ビューティライフ産業における人材マネジメント
ハリウッド大学院大学教授・富山大学名誉教授
清家彰敏
日本文化経済リサーチセンター
清家由加里
序章
本研究は、美の視点から全ての生活を考える時代を想定して、美の視点から生活に貢献する産業をビューティライフ産業と規定する。21世紀の日本は成熟社会になり、生活の質を向上させる、人生100年時代できるだけ健康寿命を長くし、若々しく生きたと願う人が多くなっている。全国津々浦々、できるだけ若さを保つことが価値になってきている。お若いですね、が最高の褒め言葉となってきた。体質の若さを問うビジネスは、医食同源で語られる。外見の若さを保つビジネスを担うのは美容、化粧品、美容医療などでありトータルビューティビジネスと言われる。ビューティライフ産業の中核として、医療とトータルビューティビジネスは位置づけられ、美容医療が、ビューティライフ産業のリンクピンになると考えられる。本研究は美容師と美容医療がビューティライフを外面、内面でマネジメントするビューティライフ産業について考察する。
2.ビューティライフ産業における個人化
インターネット上に情報が溢れる現在、経験豊富な美容師、美容医療の医師といった熟練者にとっては、集団による調整と合意獲得は煩わしい作業である。集団は熟練者が苛立ちを感じるだけである。革命的な技術以外は集団からの情報も必要ない。SDGsと新型コロナウイルスの影響で顧客はビューティライフ産業の対象である美容習慣や商品の購買は適切なのか、見直し始めた。その結果、顧客、従業員、経営者自身も仕事を見直す作業が始まっている。その際の有力な手法のひとつがデータサイエンスであり、企業と個人の対応の差が顕著となっている。化粧品業界では、データ処理能力によって従業員に格差が生まれ、組織内にコンフリクトが起こっている。それに対して経営者が対応を誤ると、顧客満足と従業員満足の統合を基盤とする日本型の強みが失われる可能性がある。新型コロナによる巣ごもり仕事では、個人として自立できている社員にとって、居心地の良い場が作られる。逆に個人としての自立ができていない社員にとっては苦痛である。美容医療の医師、看護師、美容師は個人営業が多い。
美容師を志す高校生、美容医療を志す医師、看護師の現状について考察してみよう。現代社会の様相を表す言葉として「個人化」ないし「個体化」individualizationという概念が用いられる[1]。乾彰夫は1990年代からの新規学卒就職の崩壊および若年労働市場の不安定化と格差化によって、生徒・学生から就職し、社会人となり親の保護からはずれた存在となるという青年期の枠組みが解体したと指摘している[2]。1990年代から始まった企業組織における「個人化」の現象は美容師、美容医療の医師、看護師において顕著である。
3.ビューティライフ産業における一人起業
現在、起業はビューティライフ産業で、盛んに行われており、特に美容医療の多くは経営者個人の能力から起業しており、一人起業が多い。スマートフォンは個人が起業するインフラとなっている。成熟社会となった21世紀においては社会、集団内での自己実現の場は少なく、ゲームによって個人は仮想の自己実現をするようにもなっている。起業は、コンフリクトの解消だけでなく自己実現を現実に達成することを助ける。一人起業・一人企業化によってコンフリクトが解消され従業員満足が得られる。また、個人営業はコスト競争力も向上する。ここで、個人営業を支援する人材マネジメントと情報システムが必要となる。
データサイエンスと美容師の個性を生かす人材マネジメント
ビューティライフにおけるデータドリブン、データサイエンスについて考察してみよう。美容師は一人企業の典型である。また化粧品企業の美容部員も個人の美的センスが問われ、一人企業と言える。SDGsと新型コロナウイルスの影響で顧客は習慣や商品の購買は適切なのか、見直し始めており、ビューティライフは顧客、従業員、経営者自身の健康・美容・容姿・服飾・仕事・生活・趣味遊戯について、データで見直すところから始まる。
