「京都」港というと(京都舞鶴港がハブ港になると)世界的な知名度は最高です。
中国・韓国と米国の貿易は日本海を通過する航路が最短距離であり、太平洋側は通らない。また北極回り航路が形成されるとさらに日本海航路の使用が増える。太平洋側の工業団地は今後その重要性が急速に低下し、日本海側の工業団地を重視、または日本海側へ移転すべきである。
現在、中国、韓国も、米中貿易であこがれのアメリカ行きの船はコンテナに商品満載?
ところがアメリカからの帰り船は空っぽ?
中国、韓国から見て、アメリカへの商品輸出は帰り船の積載率が悪い?アメリカは売る商品が無い。アメリカの特産品ソフトはコンテナに積む必要が少ない。
したがって、帰り船を満載にするには、なるべくアジアの沢山の国の注文を取って回ることになる。
そして、帰りは出来るだけアメリカの商品を積載して、日本、韓国、北朝鮮、ロシア、台湾の顧客へ分散届けると帰り船の積載率が上がる。
日本海通過航路の途上にハブ港を完備し、各国の集荷に加え、日本の各地を加え積載率を上げるのが自然である。
上海、釜山より東でより米国に近いハブ港(北極海航路が拓かれると日本海通過航路は欧州までの距離を半減させる)はコンテナ船の燃料消費を削減させることが出来る(日経新聞2010年12月27日9面「経営の視点 ハブ港奪回の最後のチャンス(中央大学理工学部鳥海重喜助教:竹田忍編集委員)」参照)。
北朝鮮、中国吉林省(人口2700万人)、黒龍江省(人口3800万人)から豆満江などが整備されれば集荷が望め、上海、釜山から適当に離れている日本海側の港が望ましい。
そのため日本海通過航路は日数、燃費だけでなく太平洋航路よりはるかに有利である。
日本の3大消費地、工業集積地を考慮して考察してみよう。
京阪神、中京は
京都港:京都舞鶴ハブ港
舞鶴から敦賀にかけての一体を
拡大京都港として「日本海ハブ港」にするのが有利と考えられる(日経新聞2010年12月27日9面「経営の視点 ハブ港奪回の最後のチャンス(清家他:竹田忍編集委員)」参照)。
帰り船で、関西、中京のお客を取れる。
これは中国、韓国にとって魅力である。
中京地帯は他に石川各港が東海北陸道を使っての日本海港である。
それに対して、京浜地帯は新潟港と富山伏木港などが重点港湾から外れて「日本海港軽視」の状態となった。
京浜地帯にとって日本海港を国家が重点港にしなかったことの不利は大きい。
さて、日本海のインフラについて、特に港湾立地消費・産業集積、海外も含めた産業誘致の可能性を考察してみよう(清家・清剛治(北陸先端科学技術大学研究員「研究技術計画学会全国大会報告2010年(亜細亜大学))参照)。
理想的な産業インフラ造成地域として浮かびあがってくるのが、①北海道・青森地域(津軽海峡・首都圏輸送)、②舞鶴(日本海中心位置・関西圏/中部圏輸送)、③北九州地域(関門海峡・九州圏輸送)、である。
日本海側においては、北海道と青森は大規模な工業団地が空いており、日本海航路を活用する最適地である。
福岡・北九州は韓国釜山とともに良い立地であるが、現在工業団地の空きは少ない。
日本海側の消費、産業立地上での将来性を考えてみると
日本海側石川、富山、新潟などにとっては北朝鮮の良質低賃金労働力2000 万人は大変な魅力となる。
北朝鮮と北陸は高速船(テクノライナー)を使えば8 時間であり、夕方収穫した野菜を翌日の朝、日本に届けることが可能である。豆満江が整備されると吉林省、特に黒龍江省の資源、穀物などの集荷も見込める。
さて、日本海をめぐるインフラの未来を考えてみよう。
1)(産業技術的視点)東海道における社会資本の劣化
東海道における社会資本の劣化は北陸社会資本としての北陸新幹線沿線の活用で補完でき、これは地震等対策ともなる。
北陸新幹線は日本縦断観光新幹線、日本縦断貨物新幹線の一部として、将来構想が可能である。
北海道から九州まで貨物新幹線が開通すれば1 日配送圏は飛躍的に広がり、グリーンツーリズムからいってもトラック輸送の激減でもメリットは大きい。
高齢化している日本では長距離トラック網の維持は困難である。
新幹線は東海道新幹線のみ旅客輸送に特化させ、貨物新幹線は北海道から大宮、北陸新幹線、大阪から九州となるのがもっとも妥当と思われる。
この貨物新幹線が時速250 キロから300 キロ走行を実現させれば、世界への輸出産業となる。
青函トンネル通行用在来車両搭載新幹線は、貨物新幹線への発展可能性を持っていると思われる。
2)(周辺国の動向)
