンサーに依存するほうが合理的で、効率も高い。規模の経済も期待できる。インフルエンサーの生配信による顧客の囲い込みが起こり、顧客を多く持っているインフルエンサーの獲得数が成功の鍵になる。

インフルエンサーは国家を超え、仮想空間内の集団で、商品・サービスでリーダーシップを取るようになっている。感染症でリアルな交流が遮断されると、仮想集団におけるインフルエンサーの影響が強くなる。営業はインフルエンサーのビジネスプラットフォーム作りであり、インフルエンサーの選定、育成を間違えると売上が大きく下がる

 

6.討議と結論

 コンフリクトは1990年代から始まった企業組織における「個人化」の現象で個人化に先行する構成員と集団の原理を維持しようとする構成員間で徐々に加速化していた。そのコンフリクトが新型コロナによる巣ごもり仕事によって、顕在化、したのである。

「親密圏の変容」という事態は、社会意識に共同体指向と個体指向の二極化を生み出す。二極化は、個人化の潮流と新型コロナによって、人事分断に繋がり、組織にコンフリクトを起こす。経営品質における従業員満足を大きく低下し、社員の人間形成にまで困難をもたらしている。人事分断によるコンフリクトの解消と経営効果で提案するモデルは、個人化の潮流の中での一人開発、一人生産、一人営業について提案を行った。個別の活動の促進によりコンフリクトは確実に解消される。

その事例として、ビューティビジネスにおけるデータドリブン、データサイエンスについて考察し、美容と化粧品企業の美容部員も個人の美的センス、一人企業を事例として、日の出医療福祉グループを研究した。大西病院長のデータドリブンで戦略を展開し、松岡看護師個人の個性を生かし、営業でインフルエンサーの個性を生かす生配信について考察を行った。人事分断とコンフリクトによって、変容を迫られている企業の現状を考えて、このコンフリクトに対して前向きに対応する日本型経営品質について議論が必要である。日の出医療福祉法人は、データサイエンスを活用し医療情報と顧客データを生かし地域全体の顧客満足を実現し、従業員満足に美容医療で一人企業を、営業のインフルエンサーも一人企業である。二極化、人事分断はなく、コンフリクトも解消されている。ビューティビジネスだけでなく、今後多くの産業、ビジネスへ示唆を与える事例であると思われる。

 

終章

新型コロナによって、企業では従業員の二極化、人事分断が起こっている。人事分断は組織内にコンフリクトを起こしている。それに対して経営者、人事部門が対応を誤ると、顧客満足と従業員満足の統合を基盤とする日本型経営品質の強みが失われる可能性がある。人事分断とコンフリクトによって、変容を迫られている企業の現状について経営品質の視点から考察した。実はこのコンフリクトは社会、企業における個人化の傾向が底流にあることについて検討し、次に、このコンフリクトに対して前向きに対応する組織とはどうあるべきかについて、一人企業のモデルの提案を行った。特に、現在経営学で世界においてテーマとなっているデータサイエンスの視点から事例をあげて論じた。



[1] 日本社会学会の『社会学評論』Vol.54No. 42004年3月)は,「『個人化』と社会の変容」 の特集を組んでいる。

[2] 乾彰夫「<戦後的青年期>の解体-青年期研究の今日的課題」(『教育』国土社,2000年3月号所収。)

[3] ウルリヒ・ベック『危険社会』東廉/伊藤 美登里訳,法政大学出版局,199810,p138

[4] 同上,p168

[5] 渋谷望「<参加>への封じ込めネオ・リベラリズムと主体化する権力」(『現代思想』青土社,1999年5月,p95。)

[6] 竹内常一『子どもの自分くずしと自分つく り』東京大学出版会,1987年7月。

[7] 澁澤透(2011)「社会の「個人化」と教育学的発達研究の課題 -人格発達論と自己形成論との架橋-」Journal of The Human Development Research, Minamikyushu University 2011, Vol. 1, 43-55

[8] 新興企業買収額海外勢が過半にhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC221ID0S1A920C2000000/(2021年1017日)

[9] 清家彰敏(1999)『進化型組織』同友館の「一人企業」概念である。この概念は企業から外へ出て、組織間関係を多くの企業と連携して形成しビジネスを行う一人だけで活動する企業について、その合理性で説明した。

