2021年7月12日月曜日

 トヨタ自動車の戦略構想と組織間競争

-ソニー・任天堂からの学習-

清家彰敏 ハリウッド大学院大学教授・富山大学名誉教授

Toyota Motor Corporation's Strategic Concept and Inter-Organizational Competition

-Learning from Sony and Nintendo

 

Akitoshi SEIKE

Hollywood Graduate School of Beauty Business/University of Toyama

 abstract

I propose a novel strategy for Toyota Motor Corporation. 

The current strategy of the woven group may fail because Toyota's structure is not suited to the new automobile business and technology in CASE. 

The failure of the past strategy was also caused by the mismatch of the alliance and collaboration with Tesla. 

In the smart city car business, Toyota should learn from Sony's and Nintendo's strategies that achieve great success in the world. 

The optimal strategy depends on whether the competition among business suppliers is heterogeneous or homogeneous. 

In Sony's strategy, heterogeneous suppliers are assumed to struggle for existence. 

In the case of Nintendo, homogeneous suppliers compete. 

 

Finally, with global perspectives, I also envision a strategy that considers China, the United States and other countries. 

Keyword

CASE

Strategy

Tesla

heterogeneous competition

homogeneous competition

Sony

1.緒言

トヨタ自動車の戦略について分析、提案を行う。トヨタ自動車の現在の戦略は失敗する可能性がある。過去の戦略の失敗は、テスラ・モータース社(1)との提携、連携の失敗であり、今回のウーブングループ(2)による戦略も失敗する可能性がある。失敗の理由はトヨタの体質が新しい自動車ビジネス、CASE(3)などの技術に合っていないためである。トヨタ自動車はスマートシティにおける自動車ビジネスで、ソニー(4)、任天堂(5)の戦略から学習して、戦略を立案すべきである。戦略立案の際に、ビジネスの場におけるサプライヤー・プレイヤー企業間の競争の原理が、異質化競争であるか同質化競争であるかによって成功する戦略が変わる(清家,1999)。なお本稿の競争概念はハイエク(1945)に依拠する。ソニーから学ぶときはサプライヤー、プレイヤー企業が異質化競争を起こすことにより、任天堂から学ぶときはサプライヤー、プレイヤー企業が同質化競争を起こすとき戦略は成功する。ソニー、任天堂といった日本企業に関わらず世界に視点を移して、戦略を、中国、米国などと連携して構想べきであるとの提案も行う。

 

2.ものづくり日本企業のことづくり企業への転換の課題

日本企業はものづくりで世界を牽引してきた。世界のビジネスにおいてことづくりに重心が移るにつれて、戦略構想を変化させていく必要が出てきている。

今井賢一他(1982)、ウイリアムソン(1986)は組織間関係、組織における市場化における競争を日本企業の強みとした。本稿では組織において、競争する単位をグループと個人に2分する。一般にグループは内部を同質化しようとする傾向があり、競争の性質は同質化競争と規定できる。それに対して個人は自由に発想、行動し、そこから競争優位を獲得しようとする傾向があり、個人間の競争の性質は異質化競争と定義できる。

ものづくりは同質化競争とそのマネジメント(清家,1995a)で論じられ、現在もその傾向が強い。それに対して、ことづくりは異質化競争によってイノベーションを起こし、競争優位を獲得する。情報通信・AI支援でのビジネスを一人で行う一人企業(清家,1999)は、米国、中国において異質化競争を繰り広げている。世界的企業で多くの従業員を雇用していても、優れた個人が全て創造、決定し、一人企業として成功している事例は多い。

完全な自由と完全な拘束では競争は起こらない。競争は自由と拘束の中間で起こる。拘束は理念、投入、態度、過程、産出、効果のどれを固定するか、によって同質化競争と異質化競争に分かれる。同質化競争は理念、態度、過程を拘束する。異質化競争は投入、効果を拘束する。

具体的には同質化競争は投入と産出と効果は市場の変化によって予測できない。従って予測できないものに対して、経営者は責任を問わない。経営者は、理念、態度、過程が経営者からみて合理性を持っているかどうか、によって組織間競争を起こさせうる。

ことづくり企業においては、①ことづくりとソフト開発においてプレイヤー企業を集める、②プレイヤーを単位化して異質化競争させる、③選別を進め重点投資を行う、④コトづくりに強みをもったプレイヤーを呼び寄せるコンテンツを集める、➄ソフトの世界展開による世界制覇、これがものづくりで成功し、今後ことづくりで日本企業が成功するための課題である。ものづくり日本企業の今後のために、代表的なものづくり企業であるトヨタのCASEビジネスへの進出を事例として、日本企業の変化を考える示唆としたい。

 