周辺国からの社会資本要請
周辺国からの社会資本要請は、日韓トンネルは戦前より計画されているが、それに加えロシアはシベリア鉄道を間宮海峡からサハリン、そして日本の北海道新幹線と連結させる構想がある。
シベリア鉄道は超広軌で、中国、韓国、日本の新幹線とはゲージが異なる(ドイツとも異なり、
これが第2 次世界大戦ドイツ軍のソ連戦の兵站維持を困難にした)。
日本韓国中国欧州新幹線が考えられる。
日本海環状新幹線の検討も可能である。
日本海環状新幹線は沿線の社会資本形成の中核となる。
2011年2月25日金曜日
インドと中国を比較する:久保田・清家 『実業の富山』誌参照
インドと中国を比較する
「ものづくりの現場」
久保田 洋志氏・広島工業大学工学部教授
「シー・モア」「シンク・モア」に反応するインド人
清家 彰敏氏・富山大学経済学部・大学院MBA教授
中国人には「ご存知のように」で気持ちをつかむ
清家 「BRICs」と呼ばれる新興諸国の中でも特に経済発展のめざましい中国に、四万社とも五万社とも数えられる多くの日本企業が進出しています。一方で中国についてはチャイナリスクということも言われ、同じように高成長を続け中国に次ぐ巨大市場としてインドに目を向ける企業も増えてきました。品質管理(TQM)、設備管理(TPM)が専門でデミング賞委員会の委員や、QCサークル本部幹事なども務められている久保田先生は、日系の進出企業をはじめタタグループなどのインド企業に対しても品質管理の指導をされておられて、インド人の考え方やビジネスのやり方にも詳しい。インドへ進出していく企業が富山県企業の中にも今後増えていくと思われますが、まずインドの現状をお話いただけますか。
久保田 インドは一九七九年に経済開放した中国に遅れること、十二年後の一九九一年から経済の自由化がスタートしました。国営企業を民営化し、市場が開放されるなかで、今まで輸入していたものを国内で生産するという民間主導の投資活動が活発化してきました。先にニッチ市場で先行し、さらに海外から技術を導入して自分たちのものにしていく。まず内需に対応し、さらに一部輸出にもっていくというパターンです。
清家 技術を導入する場合、外資企業に任せると言うやり方の中国とは違うのですね。
久保田 インドの場合、技術を単にコピーしたり、そのまま導入するということではない。自分たちで使いこなしながら、自分たちが納得した技術を広げていこうという意識が強いですね。最近までインドには国産の乗用車がなかったのですが、タタ自動車は今の自分たちの技術で乗用車を作れないはずがないといってチャレンジしたわけです。
ただ、インドはもともと社会主義でしたから、土地は今も全て国からのリースです。リースしてもらうには、地域住民との関係をよくしておかないといけない。用地を準備して公社をつくり、農地を整備して溜め池をつくる。健康の問題や水の問題も解決する。それらをうまくやらないとリースさせてもらえません。
清家 中国では中央政府や地方政府が絶大な権力を発揮して企業を誘致したり工業団地の開発を進めますが、インドの場合は住民の説得に時間がかかるようですね。
久保田 タタ自動車が「ナノ」を生産するため当初予定していた西ベンガル州の工場が地元の反対にあって建設断念を余儀なくされたことがありました。反対運動を煽動する野党の政治家がいたからですが、結局、住民たちは働き場がなくなるわけですから、今回の選挙では工場の建設を反対した人たちは票を落としたようです。民主主義の国だからこういうことも起きるわけです。
インドは全員参加型、中国は専門化集団
清家 企業経営における経営者の人に対する考え方も、中国とインドではかなり違うように思います。中国では欧米で教育を受けた層、あるいは大学を出た層と、それ以外とではっきり二分化されています。ワーカーは単純労働にしても改善にしても言われなければやりません。
久保田 企業が成功するには金、技術、人という条件がありますが、インドの経営者の多くは人がいちばん大事だと考えています。人材を育成して技術を習得させ、全体として組織を望ましい方向にしていこうとします。育てる対象はワーカー、スタッフ両方ともです。中国では人に投資することはありませんね。よく中国人は個人主義であり欧米人に近いと言われますが、間に合わなかったら人を替えればいい、という感じです。
清家 工場現場の中でも活発な議論が行われるのですか。