2021年10月16日土曜日

社会の変化と日本官僚組織の変化  

            社会の変化と日本官僚組織の変化

           富山大学・ハリウッド大学院大学 

                清家彰敏

序章

 本稿は元大蔵事務次官(現財務省)・元国務大臣の相沢英之氏、元通商産業事務次官(現経済産業省)・元参議院議員の矢野俊比古氏らのオーラル(伊藤隆東京大学名誉教授・清家彰敏、伊藤・清家(2021))など、経済産業省などに繋がるオーラルを資料とし、論者が財務省財務総合政策研究所特別研究官、文部科学省科学技術政策研究所客員研究官と政治家・官僚・経営者・非営利団体代表などと交流を行ってきた経験を下に、官僚組織の変遷と将来について考察を行う。

研究のフレームワークとして、本稿は、時間軸における過去・現在・未来の3つの社会変化が、どのような組織変化をもたらしているか、を論じる。空間軸においては、政府と営利組織と非営利組織は相互作用を与え合い、補完し合い、起業と廃業の生滅を繰り返し、学習模倣しあってきた。現在は政府と営利組織は海外との関係で分断が行われターゲットポリシーは民主主義成熟国家として行えない。それに対して政府と非営利組織は連携が社会から期待されている。日本社会は欧米へのキャッチアップを目指した戦後復興、高度成長時代は夢を追った。その後の民主主義成熟の時代は個人の既得権を守り現在に至っている。

2.過去 高度成長期

高度成長期の自由民主党55年体制の下では官僚主導型政治といわれた。政治は欧米諸国へのキャッチャアップを目指し、国民は欧米諸国の生活を理想とし、官僚組織は欧米モデルを追求しやすいように、ボトムアップダウン型になった。官僚組織は、戦前戦中の統制経済の組織モデルで、目標が戦争遂行から米国のキャッチアップに変わった。終身雇用、年功序列であり、民間企業と異なり省庁ごとの組合による組織ごとの賃金体系は成立しなかった[1]

この構造において、官僚は、高度成長期前半は事務次官までジョブローテーションを繰り返し50代前半で昇進し、50代後半には選挙を経て大臣、総理となった。世界の変化は日本政府の変化をもたらし、日本社会の変化をもたらしてきた。この社会において官僚組織は自由と民主主義の下、変化し続けている。バトワール(2019[2]によると、通商産業省事務次官は1950年代後半入省後24年、60年代前半28年、後半29年、1970年代前半31年、1976年退官まで32年と昇進は遅くなっている。22歳で入省して54歳で第2の人生へ向かえる。

高度成長期においては、官僚は内部組織でドラッカーのいう長期的競争の原理で職務を遂行した。矢野元通商産業事務次官の場合1948年入省13年で8部門ローテーションし62年課長、1.5年強に1回ローテーションで課長になった。73年審議官へ昇進、10年間で7回異動、1.5年弱に1回である。80年事務次官、81年退官。事務次官まで64回異動で1.5年に1回異動である。平均1.5年に1回のローテーションである。

組織間関係では、政界、外郭団体、業界と連携した。長期的競争での最終勝者は事務次官でその後政界へ転出した。相沢元大蔵事務次官の場合は局長になって8年間に5回異動、事務次官は1年間で、74退官、平均1.5年に1回である。この間田中角栄総理など歴代総理と財政のパートナーとして活動、76衆議院議員、90国務大臣経済企画庁長官になり03総選挙で落選まで27年間活動した。退官者は外郭団体、業界へ転出した。

護送船団方式と言われた官僚組織は、組織間関係の他省庁、外郭団体、業界の担当者とヒッペル(1991)のユーザーサプライヤーインタラクションで新しいアイデア、政策、制度を創出してきた。今井・伊丹・小池(1982)の中間組織は大蔵省から始まり官僚組織から産業界まで日本全体で成立していた。矢野(1982)の「日本株式会社」である。

高度成長期の構造は、①受益者側は業界で、業界は欧米へのキャッチアップを目指し計画と要望を作り、②各省庁のイノベーション担当者がその要望を取り上げ、それを、③各省の大臣官房の計画の枠の中で、④各省の資金課が取りまとめ、⑤大蔵省主計局の主計官が財政投融資、市中銀行融資も考慮して予算を査定し、⑥業界がそれぞれの企業の計画に基づき実行を行い、⑦その成果を各省庁が評価し、⑧業界を各省庁が行政指導を行い、その後フィードバック①以降を繰り返してきた。護送船団方式といわれた構造である。