データ至上主義の時代は、ユヴァル・ノア・ハラリらによって論じられ「人類には自由な意思など無い」ともいわれる。ビューティライフ産業では、データがビジョンを描く。データドリブンの時代に経営者、美容室の店長、企業、化粧品企業の社員は機械学習と連携する作業を要求される。機械学習や深層学習を使った画像解析やアルゴリズムの開発を行う支援業者が現れている。この支援業者の人材をマネジメントすることが、ビューティライフ産業発展の鍵である。
データドリブンによるビューティビジネスにおけるデータの裏付け、データに裏付けられたビューティ理論の構築が求められ、製品・サービスと顧客の仕事・生活・趣味遊戯の関係の実証的研究が行われている。人体の研究:美容において人の皮膚計測などの医学的研究、化粧品の使用効果を人の皮膚で評価していく研究など多くのテーマが、研究課題となっている。データドリブンによるデータサイエンス革命がビューティビジネスで起こっていると規定できる。データサイエンスの出力はバーチャルリアリティ(virtual reality=VR)と拡張現実(augmented reality=AR)が使われる。スマートフォンなどを顧客にかざすと、過去の顧客の画像と美容カルテが現れる。QRコードを読み取ると、スマートフォンのカメラを通じて現実の顧客に重なって次々現れ、もっとも好ましい髪型・メーキャップを選ぶことができる。
フェースブックでは、不適切な写真をAIが監視、自殺防止にも役立ている。テキストデータ、画像データを使った転移学習の事例である。フォースブックは、1日に投稿される100億枚の画像から、不適切な画像をAIで摘出している。人間にはいくら時間があってもできないような作業が必要な場合、AIは有効である。フェースブックはこのAIのアルゴリズム(転移学習)をフェースブックAIで解説している。画像からインサイトを抽出したいときの参考になる。データサイエンティストがビューティビジネスで、フェースブックのAIとIBMのAIワトソンを使うことも考えられる。
IBMのAIワトソンは医師のカルテから世界中の症例を検索し、患者に最適な治療法の候補を医師に提示し、医師は治療を行うことができる。この技術とIBMのAIワトソンを使えば、顧客の顔写真の3D画像から世界中の多くの髪型でもっとも適した髪型候補を探しだし、美容師が顧客にもっとも適した髪型を選ぶことができる。データドリブンのビューティビジネスは、データや統計技術を用いてエビデンスを提示する。データの形式が同じであれば,全て同じような現象が起きていると期待したくなるが、結局のところデータを生成した背景は千差万別であり、その都度データの裏にある現象を解析する必要がある。データドリブンの時代においては社員の個性が多様であるほど、データサイエンスの手法が生かされると思われる。データサイエンスと従業員の個性を生かす人材マネジメントが実現可能である、
医療技術は多くの研究データと内外で発表される論文によって、次々新しい施術が最先端機器と共に登場してくる。美容医療において、データサイエンスの利活用が懸案と考えられる。美容治療は保険がきかない施術が多く、広告費や内装費などのコストを抑えた。医療機関だからこそできるレーザー脱毛・シミ治療を多くの方に提供、シミ・くすみ・肝斑・ニキビ跡などに効果的で、機器は最新機器を揃えている。若返りビューティライフ産業である。
美容医療は個人の美的センスが鍵となる一人企業である。医療脱毛と肌治療とアートメイクは悩み・コンプレックスを解消する。特に美容皮膚科が提案するメディカルアートメイクは中核の医療技術となっている。メディカルアートメイクは、落ちないメイクである。皮膚の浅い層に専用のニードルを使用して色素を着色、タトゥーとは違い表皮部分に着色するので新陳代謝と共に徐々に薄くなり消えていくため抵抗感は少ない。
4.アートメイク