久保田 お客さんの品質やコストに対する要求は非常に厳しいので、そうしないと競争に勝てない。少なくともデミング賞とかTPMに取り組んでいる企業は、人が育って活性化することによって可能性を高めると考えています。世界中からいいものを集めてくる。当然、技術もそれに伴って入ってくる。いかに設備をうまく使い、品質のいいものをつくるかとなると日本的なやり方を導入するパターンが多い。
清家 日本では業務や作業の改善提案をQC活動の中で行っていく場合、例えばQC(品質管理)の七つ道具といわれる代表的な技法がありますが、こうした活動に対する抵抗感はありませんか。
久保田 それはないように感じます。例えば、自動車用のガラスメーカーの旭インディア硝子という会社は日本の旭硝子の技術を取り入れているのですが、日本から設備を買わずに自分たちの仕様で設備を発注しています。ガラスを運ぶときも日本でのやり方だと割れてしまうので、インドの道路事情に合った梱包や運送形態にするというようにいろいろ工夫してやっています。
清家 欧米のメーカーはどの国でもそうですが、勝手に仕様を変えられたくないので、なるべくブラックボックスにしようとします。コンピュータソフトもソースコードを公開しません。メンテナンスも自分の会社の駐在員にやらせるようにする。だから、欧米とリンケージできる一部の企業を除き、その輪に入れないという感じがありますね。
久保田 インド人は単なるコピーを嫌います。時間はかかるけど、確実に自分のものにしていきます。TQM(品質管理)、TPM(設備管理)、TPS(トヨタ生産方式)は3Tと呼ばれ、日本発の代表的なマネジメントシステムですが、それぞれが自覚して皆で知恵を出しながら改善を重ねるというやり方ですから、皆を教育しないといけない。全員参加でやっていると、従業員は問題意識、品質意識をもつようになり、スキルも上がります。ところが、中国では問題解決のための専門家集団を作ってそこにやらせますので、全従業が問題意識、品質意識を共有することがないのです。
欧米、日本からの「いいとこどり」
清家 インドと中国の比較で言うと、中国の経営者とか政府の人は意外と勉強していないのですね。欧米企業と日本企業を競争させて比べるだけなので、自分では勉強しなくていいわけです。表面的な勉強だから思い込みも激しい。当然わかっているだろうと思っていることがわかっていなかったりして、そこでトラブルになったりすることが往々にしてあります。日本の場合、戦略を立てるにしてもボトムアップで下から積み上げて年度計画にしていきますが、中国の場合は欧米流なので上から行きます。インドはどちらですか。
久保田 インドも基本的にはトップダウンですが、実際に展開するときに階層間のすり合わせをやります。そういう意味で一部ボトムアップとの融合を図る進め方です。そこが日本流と合っているところです。
しかもインドの人は勉強家です。インド工科大学も頭脳立国インドを目指してつくられました。そういう風土があるから、タタ製鉄で品質管理の指導に行っても五時で終わるはずが八時まで付き合わされるというようにものすごく熱心です。
清家 日本と欧米のハイブリッドということですか。
久保田 そうだと思います。タタをみていても、技術は欧米から、ITは米国から、マネジメント技術は日本から、そして戦略やM&Aは自分たちでやっていく。「いいとこどり」のスタンスですね。
清家 「いいとこどり」という点では中国もそういうところがありますね。設備はヨーロッパの国々に競争させて、いいものを買う。経営はアメリカモデルでやり、日本については工場現場を学ぶという感じです。
久保田 品質経営についていうと、米国流はあくまでも結果を重視するのに対し、日本はプロセスを重視します。インド企業はデミング賞に興味がありますから、日本的なやり方でやりたい。目標に対してどういう手段で達成するかを追求させ、PDCAを回します。
インドのトップは現場を熟知する
清家 経営の意思決定のスピードは、中国は非常に速い。経営層がものすごく力をもっていて、欧米の手法を導入を徹底してやります。金が集まるのも速いし、設備が入るのも速い。専門家チームを作って欧米に派遣して学ばせ、実際の仕事は下の連中に徹底してやらせます。
久保田 高速道路をつくるとか、トンネルを掘るとなると、中国はアセスメントがいらないからものすごく速くやれます。日本のように現地に合わせて杭を変えるということもなく、どこでも標準的な工法でやります。インドは地元との関係がありますから、そこまで速くできません。
