アニメ・ゲームが変える美的理念とビューティビジネス
-------ハリー・ポッターからコスプレメイクまで------
清家彰敏
日本文化経済リサーチセンター
清家由加里
(慶應義塾大学美学美術史専攻卒)
会場 六本木ヒルズ ハリウッド大学院大学
序章
本研究は、日本国内における美的理念の変遷、明治以降の日本の美的理念の海外展開、ジャポニズムから『かわいい』までについて考察する。次に、アニメ、ゲームによって影響された美的理念『かわいい』が、ビューティビジネス、特にファッション、メイク、美容医療に影響を与えていくのではないか、またアニメ、ゲームに牽引されている『かわいい』ビジネスが、カリスマ的50歳代が作るプラットフォームに支援されているのはないか、について論じる。
カントは「概念の形成を導く原理である理性的理念に対し,想像力の直観的形成を導く原理としての美的理念を設定し、「想像力の表象」であり,経験的概念を超経験的な完全性において表現する能力をもつ」と規定した[1]。「カントは次のような規定を与えている。そもそも美的理念のもとに私が意味するのは、我々をして多くのものを考えさせる動機となりながら、しかもおよそ規定された想念、すなわち概念がそれに適合しえないような、したがってどのような言語も完全に述べ尽くしえず、理解させえないような、構想力の表象である」[2]。カントは、美的理念と美的態度は、美的判断を可能ならしめると捉えている。美的理念は、美学上の用語として使われる際には、一般には美の究極において志向される理想的観念をいう。これは単なる主観的表象や客観的法則によってとらえられるものではなく,すべての美的創造や美的享受の形而上学的根拠として説かれることが多い。
室井尚[3]は「美術と呼ばれているものが、「個性」、「創造性」、「特殊性」などといった出来合のブランド・イメージを伴った「挿絵」や「ポスター」とどこが違うのか言い表すにはむずかしい。」と述べている。
井原[4]は「消費者行動論の中でとりわけ消費の感性や美的側面に着目したのが、美的消費あるいは消費の美学(aesthetic consumption)と呼ばれる分野である。当初は芸術や美術品の鑑賞のみが対象とされていたが徐々にその研究領域は広がり、近年では日常生活におけるあらゆる消費がその対象となっている。」と述べている。
2章 日本の美的理念の変遷
宮本健次[5]の考察をもとに、日本の美的理念の変遷を著者なりに概説すると、「自然崇拝と美」の時代における美的理念は『優美』で表わされる「神仏融合と美」であった。次に、『幽玄』で表わされる「世阿弥[6]」による「未完の美」の時代となり、それは室町期に頂点を迎える。やがて、『侘び・さび』で表現される時代となり、「侘び」通過儀礼「芭蕉とさび」で代表された。日本と欧州との出会いから、美的理念は『きれい』と表現される時代となった[7]。修学院離宮、寛永文化サロンと西洋意匠に代表される。江戸時代後期、明治期に日本美の輸出(ジャポニズム)が「きれい」と表現され、『きれい』は日本的美的理念の初めてのグローバル展開となった[8]。
『かわいい』は、宮本健次は「21世紀の美意識」として論じているが、20世紀において、漫画、コミック、アニメ、ゲームの順で形成されたと思われる。この『優美』->『幽玄』->『侘び・さび』->『きれい』->『かわいい』は時代がオーバーラップはしているが、日本の美的理念の歴史と考えられるかもしれない。『かわいい』について、宮本健次は、経済産業省の「クールジャパン」の用語として盛んに使われたとしている。
2005年に、日産自動車は「アニメーションっぽい」デザインの電気自動車「Pivo」を、『かわいい』をテーマに発表した。
村上隆[9]のデザインしたキャラクターも『かわいい』が美的理念となっていると見做せると考えられる。2006年四方田犬彦[10]は『「かわいい」論』を出版し、アジアで、日本の流行文化を好む台湾人、中国人にとって、2000年代の日本文化は『かわいい』で代表された。
同時期、欧米においても、米国での「ポケモン」ブームによって「Kawaii」は英語などの言語として定着した。米国でも「Cute」とは区別された。