3.トヨタのソニー・任天堂からの学習による組織間競争戦略の試論

ジョブローテーションは、人間の異動によって同質化競争を行い、長期的競争による日本のものづくり企業に成功をもたらした。それに加えてトヨタはサプライチェーンにおいて市場化による競争構造を作った。ウイリアムソン(1986)は取引コストで理論化を試みた。清家(1995b)で詳説したトヨタのボディローテーションはピジネスの移動によって同質化競争を行おうとする。トヨタはグループ内の複数企業のデザイン、開発、生産過程を細分化、単位化し、戦略的にローテーションする。単位化は互換に繋がり、同質化した互換単位はグループ内での仕事の争奪をめぐり競争を行う。トヨタ自動車は単位のコスト、品質を比較し仕事の配分を決める。豊田英二元トヨタ自動車会長のいう「うちでやった方がお得ですよ」は、すなわち魅力的な単位“にならなければグループ内で敗者になる。

サプライヤーはトヨタ自動車と同じ部門を作り、情報を共有しており、人材教育の共通の場(会議体)を持っており、人材はトヨタ自動車と交流しながら共に成長していく。

トヨタのウーブン・プラネット・ホールディングスとウーブン・コア(6)とウーブン・アルファ(7)(以下ウーブン、ウーブングループと略記)はCASE対応が求められソフト開発の多様性を持った異質な人材、チームで構成されている。トヨタはウーブンに対して成功体験に裏付けられた同質化競争の論理で管理すれば、組織の失敗を起こす。トヨタの競争力である同質化競争、リーン生産方式が、ウーブンが行おうとしていることづくり、ソフト作りの体質に合わないからである。

 イーロン・マスクのテスラ・モーターズ(テスラと略記)とトヨタの連携は破局した。トヨタは全面支援をテスラに行ったが、新しい自動車ビジネスにおいて組織の失敗となった。その組織の失敗を再度起こす可能性が高い。ウーブングループの経営者は、トヨタに対して、ものづくり、ハードに対する尊敬は持っているが、ことづくり、ソフトに関してはトヨタが不慣れであると感じている可能性は高い。トヨタが組織の成功を収めるためにはどうすれば良いか。トヨタの体質に合わせたウーブンの組織改革、体質が近い日本企業からの学習による組織間競争による戦略構想作りが課題である。日本において、ことづくり、ソフトづくりでの世界覇権企業はソニーと任天堂に代表される(清家,1999)。

 ソニーはプレイステーション(8)で①高性能低価格のハードづくり、②コトづくり、ソフトづくりを社外に依存(異質化競争)、③モノづくりでは特に強みがないが、④コンテンツによるコトづくりに強みを求める、ことにより世界覇権をとってきた。

この戦略から学習すれば、トヨタは①高性能低価格の自動車で世界市場の覇権をとっているので、②コトづくり、ソフト作りを社外に依存(ヒッペル(1988)のユーザーとの共創による異質化競争)し、③電気自動車によってものづくりによる強みが消えていく中で、④スマートシティに関するコンテンツによるコトづくりを強みにするために、世界のコンテンツをソニーのように積極的に購入していく、戦略である。④コンテンツ獲得に関しては、SDGs、スマートシティにおいては医療データ、環境データからスマホの生活データまで膨大である。世界でトップのコンテンツ獲得の成否が組織の成功をもたらす。

 任天堂は①ハードと一体化したことづくり、②ソフトづくりを監督、③ネットワーク内のソフト会社に開発競争(同質化競争)させ、④日本的なことづくりとソフトの競争力で世界覇権をとってきた。その典型がマリオ(9)からあつまれどうぶつの森(10)などである。この戦略から学習すれば、①ハード(トヨタ車)と一体化したことづくり、②ウーブンのソフトづくりを監督、③ネットワーク内のソフト会社に開発競争(同質化競争)させ、④日本的なことづくりとソフトの競争力で世界覇権をとっていく。トヨタの体質には任天堂のほうが合っている。

しかし、任天堂の戦略を模倣するなら、ウーブンは社長を日本人から選ぶ、その日本人は世界におもてなしの自動車都市生活のことづくり、ソフト作りを行える人材でないといけない。任天堂から人材をウーブンのトップに持ってくる。組織の失敗の危険は、④日本的なことづくりとソフト開発、特にウーブンシティなどによる日本人のおもてなし感覚のスマートシティが世界でガラパゴスになる可能性が高い点である。

トヨタはソニー、任天堂のどちらから学習するのが望ましいか。トヨタは学習組織としても知られている。元町工場で大野耐一氏がトヨタ生産方式、新郷重人氏がシングル段取りを確立し、1970年代80年代とグループ全体が学習していった。次いで80年代~00年代メルセデスベンツの学習が起こり、レクサスの誕生となった。

トヨタの戦略における日本企業ソニー、任天堂からの学習について、ソニーは異質化競争、任天堂は同質化競争である。任天堂はことづくりとソフトにおける同質化競争で世界制覇し、トヨタはものづくりとハードにおける同質化競争で世界制覇を果たした。ことづくり、ソフトで任天堂が世界制覇できた理由はゲーム業界においては世界のことづくり、ソフトづくりのデファクトスタンダードは日本が作っていたからと考えられる。同様にトヨタの成功もトヨタ生産方式が世界のものづくりとハードのデファクトスタンダードになったからである。ウーブンシティが自動車業界のことづくり、ソフトのデファクトスタンダードになれば、任天堂からの学習は成功となる。ウーブンシティが世界のデファクトスタンダードになり得ない理由は三つある。日本の都市は世界の標準ではない。日本の都市の課題は世界の都市の課題ではない。三つ目は日本の自動車業界のことづくり、ソフトづくりは世界のガラパゴスである可能性が強い、である。