しかし、企業は厳しい競争の中でやっていますから、企業レベルでの意思決定は速い。基本的なことはトップが決め、人事も大胆です。資金的な手当てにも思い切ってチャレンジします。そうした意思決定の速い経営は、日本よりもはるかに欧米に近いでしょう。特徴的なのはトップが現場をよく知っていることです。タタ自動車では工場長自らが現場を回っています。現実を知らないでマネジメントはできないという考え方です。
清家 その点で、インドの方が日本と合いそうですね。
久保田 戦略とか戦術、M&Aではインドの方が日本よりすぐれているかもしれません。経営者は戦略の立て方がものすごく上手です。まずビジョンを作り、次にミッション、そしてバリュー。必ずこの三点セットがあって、それに対して戦略をとる。その中にM&Aも入ります。論理的な展開でもそうです。中国の企業家と比べて、インドの企業家は国際ビジネスの取り扱いに慣れている。ただ、トップの考え方に手足が付いていっていない、つまりまだまだ下まで徹底して実践できていないところが今のレベルです。それを意識しているからこそ彼らは日本的やり方を学ぶのです。
インド人は「印僑」といわれるほどですから、ものすごく商売はうまい。今度、タタ製鉄は新日鐡と技術提携して高炉からの一貫製鉄所をつくるのですが、出資比率は五一%対四九%でタタがマジョリティーを持ちます。クボタと一緒に行う道路建設でもタタが五一%を押さえています。
清家 下があまり考えていないから上が速いスピードでやれるという面もあります。下が考え出すと、上が好きなようにできなくなる。日本の場合もそれでスピードがどんどん遅くなっていったという意見もあります。中国は下の方には経営情報を全く教えません。そうするといつまでも速く動ける。
それに日本人やドイツ人は例えばエンジニアとして一生を工場で送ることに余り抵抗がありませんが、中国人には一生を工場だけで過ごすことには抵抗があって、今は工場にいるけど、ここにいたくないという意識がいつもあります。現場に限らず、中国企業の幹部や技術者を対象に社内講師の育成に行っても、次に行ったときにはもう辞めていたりします。勤労意識が違う。
インドでは、勉強して実力をつけていけば工場現場の中からでもキャリアアップしていける可能性はあるんですか。
久保田 現場力というのはやはり日本が特別強いと思います。インドはそこまで行かないので、ある程度トップが決めて動機付けします。だから現場の意見を聞いて民主的に決めるということはありませんが、頑張れば頑張ったなりに報われるし現場の監督、職長くらいにはなれるチャンスはあります。
清家 中国人は企業に対するロイヤリティよりも、学閥とか横のネットワークを非常に重視します。現場の人の教育はインド人がするのですか。
久保田 タタのように社内に教育施設をもち、コースやカリキュラムを作っているところもあります。そこでも私たちが呼ばれてスタッフを教育し、彼らが現場へ行って現場にやらせています。日本で学んだことをあちこちで指導することにやり甲斐を感じているから、すぐに辞めて行くというのはあまりありません。スタッフの場合、よりよいところへ移ったりしますが、あくまで個人的なレベルの行動です。
だから、組織として会社に対するロイヤリティは全体として高いと思います。スタッフの定着率はあまりよくないけれど、ワーカーは現地の人であり、そこに家もあるし家族もいるから、割と定着率が高い。いい会社であるほど生活が保障され、伸びている会社であればそれだけでモチベーションが高い。その意味で、インド人は工場労働者としての人生に満足できると思います。「活性化」という言葉があるのですから、彼らにもいきいき働きたい、成長したいという気持ちがあって、和の精神とか自己実現という言葉が通用します。
企業が学校をつくる
清家 中国では日本と異なり男性と女性で働く職場や地位に関して差はありませんが、インドではどうですか。
久保田 業種による違いはありますが、例えば国内でも大手のテックマンという従業員四万人規模のIT企業がありますが、ここではゼネラルマネージャーも含め幹部に女性がたくさんいます。女性のドクターも多い。女性の進学率も次第に高くなって知恵で勝負するところ、専門的なところで活躍する女性が目立ってきていると思います。製造業の分野ではまだ少ないかもしれませんが、タタ自動車では、本来の秘書業務をやっていたのは女性でしたし、教育訓練や福祉スタッフ、試験評価部門にも女性がいました。開発のマネジメントや技術講演会には女性も参加していましたから、男女差にそれほど開きがあるとは感じませんでした。