『かわいい』の概念定義について、宮本健次論を著者らで以下に要約する。『かわいい』は「かほはゆし(顔映ゆし)」が語源であり、かほはゆしは「相手がまばゆいほど優れていて、顔向けしにくい」という意味であった。顔向けしにくいということから「気恥ずかしい」ということで、ほうっておけない「かはゆし」=「愛らしい」の意味に転じた。
『かわいい』は、大きいものより小さいもの、丸みのある、アンバランスなもの、幼児がもつ特徴である。助けを必要とするか弱いもの、小さくていまにも壊れそうな、純粋無垢なものを守ってあげたいという美意識であり、そこから、上記のように『かわいい』を現在の美的理念と規定できる。『かわいい』は「純粋無垢な守ってあげたい」という美的理念である。
宮本健次は『かわいい』は『きれい』と同様に、欧米への拡大、世界の若者層に広がり一般化された美的理念と捉えている。日本という閉じた世界で成立している『幽玄』、『侘び』、『さび』とは異なる。
宮本健次は、『幽玄』、『侘び』、『さび』が未完の美意識であると規定しており、未完の美的理念と考えることができる。宮本健次は『かわいい』も『幽玄』、『侘び』、『さび』と同様に未完の美として規定しており、『かわいい』は未完の美という範疇の美的理念である。
未完の美とは、滅びの美学である、との示唆も宮本健次は論じている。
したがって、宮本健次によれば、美的理念『かわいい』は「愛らしく、純粋無垢で守ってあげたい」、「未完の美と捉えられる滅びの美学」として、概念を規定しうる。
「未完の美」「滅びの美学」という宮本健次の上記の指摘は、「キモカワイイ[11]」などという美的理念へ変じる余地、海外でローカライズされやすい可能性に繋がる。
宮本健次の概念規定を受けて、本研究では、『かわいい』の日常での使用上の作用を「美的判断を可能ならしめ、社会、産業における美的創造と美的享受の形而上学的根拠となる」と規定する。
日本は、ユーラシアの端で世界の全ての文化の行き着く果て、京都、奈良、金沢、鎌倉らが終着点である。終着点で、文化は共存、混ざり合い、熟成する。したがって、美的理念『かわいい』は国内で『幽玄』、『侘び』、『さび』、『きれい』と共存しながら、グローバルに展開している。
以下、現在における日本の美的理念としての『かわいい』が、どのようにアニメ、ゲームから世界に拡がったか、またブーメランのように日本にまたグローバルな美的理念として、戻ってきているのか、また世界、日本のビューティビジネスにどのような影響を与えたか、を論ずる。
3章 アニメ・ゲームの影響としての美的理念『かわいい』
東浩紀[12]は、アニメ世代は10年ごとに層別できるとした。1960年前後生まれは、10代に宇宙戦艦ヤマト、機動戦士ガンダムのアニメを見た。70年前後生まれは、その60年前後生まれが作ったオタク[13]文化を10代に享受した。80年前後生まれは、エヴァンゲリオンのブームのときに中高生であった。その後も10年ごとに層別されていると考えられ、新海誠[14]などに繋がる。多くファンに受けいれられている手塚治[15]、宮崎駿[16]はアニメ世代に横断的、基礎的素養として広範な影響を与えてきた。
美的理念としての『かわいい』は、アニメのブームによって、連続的に形成され、社会に影響を与え、ビューティビジネスに影響を与えていった。その過程は、アニメ->消費支援・消費加速->欲求の変化->価値の変化->美意識への影響->美的理念の変化->ビューティビジネス・ファッション・コスプレ・メイクなどの変化である。現在では、ティファニーとポケモンのコラボなども現れた。
若者ファッションは、1980年代ハマトラ、1990年代渋カジ、1999年ガングロ、2006年セレブ、2014年ツインズと流行し、アニメの影響を受けたメイクとコラボレーションをしたと考えられる。
4章 ビューティビジネスにおける20歳代への美的理念の影響
アニメ、ゲームに影響された美的理念『かわいい』の影響は以下である。ファッションデザイナーは、アニメ的容姿(静止画)を参考にし、ゲームの動き(動画)の衣装をデザインに取り入れる。美容師は、アニメ的な顔・髪型(静止画)を参考にする。ゲームの表情・髪の変化は、動画であり、その表情は別の面で参考になる。都市設計者は、かわいい生活者の存在する、アニメの街(静止画)、ゲームの街日変化(動画)、メタバースの仮想都市空間から現実の都市を設計する。