各省庁は経済を加速させるアクセル官庁(俗称)と規制を強め経済を減速させがちなブレーキ官庁(俗称)に分かれる。各省庁資金部門は所管産業から情報を集める(ボトムアップ)。各省庁資金部門は大蔵省主計局に情報を集中させる(ボトムアップ)。大蔵事務次官、主計局長は政治家と協議、予算の大枠を決定(トップダウン:配分の決定)。主計主査による各省庁の予算・投融資の査定(ミドルアップダウン)。主計局次長・主計官から主計主査によるフレキシブルトップダウン縦調整が行われた。主計官間のネットワーク組織横調整である[3]。年功序列は変わらず、人事は長期競争による昇進と系列(外郭団体・民間)への転出、それによる系列組織強化であった。

省庁は、通商産業省などの業界を所管するライン官庁と科学技術庁などの業界を所管しないスタッフ官庁に二分された。各省庁間では人事交流があり大蔵省入省で他省の事務次官になることもあった[4]。また通商産業省に代表される業界を支援する「アクセル官庁」と規制する「ブレーキ官庁」に対して予算による調整が大蔵省となった。ブレーキ官庁の規制から逃れる情報を通商産業省産業資金課が業界から集め大蔵省に上げ、ブレーキ官庁を押さえる予算査定で、高度成長が加速されることも多かった。

この構図は、ターゲッティングポリシーが許されるキャッチアップ型国家の段階まであった。日本が世界の民主主義成熟国家(本稿で現在の日本を「民主主義成熟」国家と定義)として世界の主要国となってからは、海外と社会の変化に合わせて官僚組織は変化した。

3.民主主義成熟時代

1980年代以降ベンチャー投資ブームが起こった。この主役は通商産業省である。大蔵省の財務支配からの脱出をもアクセル官庁は試みる、その典型が通産省ベンチャー投資ブームである。権限の一部が、大蔵省主計官から通商産業省へ移った。NTTの民営化による株式売却収入を原資とした基金で、通商産業省は研究開発等への出資を行った。組織間関係でのインタラクションは通商産業省の機能である。民主主義成熟時代の組織は、終身雇用組織が米国よりの外圧による産官分離でネットワーク分散型組織へ、社会における派遣社員の登場と急増の社会現象が起こった。1991年のバブル経済崩壊以降、政治主導型が強まった。国民は安寧な生活でリスクを避け、政治に無関心で、既得権が非常に多くなった。政治は欧米との競争の時代となり、トップダウンの大統領制を理想とし、中曽根康弘内閣、小泉純一郎内閣において、大統領型の総理が議員内閣制下で行われた。

総理のリーダーシップは、日本経済の拡大とともに、海外の政治指導者、巨大企業経営者との緊張の中で徐々に強化された(牧原出,2013)中曽根康弘内閣(198211月~8711月)はリーダーシップ強化、内閣強化として、官房長官を各省に対して優越させ、審議会などを活用した。橋本龍太郎内閣(19961月~987月)は省庁を削減(城山・細野,2002)し、内閣に特命担当大臣を設置し、各省を越えた政策決定、調整を行わせた。大蔵省が解体され、1990年代からの護送船団方式への内外の批判と行政改革により、財務省、金融庁に分離し、予算・財政投融資と銀行融資の分離が起こった。小泉純一郎内閣(20014月~069月)は内閣官房に企画権限を付与し、各省庁に基本方針を出した。主計官の機能は剥ぎ取られ縮小されたが、投融資ミックスの司令塔として、内閣の経済財政は財務省出身の首相秘書官が担当した。内閣官房は200名から800名へと拡大させた。

第2次安倍晋三内閣(201212月~)は、官房長官が全体を掌握し、可能な財政政策の範囲で、公約に掲げられた項目について諮問機関の審議で意思決定を行った。官僚組織は政治主導のトップダウンのブレイクダウン型組織へと変化していき、安倍晋三内閣において、人事は人事局によって、政治による審議官以上の選別が行われるようになった。また官僚が、各省庁のキャリアコースから政治任用で外され、官邸、内閣府で政治家の下で働くケースが多くなり、内閣府は数倍以上に巨大化した。官僚が、省庁を早期退官し、政治家、民間企業、ベンチャーを起業するケースが増加し、インフォーマルながら官僚採用市場も登場した。また大臣によっては、官庁の性質をトップダウンによって、変化させる事例も出てきている。例えば、2019年9月から2021年10月の小泉進次郎環境大臣はスタッフ官庁である環境省をアクセル官庁化した。民主主義成熟時代の官僚は一貫して日本エリートの横のネットワークの発進点として機能してきた。