インド中西部のムンバイから百五十㌔のところにプネと言う町がありますが、今この郊外に中国の規模をはるかに超えるようなITパークが建設されていますけど、こうしたきれいなところだと安心して働けるし、住むのにもいい。きれいなところで働きたいと思うのは、どの国の女性でも思いは同じでしょう。
業種や地域の違いはあれ、教育環境の向上も女性の社会進出が盛んになってきたという背景もあると思います。インドで特徴的なのは、企業には社会的責任として学校をつくることが気風としてあって、学校へ行く子どもが増えています。企業が学校をつくるのは一つは治安の維持のため、もう一つは将来の労働力のためです。インド工科大学(IIT)もタタ財団が資金を出していますし、タタに限らず企業には公益性の意識は強いのではないでしょうか。
小学校ではまず英語教育をし、高学年になってヒンズー語を教えます。インドでは英語ができるというのは必須条件なので、エリートだけでなく、タクシー運転手とかホテルマンも皆英語を話します。そうした英語力の高さを生かしてITで世界的評価を高めたわけで、IT企業は女性の職場進出でもIT産業は大きな役割を果たしたと言えます。
それと、インドの場合、植民地時代があり、生活の中で英語をしゃべる人が多いから自然と皆英語を話すようになります。地理的にも欧米の時間帯の中間にあるなど、先進国の企業にとってビジネス上のメリットが多い。特にIT企業にとって欧米相手に英語で話が通じるから、向こうでプログラム開発をしている技術者が休む時間にインドの技術者がそれを引き継ぐという、二十四時間体制で対応できるのが強みでしょう。
よく質問されるカースト制度に関しても、ITの職場ではほとんど影響がないし、製造の現場でも最初、指導に行ったころはカースト制の壁があってむずかしいところもありましたが、現場がちゃんとしないと品質的にいろいろ問題を起こしますから、昔ほどカースト制は表に出なくなりました。上の方もあまりカースト制を意識していません。学校もそうだし、選挙で最下層のカーストがどんどん議員に選ばれて、カースト制が崩れつつあります。
一人っ子政策のつけが来る
清家 英語教育は中国でも非常に熱心で、幼稚園でも英語を教えています。教育ママというか、儒教的な意味での熱心さがあります。そうはいっても学費がすごく高いので、いい学校へ行くにはお金がかかる。それでも大学を出ても就職できないことを覚悟のうえで親はいい大学へ進学させようとします。一部のエリート層は非常に恵まれていますが、所得によって将来受けられる教育に格差が出てきていますね。インドの場合はどうでしょう。
久保田 親というより国や地方がサポートする感じです。誰かが有名大学に入ると村あげて応援し、社会人として成功した時、彼らは大学へ行かせてくれた家族に感謝することはもちろん地域社会に対しても恩返しすることを当然のように行うという風土があります。
中国はこれから一人っ子政策のつけが来ると思います。最近、中国のアモイにできた新しい大学を見に行ったら、先生は一生懸命講義をしているのに、教室の後ろの方の学生は遊んでいるのです。勉強はしないのに、汚い仕事は嫌、いい仕事をしたいという。こういう人を採用したら企業は最悪です。一方、インドは人口が増えても抑制策をとっていません。もともと民主化が進んでいるし、インドそのものが成長過程にありますから、インドの方が安定していくかかもしれません。
進出の際に注意すること
清家 日本企業が中国へ進出する場合、トップと仲介者とスタッフを重点に置いて、工場労働者にあまり重点を置かない方がむしろ成功している場合が多いように感じます。誘致する側、つまり地方政府がОKといっているなら、現地の住民のことはほとんど考えなくていい。
契約に対する意識も違いますね。日本人は事前に慎重に調べますけど、中国人はあまり調べないでぱっと契約するから、進出条件とビジネス条件が違って後でトラブルになったりします。中国の法律はOECDでやっているものをそのままもってきます。細則とか事例がないので、人治でやっている部分がかなりあります。税法なども頻繁に変わります。
久保田 インドはヨーロッパ的な契約社会を踏襲していますから、最初の段階で特許の範囲で抑えておくとかきっちり詰めておく必要があります。ただし、インドも経済が開放されてから、いろいろぎくしゃくしながら再構築しているので、税法が変わったりしますね。この点でまだ途上にあります。