アニメ、ゲームのキャラクターと「結婚」したという人は、2年で200組以上[17]、「二次元恋愛」の時代である。2030年には3人に1人がオタクの時代[18]との見方もある。オタク(ヲタ化)と呼ばれる革新者たちの、美的理念におけるファッションリーダー、メイクアップリーダーとしての存在は、注目される。
アニメ・ゲームからの美的理念によって、ビューティビジネスは影響され、テーマパークを飾るハリー・ポッター[19]、美容室でのコスプレメイク、海外では中国のチャイボーグ[20]、千金メイク[21]、韓国のオルチャンメイク[22]にまで影響を及ぼしている。エンタテイメントとしてのハリー・ポッター、チャイボーグ、千金メイク、オルチャンメイクは美的理念としての『かわいい』が世界にグローバルに拡がり、その地でローカライズされ、ブーメランのように日本に美的理念として、戻ってきた事例と考えている。
アニメ、ゲームのキャラクターを意識したビューティビジネスとして、オタク美容室が登場している。
6章 オタク美容室
OFF-KAi!![23]は「オタク美容室」と宣伝としている。「最近では、アニメなどの影響もあって色んなカラーのバリエーションがあって色味を選ぶ楽しみがあります」と宣伝している。
Wizでは「2020年に一番流行ったあの『アニメ』のキャラクターに合わせた色々なバリエーションのインナーカラーをご提案させていただきます。各キャラクターには、呼吸もさながら色んな色が目立つのがあの『アニメ』です」とネットに書き込んでいる[24]。
美容医療は、より長期間の『かわいい』を維持する手段である。メイクに比べて、長期間『かわいい』を維持しうる。入れ墨と異なり、2ヶ月程度経てば、素に戻る。美容医療が医師と看護師によるホームドクター化していくと思われる。2月に1回の美容医療の際に、トータルビューティビジネスとしての「衣食住環境」までのきめ細かな生活健康アドバイスを行う。
前出したように、美的理念『かわいい』は、国内で『幽玄』、『侘び』、『さび』、『きれい』と共存している。美的理念『かわいい』は若者が中心であり、『幽玄』、『侘び』、『さび』、『きれい』はより年長者の美的理念であるといえるかもしれない。このことは、全世代を対象にした「トータルビュ―ティビジネスとしてのファッション・美容・美容医療・化粧品産業など」の産業の発展、起業につながる。
7章 ハリー・ポッターとビューティビジネスへの美的理念『かわいい』の影響
アニメ・ゲームからの美的理念『かわいい』は、英国のアニメオタク、アニメ愛好家によって、20世紀から21世紀にかけて、英国でローカライズされた。ハリー・ポッターの日本での展開は、英国に拡がった美的理念『かわいい』の英国からの導入であり、日本における土着化している美的理念『かわいい』との融合で、日本においてビジネスが展開している。
「ハリー・ポッター」シリーズ[25]は、英国の作家J・K・ローリングによるファンタジー小説である。1990年代の英国を舞台に、ホグワーツ魔法魔術学校に入学した少年ハリー・ポッターと、強大な魔法使いヴォルデモートとの因縁の対決を描いている。1997年に第1巻が刊行され、全7巻の発行部数は全世界で6億部超、国内では2400万部に達する。2001年からは実写映画化されており、スピンオフ含め11作が公開された。
英国のファンタジー「ハリー・ポッター」シリーズは、作品世界の体験型施設の開業、演劇やゲームのヒットなど話題が続き、RPG「ホグワーツ・レガシー」は世界で1500万本を売り上げる大ヒットになった。映画版ハリポタの世界を体験できる「ワーナー・ブラザース・スタジオツアー東京メイキング・オブ・ハリー・ポッター」(東京・練馬)は2023年6月に開業した。この過程で、ハリー・ポッターに関するビジネスは世界的ヒットにおいて、美的理念『かわいい』の影響を受けていると考えられる。