 ソニーか任天堂かの選択もあるが、二方面戦略もありえる。トヨタは世界の自動車覇権を今後の10年は握る可能性が高い。資金力が極めて大きい。この間にウーブンを2つに分け、ウーブン1はソニー模倣、ウーブン2は任天堂模倣を行わせる戦略が望ましい。

 ソニーと任天堂はマイクロソフトの参入を阻止できた。その理由はソニーと任天堂という2つの異なるタイプのゲーム企業2社があり、世界市場が3番手を必要としなかったとの見方もできる。今後の10年間をウーブン1とウーブン2が世界市場を席巻すれば、トヨタの覇権はそれ以降も続く可能性がでてくる。

 

4.トヨタのグローバル化への提案

現状のウーブンの戦略についても自動車関係者T氏、経営学者T教授、マスコミN氏へのインタビューを行ったが3人とも失敗するだろうとのことであった。テスラの二の舞になるとの話もあった。“日本”を意識しないならトヨタの戦略は以下である。世界において競争力があると思われるのは、ウーブン・コアだけである。ウーブン・コアはトヨタ、デンソー、アイシンなどトヨタグループのモノづくり、ハード作りグループと競争的にグループ単位で研究開発を行い。ドイツを競争相手として同質化競争で勝機がでる。ウーブン・コアは欧州で同質化競争、インドではスズキと同質化競争を行うことで成功しうる。

 ウーブン・アルファは現状では成功はおぼつかない。ウーブン・アルファはことづくり、ソフトづくりを行わなければならない。この分野は米国と中国広東が圧倒的に優れている。ウーブン・アルファに勝機はない。特に規制が少ない広東の優位は圧倒的である。広東にウーブン・アルファは本社を置き、広東の企業(一人企業)を異質化競争させることで勝機が出る。ウーブン・プラネット・ホールディングスは米中に対してまったく勝機がない。米国と中国は交通システム、ハードで共通点が多い。大型の車が多く、米国の超大型トラックは中国でも走れる。日本では走れない。中国の車も米国でそのままの仕様で走れる。規模感の共有は貴重である。ウーブン・プラネット・ホールディングスは米中のプレイヤー・サプライヤー(一人企業)に異質化競争をさせることで勝機を見いだせる。

 

5.結語

トヨタの戦略について分析、提案を行った。トヨタはスマートシティにおける自動車ビジネスで、ソニーからサプライヤーの異質化競争による戦略を、任天堂からサプライヤーの同質化競争による戦略を学習することが可能である。CASEにおけるビジネスでは供給側のサプライヤーだけでなく販売側のプレイヤーの異質化競争、同質化競争による戦略を構想しなければならない。また世界に視点を移して、異質化競争の戦略を、中国、米国などのプレイヤーと連携して構想すべきであるとの提案も行った。

参考文献

(1) https://www.tesla.com/ja_jp(2021年3月10日検索)

(2) https://www.woven-planet.global/jp/homehttps://www.tesla.com/ja_jp(2021年3月10日検索)

(3) https://global.toyota/jp/mobility/case/(2021年3月10日検索)

(4) ソニー広報センター編(1996)『源流』ソニー創立50周年記念

歴史・ソニーJapanhttps://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/(2021年3月10日検索)

(5) https://www.nintendo.co.jp/(2021年3月10日検索)

(6) https://www.woven-planet.global/jp/woven-core(2021年3月10日検索)

(7) https://www.woven-planet.global/jp/woven-alpha(2021年3月10日検索)

(8) https://www.playstation.com/ja-jp/ps5/(2021年3月10日検索)

(9) https://www.nintendo.co.jp/character/mario/(2021年3月10日検索)

(10) https://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.html(2021年3月10日検索)

日本語

今井賢一他(1982)『内部組織の経済学』東洋経済新報社.

清家彰敏(1995a)『日本型組織間関係のマネジメント』白桃書房

清家彰敏(1995b)「自動車産業の高度成長とプロセス・イノベーション」野中郁次郎・永田晃也編著『日本型イノベーション・システム』白桃書房

清家彰敏(1999)『進化型組織』同友館

清家彰敏(2002)『顧客組織化のビジネスモデル』中央経済社

英語

Hayek,F.A.(1945)”The Use of Knowledge in Society”,American Economic Review,Sept.

Hippel,E.(1988)The Source of Innovation,Oxford Press,NY.

MIT Commission on Industrial Productivity (1989)The U.S.Automobile Industry in an Era of International Competition: Performance and Prospects, Working Paper prepared by James P.Wormack.

Williamson,O.E.(1986) Economic Organization:Firms,Markets and Policy Control,Wheatsheaf Book Ltd,1986.

(組織学会2021年度研究発表大会 2021年6月5日オンライン大会報告)

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