インドでは国との関係が大事です。土地をリースしないといけないし、住民ともうまくやっていかないといけないので、そういう意味のサポートやサジェスチョンが必要になります。インドはまだ生活環境が整っていないし、日本人に合う食べ物も限られますから、赴任するときに家族で行くのは大変かもしれません。どこかとアライアンスを組んで、その中でインド人を使いながら、場合によってはかなりの権限を与えながら共存していくという感じがいいのではないでしょうか。
清家 サプライチェーンでの取引は日本のような長期的な系列取引の傾向はありますか。
久保田 ある程度長い付き合いをするなかで共存共栄していこうというスタンスはあります。ビジネスとしていい関係ならお互いに大切にしていきますが、相手が悪いと思ったら切ります。日本のように情に流されることはありません。いい仕事が来れば、自分たちも力がついてくるのだから、そういう意味でほとんどがウィン・ウィンの関係です。
清家 地域的に工場立地するならここがおすすめというのはありますか。
久保田 インドは生産基地と大きな市場という二つの面をもっています。生産基地についてはマルチスズキが成功例で、部品メーカーもたくさん出てビジネスが成り立っています。生産基地であり、同時に市場になっている。工業団地のようにいろんな企業が集積している地域を選んで出るのであれば、それほど問題は起こりません。そういうところはインフラや治安の問題、生活の面からいって条件が整備されています。ロジスティクスも整っているし、地元との交流も盛んです。単独で行くのはしんどいので、やはりグループでアライアンスを組みながらやるのがいいと思います。ただし、ネックは電力事情が悪く、停電はしょっちゅうです。成長に対してインフラがついていっていないのです。
日本に足りないハングリー精神
清家 海外へ出る場合、良いパートナーを探すことになるのですが、本当に良いパートナーと長期的な関係をつくるのはむずかしいですね。
久保田 インド人は自分たちのビジネスのパートナーとして適切かどうか、見ていると思います。ビジネスの構造はどんどん変わっていきますから、その都度考え、評価していきます。もちろん競争はさせますが、それは入札のような競争でなくて、育てていくという意味の競争です。駄目だったらマネジメントを替えますから、結構プレッシャーです。
清家 サムスンやLG電子、現代自動車、ポスコ、斗山重工業など韓国企業のインド進出が目立っています。日本企業とどこに違いがあると思われますか。
久保田 韓国は自国の市場が小さいうえ、「ここで負けたら後がない」という気持ちが強いから最初から世界戦略をとっています。日本は小さく成功したら次第に大きくしていくのに対し、韓国は集中投資します。兵役があることも違います。韓国人は海外へ出て仕事することを兵役に比べたら「まし」だといいます。だから進出先には家族連れで行ってマネジメントをします。日本のように腰かけではありません。イメージづくりもうまい。だけど、品質管理についてはやはりメード・イン・ジャパンの評価は高いです。
清家 韓国は先を行く欧米と日本、そして後から追ってくる中国の間でサンドイッチ状態にあるから、サムスンなどは中国やインドに対しても先に進出となるわけでしょうね。その場合、私はこの中国、インドの二つの国はかなり違うということをどこまで勉強するかが大事だと思うんです。世界はどんどん変化しています。三年後、五年後にはまったく環境が変わっていると考えた方がいいかもしれません。
久保田 中国、インド、韓国に共通しているのは、豊かになりたいという健全なハングリー精神があることです。そのやり方とか社会構造は違いますから、その違いがこれからいろいろ表面化してくるのではないかと思います。
清家 日本は豊かになろうと思っていない。そこが一番の問題です。企業の方からよく耳にするのは、新入社員は「よく働くのだけど、上に言われて働くだけ」と聞かされることが多い。学生を見ていても自分からどんどん変えていこうとか、何かに挑戦しようという気概が足りないと感じます。
久保田 大学教育はあてにならないし、企業が採用した人を鍛えていくしかないのですね。大学へ行っただけでは通用しないとなると、大学も変わらざるをえないと思います。インド人はプライドが高いから、「シー・モア(もっとみろ)」「シンク・モア(もっと考えろ)」と言うと反応してくれます。今の日本には「モア」の概念がありません。
清家 プライドが高いのは中国人も同じですね。中国に行って指導するとき、彼らに「ご存知のように」というとしっかり聞いてくれます(笑)。有難うございました。