美的理念『かわいい』は、小説ハリー・ポッターが挿絵・映画・テーマパークへと創造され、ファンに享受されていく作業過程に大きな影響を与えた。ハリー・ポッターをコンテンツとしたビューティビジネスはローカライズ『かわいい』に影響され、ハリー・ポッターテーマパークを飾る多くの『かわいい』セットがあるエンターテインメントとして日本にブーメランしてきた。『かわいい』が世界にグローバルに拡がり、その地でローカライズされ、ブーメランのように日本に美的理念として、戻ってきた事例となった。無数の関連ビジネスと「推し活[26]」が、日本、海外に溢れ、以下のハリー・ポッター関連ビューティビジネスを創造し、ファンに享受されている。
「推し活」である関連ビジネスは多い。2023年7月からTBS赤坂ACTシアター(東京)で上演が続く舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、累計観客数50万人を突破した。
単行本第1巻が出てから四半世紀が経過する中で、「ハリポタ(ハリー・ポッター)のDNA」は現代文化の様々な領域に息づいている。作家の宇野朴人[27]は「ファンタジーの一つの答えのような作品、魔法学校における決闘などの描写が、自身の作品に影響を与えている」と述べている。児童書などに詳しいライターの飯田一史[28]は「ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』など影響を受けたライトトノベルは多い、ハリポタの強い影響を受けている」と述べている。
多様なビジネス展開をできるポテンシャルがハリー・ポッターにはあり、コンテンツビジネスに詳しい社会学者の中山淳雄[29]は「ハリポタは魔法使いが活躍する架空の世界を描く作品で、ユニークな関連商品を作れる。多様なビジネス展開をできるポテンシャルがあった」と話している。作中人物のコスプレをするなど、人々は様々に楽しむことができる。
ハリー・ポッターコスプレメイクは人気がある。世界的大ヒット映画シリーズ『ハリー・ポッター』とのコラボレーション、グリフィンドール[30]やスリザリン[31]などホグワーツをモチーフとした魔法学校の世界観溢れるコスメコレクションが「SHEGLAM」に登場した[32]。グローバルファッションブランド「SHEIN(シーイン)」の高品質で低価格のオリジナルコスメライン『SHEGLAM』に、大ヒット映画シリーズ『ハリー・ポッター』に登場するホグワーツ魔法魔術学校の4寮をモチーフとした『ハリー・ポッター™インスパイアード・ビューティ・コレクション』が販売開始されている[33]。「本コレクションは、「原作からヒントを得て世界観を表現したアイシャドウパレットやリップスティックなど、魅惑的な魔法の世界を体験できるメイクアップアイテムを展開しております。そして現在ご購入いただいた方への限定特典として、マジックワンドアイシャドウブラシのプレゼントもご用意しております。」が宣伝文句である。
ハリー・ポッタービジネスは、アニメ・ゲームからの美的理念『かわいい』が、世界のアニメオタク、アニメ愛好家によって、各国でローカライズされた後、その後、日本へブーメランされ、日本で土着化している美的理念『かわいい』と融合し、ビジネスが成功している事例である。コスプレファッション、コスプレメイク、化粧品といったビューティビジネスへの影響は大きい。
8章 ビューティビジネスの構造
ビューティビジネスにおいては、30年前の「マスメディアに支配された大衆の時代」に、反逆思想のマイノリティとして人生を送った人が、プラットフォーマーになっている。50歳代になったかつてのマイノリティは、インターネット上で、創造と受容者が一体化している現代において50歳代になり、20歳代のプロシューマのビジネスのプラットフォームとなっている。アニメ・ゲームからコスプレ、メイクに至るビジネスにおける美的理念『かわいい』による創造と享受のプラットフォームを作り、先導しているのは50歳代である。その美的理念『かわいい』が、ファッション、美容院、化粧品などのビューティビジネスへ影響を与えていく。アニメ・ゲームの50代のプラットフォーマーと規定しうる2人は以下である。