民主主義成熟時代は、①国民と日本の影響を受ける世界が受益者側となり、②各省庁を退官した若手国会議員と出身官庁の官僚が国民と世界の要望を取り上げ、それを、③自由民主党の政調会の計画の枠の中で、④幹事長が取りまとめ、⑤政治家(総理・内閣)と首相補佐官の政策を受けて財務省主計官が予算査定して、⑥国会議員がそれぞれの地域、所管官庁が企業への予算執行を監督し、⑦国民と世界とマスコミがその成果を評価し、⑧国会議員と官庁が指導し、マスコミは報道し、司法が裁定し、その後フィードバック①以降を繰り返す構造となった。成熟した民主主義国家の複雑な構造となった。

史的に組織の力学の視点で考察すると、時代ごとに、立案実行、査定展開のどちらかが力を強め、主体となってきた。その結果、立案実行が主体となるとボトムアップ、査定展開が主体となるとトップダウンにといった力学にもとづき組織設計が行われた。

終章 未来データドリブンの時代の官僚組織

日本の官僚組織の変遷について考察を行った。キャッチアップ時代は夢を追い、民主主義成熟時代は既得権を守り、未来のデータ至上主義の時代「ユヴァル・ノア・ハラリらによって論じられている、人類には自由な意思など無い」ともいわれる社会ではデータがビジョンを描く。SDGsで社会に目標が与えられたときもデータドリブンであることは言うまでもない。データドリブンの時代に官僚は機械学習と連携する作業を要求される。村瀬俊朗・王ヘキサン・鈴木宏治[5]2021)機械学習の強みは今まで人間でしか実現できないと考えれていた分類や特定の作業を、機械が学習を通して作業の精度を高めることができるとしている。ルティーン業務を24時間態勢に、問題解決案を機械学習によって複数提出選択する。永山晋[6]2021)は機械学習によって得られた結果の解釈可能性の低さを、課題としている。機械学習過程をブロックチェーンで保存し過程検証作業を的確に行える。官僚組織が大きく変革する未来が予見できる。

 参考文献

伊藤隆監修・清家彰敏監修・中澤雄大編集(2021)『回顧百年 相沢英之オーラルヒストリー』かまくら春秋社

日本政策投資銀行(2002)『日本開発銀行史』日本政策投資銀行

城山英明・細野助博編著(2002)『続・中央省庁の政策形成過程』(中央大学出版部)

今井賢一・伊丹敬之・小池和男(1982)『内部組織の経済学』東洋経済新報社

牧原出(2013)、政策決定における首相官邸の役割、2013627

https://www.nippon.com/ja/features/c00408/

矢野俊比古(1982)『日本株式会社の反省 わが国産業の新しい活路』日本工業新聞社

Hayek,F.A.(1945)”The Use of Knowledge in Society”,American Economic Review,Sept.

Hippel,E.(1988)The Source of Innovation,Oxford Press,NY.

Williamson,O.E.(1986) Economic Organization:Firms,Markets and Policy Control,Wheatsheaf Book Ltd,1986.



[1] 外郭団体においては団体ごとの賃金体系が行われたため、外郭が高給のことが多く、出向すると出向期間は給与が上がるとも言われた。

[2]バトワール「通産省の産業政策と通産省エリートの役割──高度経済成長期を中心に」『横浜国際社会科学研究』第24巻第Ⅰ号file:///C:/Users/seike/Downloads/3-Nematov.pdf2021920日検索58

[3] 伊藤大一は大蔵省内という同一組織内に歳出の主計局と歳入の主税局が存在し、情報を独占し、情報の非対称性によって大蔵省が他省庁、政治家に対してアドバンテージを持ったとしている。これは大蔵省主計官の自律性を高め、その結果、上記の投融資ミックスを可能とした。伊藤太一は通産省が業界との産業ネットワークからの情報をもち、大蔵省が銀行からの金融ネットワークからの情報を持っていたと指摘、主計官はその2つのネットワークからの情報の結節点で、2つの情報を統合できる存在であったとしている。

[4] 企業グループの系列組織と同じ構造。相沢オーラル「各省次官級へ多いときは同期で5人ほど行った」

[5] 「アンケート調査を超えてーー自然言語処理や機械学習を用いたログデータの活用を模索する」『組織科学』白桃書房Vol.55No.1

[6] 「現実の説明と制御:社会科学おける機械学習の活用」『組織科学』白桃書房Vol.54No.4