アートメイクは医療行為であり医師の管理の下、医療従事者がアートメイクを行う。施術は、①医療脱毛、②わきが・多汗症治療に加えて、③スレッドリフトはメスを使用せず、溶ける糸でたるみを改善、糸は体内に吸収される。④NMN点滴はNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は加齢に伴い体内での生産量が減る。NMNを摂取することで、身体の見た目や機能を回復する。⑤マイヤーズ・カクテル点滴は、米国自然療法医の定番で治癒力を高める点滴療法であり、ビタミンとミネラルの栄養素を多量に投与して、治癒力を高める。⑥ヒアルロン酸は、シワの溝や凹みで影となっている箇所にヒアルロン酸を注入し、ボリュームアップすることでシワやたるみを改善する。⑦ほうれい線・シワ取り注射による、ヒアルロン酸治療は、無表情でも目立ってきたシワ・笑うとできる小ジワなど、肌に刻まれた気になるシワを簡単に改善させる。⑧HIFU・ HIFUリニアは、超音波高密度集束加熱により肌たるみの引き上げができる。⑨ダーマペン4は、ニキビ跡やクレーター、小ジワ改善。16本の超極細針を電動振動させ皮膚に微細な穴を無数に開け、皮膚の創傷治癒効果で肌質や瘢痕を改善する。
施術における眉アートメイクは女性だけでなく、男性に人気である。眉によって表情は大きく変わり、自身のイメージに合った、例えば男性的な強い印象を与える眉にして欲しいといった希望も多い。眉アートメイクでは看護師としての経験、医療知識に加えて美的センスが求められる。ストローク(3D・毛並み)は1本1本毛並みを描き上げることで、ナチュラルな眉を実現させる。オーダーメイド(4D・毛並み+パウダー)は、ストロークで毛並みを施した後、パウダー眉の技術を用いて陰影を部分的につけていく。地毛となじみが出て、より自然な眉となる。この施術は男性が急増しており、男女ともに美容医療がトータルビューティへ革命的な変化をもたらす可能性がある。理想の眉毛 男性顔の印象を変えたい。
医療データを解析し、病院長は最先端機器の導入と顧客情報から施術環境を向上させている。看護師は、優れた顧客とのユーザー・サプライヤーインタラクション(Hippel,E(1988))によって知恵を創造し、新しい施術を工夫し、技能の向上を計る。データドリブンと個性の両立が成立している。
5.営業において個性が輝くのは生配信
顧客サービスは対面とオンラインがある。対面の減少はサービスの標準化、マニュアル化を進める。企業から顧客へのオンラインによるサービスは顧客それぞれに対応するよりは、生配信によるインフルヱンサーに依存するほうが合理的で、効率も高い。規模の経済も期待できる。インフルエンサーの生配信による顧客の囲い込みが起こり、顧客を多く持っているインフルエンサーの獲得数が成功の鍵になる。
インフルエンサーは仮想空間内の集団で、商品・サービスでリーダーシップを取るようになっている。感染症でリアルな交流が遮断されると、仮想集団におけるインフルエンサーの影響が強くなる。営業はインフルエンサーのビジネスプラットフォーム作りであり、インフルエンサーの選定、育成を間違えると売上が大きく下がる。インフルエンサーの生配信を支援する方策として以下の2つが企画される。AIを使ったロボット営業、ロボットアフターサービスも感染症下では盛んになる。対面サービスができなくなることは、化粧品、アパレルの完成度の向上に成功した商品が市場で勝利することになる。インフルエンサーの生配信による顧客の囲い込みが起こり、顧客を多く持っているインフルエンサーの獲得数が成功の鍵になる。
化粧品生配信とインフルヱンサー3型
インフルエンサーは、顧客の行動変容、デジタルなどの関連技術導入、新しい社会、都市インフラの変容、海外との交流の状況的変化、投融資環境の変化等に対応し生配信する。インフルヱンサーには3型ある。「顧客が選ぶインフルエンサー」、「カリスマ的なインフルエンサー」、「組織が設計するインフルエンサー」の3型である。インフルエンサーは「従来の商品・サービス、文化をも壊すもの」と「新しい商品・サービス、文化を生みだすもの」と
「従来の商品、サービス、文化を前提にするもの」との3種類に分類できる。
市場はビジネスプラットフォームという集団の積
生活水準によって、階層が自然または人為的に生じている。また生活文化の「衣・食・住・遊」によって縦の障壁が生じる。この生活水準と文化の平面と障壁によって市場は立体的に分割され構成されている。縦横分割はリアル、仮想によって集団が形成される。この集団は今井賢一のプラットフォーム概念を拡張してビジネスプラットフォームと規定できる(清家彰敏,1998a)。つまり,市場はビジネスプラットフォームという集団の積で構成されている。集団の大きさは生活水準の階層とその文化に関わる人口に相当する。集団ごとに網羅的にすべての物、知識、行動、用語が異なっている。