新海誠(本名:新津誠)1973年生、は、日本の脚本家、アニメーター、アニメーション監督、小説家。『君の名は。』『天気の子』から、新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』などで知られ、海外からも尊敬を集める50歳代のプラットフォーマーである。
河津秋敏1962年生、は、日本のゲームクリエイター、ゲームプロデューサー。株式会社スクウェア・エニックス第一開発事業本部所属。RPG『魔界塔士 Sa・Ga』はスクウェア・エニックス初のミリオンヒットとなった。『サガ』シリーズの開発に関わり、『サガ』の生みの親と若者の熱い支持を受け、ファイナルファンタジーシリーズに関わる。
アニメ・ゲームのプラットフォームをさらに拡げ、街中に、小売りのプラットフォームを作っているのも50歳代である。パルコ川瀨賢二社長、1992年入社は、デジタル系新規事業や若者に人気のあるコンテンツ戦略を主導してきた[34]。
アニメ・ゲームビジネスとして、渋谷パルコ6階「ポケモンセンター」がインバウンドにも人気のプラットフォームとなっている。1973年に「渋谷パルコ」が開業して50年になる。2023年11月17日、アニバーサリーパーティーが開かれ、各種記念イベントがスタートした。ファッションだけでなく音楽やアートなど「渋谷カルチャーの発信拠点」の役割を担ってきた渋谷パルコには、国内だけでなく世界のZ世代が集まっている。
世界から集客する施設づくりにパルコの川瀨賢二社長は成功している。来店者は6割増、世界から若者が続々来日、来店している。英国からの観光客の女性は「ポケモンやアニメが好きで日本は小さい頃からの私の夢よ」と語る。キャラクター「ミュウ」の静止画の前でスマホ撮影し、ポケモンTシャツを購入し、マリオの展示と、ストリートファイターの等身大フィギュアを見て、喜びの声が上がる。ドイツ人観光客の男性「ドイツにはこんなふうにキャラクターを前面に押し出した店はない。」と語る。来店者の中には、自らもコミック、アニメ、ゲームを二次創作するプロシューマと呼ぶべき存在も多い。
インターネット・パソコンによる漫画・コミック・アニメ・ゲーム・映画・小説・二次創作の創造と受容が一体化した現代において、川瀨賢二社長などのビジネスが、世界の20歳代のプロシューマのプラットフォームとなって、アニメ・ゲームにおける美的理念『かわいい』の下での美的活動を支援している。
アニメ・ゲームからの美的理念『かわいい』->街中の小売りビジネス->コスプレメイク->ファッション・美容・美容医療・化粧品産業、このようなビューティビジネスの流れのプラットフォームを作り、動かしているのは50歳代のプラットフォーマーである。次にそれに関わる企業の戦略について考えてみよう。
9章 企業の戦略 ソニーグループ
ソニーグループのアニメ・ゲーム戦略は、欧米、中国から、次のインド、そしてアフリカである。インドではメディア・エンタメ市場が急成長しており、ソニーグループは放送事業で、ディズニーを凌駕し、インド最大手になった(2023年6月時点) 。
ソニーグループのアニメ戦略も日本初の美的理念『かわいい』の影響を受けており、『かわいい』のグローバル化を促してきた中心的企業であると思われる。
ソニーグループと美的理念『かわいい』の関係は、欧州の芸術、文化に大きな影響を与えたジャポニズムの媒体であった「浮世絵」と美的理念『きれい』に相当する関係と思われる。
ソニーグループは、欧米、中国のスマートシティにおけるエンターテインメントから金融までの事業において、商品・サービスを供給する。プレイステーションによるゲーム産業のプラットフォーム作り、ハリウッドなどの映画産業との共進化、アニメ、ゲーム産業からメタバースへと展開し、世界の顧客に「感動」を与えている。
ソニーグループのソニー・ミュージックエンタテインメントは2020年、YOASOBIの大ヒット曲『夜に駆ける』で、小説を基にしたオーディオドラマで、エレキ事業のオーディオ技術を活用した360度立体音響技術を採用[35]し、音楽におけるプロシューマである顧客に感動を与えた。2023年現在はYOASOBIの世界的大ヒット曲『アイドル』[36]が美的理念『かわいい』ビジネスを牽引する。