「ものづくりの現場」
久保田 洋志氏・広島工業大学工学部教授
「シー・モア」「シンク・モア」に反応するインド人
清家 彰敏氏・富山大学経済学部・大学院MBA教授
中国人には「ご存知のように」で気持ちをつかむ
清家 「BRICs」と呼ばれる新興諸国の中でも特に経済発展のめざましい中国に、四万社とも五万社とも数えられる多くの日本企業が進出しています。一方で中国についてはチャイナリスクということも言われ、同じように高成長を続け中国に次ぐ巨大市場としてインドに目を向ける企業も増えてきました。品質管理(TQM)、設備管理(TPM)が専門でデミング賞委員会の委員や、QCサークル本部幹事なども務められている久保田先生は、日系の進出企業をはじめタタグループなどのインド企業に対しても品質管理の指導をされておられて、インド人の考え方やビジネスのやり方にも詳しい。インドへ進出していく企業が富山県企業の中にも今後増えていくと思われますが、まずインドの現状をお話いただけますか。
久保田 インドは一九七九年に経済開放した中国に遅れること、十二年後の一九九一年から経済の自由化がスタートしました。国営企業を民営化し、市場が開放されるなかで、今まで輸入していたものを国内で生産するという民間主導の投資活動が活発化してきました。先にニッチ市場で先行し、さらに海外から技術を導入して自分たちのものにしていく。まず内需に対応し、さらに一部輸出にもっていくというパターンです。
清家 技術を導入する場合、外資企業に任せると言うやり方の中国とは違うのですね。
久保田 インドの場合、技術を単にコピーしたり、そのまま導入するということではない。自分たちで使いこなしながら、自分たちが納得した技術を広げていこうという意識が強いですね。最近までインドには国産の乗用車がなかったのですが、タタ自動車は今の自分たちの技術で乗用車を作れないはずがないといってチャレンジしたわけです。
ただ、インドはもともと社会主義でしたから、土地は今も全て国からのリースです。リースしてもらうには、地域住民との関係をよくしておかないといけない。用地を準備して公社をつくり、農地を整備して溜め池をつくる。健康の問題や水の問題も解決する。それらをうまくやらないとリースさせてもらえません。
清家 中国では中央政府や地方政府が絶大な権力を発揮して企業を誘致したり工業団地の開発を進めますが、インドの場合は住民の説得に時間がかかるようですね。
久保田 タタ自動車が「ナノ」を生産するため当初予定していた西ベンガル州の工場が地元の反対にあって建設断念を余儀なくされたことがありました。反対運動を煽動する野党の政治家がいたからですが、結局、住民たちは働き場がなくなるわけですから、今回の選挙では工場の建設を反対した人たちは票を落としたようです。民主主義の国だからこういうことも起きるわけです。
インドは全員参加型、中国は専門化集団
清家 企業経営における経営者の人に対する考え方も、中国とインドではかなり違うように思います。中国では欧米で教育を受けた層、あるいは大学を出た層と、それ以外とではっきり二分化されています。ワーカーは単純労働にしても改善にしても言われなければやりません。
久保田 企業が成功するには金、技術、人という条件がありますが、インドの経営者の多くは人がいちばん大事だと考えています。人材を育成して技術を習得させ、全体として組織を望ましい方向にしていこうとします。育てる対象はワーカー、スタッフ両方ともです。中国では人に投資することはありませんね。よく中国人は個人主義であり欧米人に近いと言われますが、間に合わなかったら人を替えればいい、という感じです。
清家 工場現場の中でも活発な議論が行われるのですか。
久保田 お客さんの品質やコストに対する要求は非常に厳しいので、そうしないと競争に勝てない。少なくともデミング賞とかTPMに取り組んでいる企業は、人が育って活性化することによって可能性を高めると考えています。世界中からいいものを集めてくる。当然、技術もそれに伴って入ってくる。いかに設備をうまく使い、品質のいいものをつくるかとなると日本的なやり方を導入するパターンが多い。
清家 日本では業務や作業の改善提案をQC活動の中で行っていく場合、例えばQC(品質管理)の七つ道具といわれる代表的な技法がありますが、こうした活動に対する抵抗感はありませんか。