6.市場=産業=生活水準=文化=ビューティライフ
市場は,ある完結した知識群(文化という概念)に対応している。市場=産業=生活水準=文化なのである。文化は知識の集まりである。この文化を抜きにして,商品・サービスは成立しない。インフルエンサーの3種類「従来の商品・サービス、文化をも壊すもの」と「新しい商品・サービス、文化を生みだすもの」と「従来の商品、サービス、文化を前提にするもの」は、文化破壊商品・サービス,文化創造商品・サービス,文化支援商品・サービスを上記各集団に提供するリーダーである。
インフルエンサーは,各集団の従来の文化、商品、サービスを次々破壊、創造、支援し,急成長した。多くの大衆は,旧い文化,阻習にうんざりしており、インフルエンサーによって破壊される文化、社会習慣に喝采をおくった。多くの大衆は,文化創造商品・サービス,文化支援商品・サービスでインフルエンサーに熱狂している。
新型コロナで,文化、生活習慣が次々破壊され,多くの大衆は、新しく商品・サービスに付随した知識が脈絡なく周辺に溢れると人間は落ち着かなくなって、インフルエンサーにさらに依存するようになる。インフルエンサーは仮想空間内の集団で、商品・サービスでリーダーシップを取るようになっている。感染症でリアルな交流が遮断されると、仮想集団におけるインフルエンサーの影響が強くなる。
営業はインフルエンサーのビジネスプラットフォーム作りが新しい仕事となる。インフルエンサーは少数の長者インフルエンサーと赤字ビジネスを行いながら長者インフルエンサーを夢見る大多数のインフルエンサーに分かれる。この比率、中間層をどの程度の比率にするか、は営業のビジネスプラットフォーム設計の手腕にかかっている。SDGsと新型コロナウイルスの影響で顧客は美容習慣や商品の購買は適切なのか、見直し始めた。ビューティライフ産業は顧客、従業員、経営者自身を見直すところから始まり、データドリブンのビューティビジネスは、データや統計技術を用いてエビデンスを提示する。
終章
本研究は、美の視点から全ての生活を考える時代を想定して、美の視点から生活に貢献する産業をビューティライフ産業における人材マネジメントについて考察した。成熟社会における、生活の質を向上させる、人生100年時代において、体質の若さを問うビューティライフ産業は、外見の若さと内面の若さを保つビジネスである。そこで、リーダーシップを、データドリブンでとる美容師、美容医療の医師、看護師の仕事について論じた。本研究は美容師と美容医療がビューティライフを外面、内面でマネジメントするビューティライフ産業について試論を展開した。
[1] 日本社会学会の『社会学評論』Vol.54.No. 4(2004年3月)は,「『個人化』と社会の変容」 の特集を組んでいる。
[2] 乾彰夫「<戦後的青年期>の解体-青年期研究の今日的課題」(『教育』国土社,2000年3月号所収。)
[3] ウルリヒ・ベック『危険社会』東廉/伊藤 美登里訳,法政大学出版局,1998年10月,p138。
[4] 同上,p168
[5] 渋谷望「<参加>への封じ込めネオ・リベラリズムと主体化する権力」(『現代思想』青土社,1999年5月,p95。)
[6] 竹内常一『子どもの自分くずしと自分つく り』東京大学出版会,1987年7月。
[7] 澁澤透(2011)「社会の「個人化」と教育学的発達研究の課題
-人格発達論と自己形成論との架橋-」Journal of The Human Development Research,
Minamikyushu University 2011, Vol. 1, 43-55
[8] 新興企業買収額海外勢が過半にhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC221ID0S1A920C2000000/(2021年10月17日)
[9] 清家彰敏(1999)『進化型組織』同友館の「一人企業」概念である。この概念は企業から外へ出て、組織間関係を多くの企業と連携して形成しビジネスを行う一人だけで活動する企業について、その合理性で説明した。
[10] https://compass.labbase.jp/articles/693(2021年10月19日検索)