ソニーグループ出資の米エピックゲームスが開発したゲームエンジンを使用した「バーチャルプロダクション」は大型LEDディスプレーに映像を映し、演者は現地でロケをしているような映像を作ることができる[37]。プレイステーションの人気ゲームは、ソニーピクチャーズ・エンタテイメントの手で映画化を進め、ハリウッドとの関係は世界覇権へのプラットフォームである。
またプレイステーションのゲームなどのマニアな顧客、彼らプロシューマもオタクとして、美的理念『かわいい』の世界展開に加担する。世界発信は、プレイステーションプロダクションズで、人気のPS用ソフトのアンチャーテッド、ゴースト・オブ・ツシマ、ザ・ラスト・オブ・アスなどの映画化が進められており[38]、世界において、アニメ、ゲーム産業におけるプロシューマたちを感動させている。世界に拡がることと感動をキーワードにすることで、ソニーグループはプロシューマが先導する世界の顧客に美的理念『かわいい』に影響されたビジネスを発信しようとしている。
終章 今後のビューティビジネス
本研究は、日本国内における美的理念の変遷、明治以降の日本の美的理念の海外展開、ジャポニズムから『かわいい』までについて考察した。次に、アニメ、ゲームによって影響された美的理念『かわいい』が、ビューティビジネス、特にファッション、メイク、美容医療に与えていくプロセスについて論じた。
日本の美的理念としての『かわいい』が、世界にグローバルな美的理念として拡がり、現地でローカライズされ、またブーメランのように日本に戻ってきているハリー・ポッター、チャイボーグ、千金メイク、オルチャンメイクについても取り上げ、特にハリー・ポッターについては詳しく論じた。
特に、若者中心の美的理念『かわいい』は、全世代に関わる美的理念『幽玄』、『侘び』、『さび』、『きれい』と並存、融合することによって、全世代を対象にした「トータルビュ―ティビジネスとしてのファッション・美容・美容医療・美容産業」を形成しうると、提言した。
最後にアニメ、ゲームに牽引されている『かわいい』ビジネスが、カリスマ的50歳代が作るプラットフォームに支援され、『かわいい』に影響されたビジネスでソニーグループが世界展開していることについて試論を展開した。
[1] ブリタニカ国際大百科事典
[3] 室井尚「マスメディアと美術」神林恒道+潮江宏三+島本浣一編『芸術学ハンドブック』勁草書房,1989年,p275
[4] 井原悠至(同志社大学)https://jss-sociology.org/other/20211109post-12300/
[6] 日本の室町時代初期の大和猿楽結崎座の猿楽師。父の観阿弥(觀阿彌陀佛)とともに猿楽を大成し、多くの書を残す。観阿弥、世阿弥の能は観世流として現代に受け継がれている。
[7] 宮本健次は、「小堀遠州と西洋文化」、「八条宮家とキリシタン」などを取り上げ、西洋からの影響により、美意識『きれい』が形成された経緯を説明しているが、本研究では触れない。
[8] 宮本健次は、『きれい』について「神の不在」、「世界主義としての神仏崇拝」で説明を試みているが、本研究では触れない。
[9] 日本の現代美術家、ポップアーティスト、映画監督。
[10] 日本の比較文化学者、映画史家、評論家。
[11] 見た目の印象が気持ち悪い、かつ、どことなく愛嬌・可愛らしさも感じられる美的理念
[12] 東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』講談社現代新書,2001年11月10日p13
[13] マンガ、アニメ、アイドルなどのサブカルチャーの特定領域に関心を持ち、そのことに自らのアイデンティティを見出す人々の総称。明確な定義があるわけではなく、論者によりさまざまな解釈が試みられる語。もとはエッセイストの中森明夫による1983年の造語とされる。
[14] 後述。
[15] 漫画家、アニメーション作家。第2次世界大戦後の日本の漫画・アニメ界、また青少年の精神形成の過程で果たした役割は計り知れない。作品の愛すべきキャラクター達は、TVを通じて日本中を席巻し、アニメーションを大衆に深く浸透させることになった。作品は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国にも輸出され、世界の子供達の夢を育んだ。
[16] 漫画家、映画監督、アニメーション作家、『千と千尋の神隠し』でベルリン国際映画祭金熊賞とアカデミー長編アニメ映画賞を受賞した。
[17]
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230224-OYT1T50172/
[18]
https://www.trans.co.jp/column/knowledge/undrestanding_otaku/2019.09.30(2021.04.28更新)
[19] 後述する。
[20] 「チャイボーグ」とは、"チャイナ"と"サイボーグ"をかけ合わせた造語で、 サイボーグのように完璧すぎて人間離れしている中国美女のことを指す。くっきりとしたアーチ眉にレッド系コスメを使用した強めなイメージ。(資生堂)。https://www.shiseido.co.jp/sw/beautyinfo/DB009221/
[21] 「千金メイク」は全体的にブラウンやゴールド、オレンジなど暖かいトーンのカラーを使い、ラメを目の周りつけたり、ハイライトをしっかり入れることでゴージャス感をだす。暖かい色味+ラメ&ハイライトを入れ、ゴージャスだけれども上品で可愛らしいメイク。千金メイクは台湾出身のモデル・女優・アーティスト・チェリストとして活躍する欧陽娜娜(オーヤン・ナナ)が、2021年に開催されたGIVENCHYのイベント参加時にしていたメイクが「千金メイク」と呼ばれ、大ヒットした。中国のSNS「RED(小紅書)」では、マネをする人が続出した。「千金メイク」は、その時欧陽娜娜がしていた、まるで大富豪のお嬢様のような、エレガントで華やかなメイク・上品さがあり可愛らしいメイクをさす。https://china-notes.com/chinese-trend-qianjinmakeup/
[22] 韓国の「オルチャンメイク」は、平行眉にオレンジ系コスメを多用した可愛らしいイメージ(資生堂)。https://www.shiseido.co.jp/sw/beautyinfo/DB009221/
[23] https://off-kai.com/
[24]
https://www.r-wiz.com/beauty-salon/yachimata/blog/2021/01/17/38331/
[25]
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72613810Q3A710C2BE0P00/
[26] 自分にとってもっともその活動を応援したい人やキャラクターを「推し」と表現する。その「推し」を応援する活動のことを「推し活」という。「推し」の出ているライブやイベントを観に行ったり、グッズを買ったり、手作りのグッズを作る活動が「推し活」である。
[27] 第4回ラノベ好き書店員大賞文庫部門受賞者。「全国の書店に勤務するライトノベル好きな現役書店員たちが、読者に売りたい作品、読んで欲しい作品を投票で決める」という賞。
[28] 出版社でカルチャー雑誌や小説の編集を手がけたのち、独立。出版産業に関する取材と調査を行っており、『いま、子どもの本が売れる理由』筑摩選書,2020年を出版。
[29] 「エンタメ社会学者」と自称、コンテンツビジネスに関する著書を執筆している。
[30] ホグワーツ魔法魔術学校の四寮の一つ。
[31] ホグワーツ魔法魔術学校の四寮の一つ。
[32] SHEIN Group(https://www.sheingroup.com/)
[33]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000084888.html
[34] ワールドビジネスサテライト(WBS)渋谷パルコ 世界から集客する戦略とは【WBS NEXT】2023.11.17 23:00
[36] テレビアニメ『推しの子』のオープニングテーマ曲、漫画原作者である赤坂アカがYOASOBIのために書き下ろした『推しの子』のスピンオフ小説『45510』を元に制作された。
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