久保田 それはないように感じます。例えば、自動車用のガラスメーカーの旭インディア硝子という会社は日本の旭硝子の技術を取り入れているのですが、日本から設備を買わずに自分たちの仕様で設備を発注しています。ガラスを運ぶときも日本でのやり方だと割れてしまうので、インドの道路事情に合った梱包や運送形態にするというようにいろいろ工夫してやっています。
清家 欧米のメーカーはどの国でもそうですが、勝手に仕様を変えられたくないので、なるべくブラックボックスにしようとします。コンピュータソフトもソースコードを公開しません。メンテナンスも自分の会社の駐在員にやらせるようにする。だから、欧米とリンケージできる一部の企業を除き、その輪に入れないという感じがありますね。
久保田 インド人は単なるコピーを嫌います。時間はかかるけど、確実に自分のものにしていきます。TQM(品質管理)、TPM(設備管理)、TPS(トヨタ生産方式)は3Tと呼ばれ、日本発の代表的なマネジメントシステムですが、それぞれが自覚して皆で知恵を出しながら改善を重ねるというやり方ですから、皆を教育しないといけない。全員参加でやっていると、従業員は問題意識、品質意識をもつようになり、スキルも上がります。ところが、中国では問題解決のための専門家集団を作ってそこにやらせますので、全従業が問題意識、品質意識を共有することがないのです。
欧米、日本からの「いいとこどり」
清家 インドと中国の比較で言うと、中国の経営者とか政府の人は意外と勉強していないのですね。欧米企業と日本企業を競争させて比べるだけなので、自分では勉強しなくていいわけです。表面的な勉強だから思い込みも激しい。当然わかっているだろうと思っていることがわかっていなかったりして、そこでトラブルになったりすることが往々にしてあります。日本の場合、戦略を立てるにしてもボトムアップで下から積み上げて年度計画にしていきますが、中国の場合は欧米流なので上から行きます。インドはどちらですか。
久保田 インドも基本的にはトップダウンですが、実際に展開するときに階層間のすり合わせをやります。そういう意味で一部ボトムアップとの融合を図る進め方です。そこが日本流と合っているところです。
しかもインドの人は勉強家です。インド工科大学も頭脳立国インドを目指してつくられました。そういう風土があるから、タタ製鉄で品質管理の指導に行っても五時で終わるはずが八時まで付き合わされるというようにものすごく熱心です。
清家 日本と欧米のハイブリッドということですか。
久保田 そうだと思います。タタをみていても、技術は欧米から、ITは米国から、マネジメント技術は日本から、そして戦略やM&Aは自分たちでやっていく。「いいとこどり」のスタンスですね。
清家 「いいとこどり」という点では中国もそういうところがありますね。設備はヨーロッパの国々に競争させて、いいものを買う。経営はアメリカモデルでやり、日本については工場現場を学ぶという感じです。
久保田 品質経営についていうと、米国流はあくまでも結果を重視するのに対し、日本はプロセスを重視します。インド企業はデミング賞に興味がありますから、日本的なやり方でやりたい。目標に対してどういう手段で達成するかを追求させ、PDCAを回します。
インドのトップは現場を熟知する
清家 経営の意思決定のスピードは、中国は非常に速い。経営層がものすごく力をもっていて、欧米の手法を導入を徹底してやります。金が集まるのも速いし、設備が入るのも速い。専門家チームを作って欧米に派遣して学ばせ、実際の仕事は下の連中に徹底してやらせます。
久保田 高速道路をつくるとか、トンネルを掘るとなると、中国はアセスメントがいらないからものすごく速くやれます。日本のように現地に合わせて杭を変えるということもなく、どこでも標準的な工法でやります。インドは地元との関係がありますから、そこまで速くできません。
しかし、企業は厳しい競争の中でやっていますから、企業レベルでの意思決定は速い。基本的なことはトップが決め、人事も大胆です。資金的な手当てにも思い切ってチャレンジします。そうした意思決定の速い経営は、日本よりもはるかに欧米に近いでしょう。特徴的なのはトップが現場をよく知っていることです。タタ自動車では工場長自らが現場を回っています。現実を知らないでマネジメントはできないという考え方です。
清家 その点で、インドの方が日本と合いそうですね。
久保田 戦略とか戦術、M&Aではインドの方が日本よりすぐれているかもしれません。経営者は戦略の立て方がものすごく上手です。まずビジョンを作り、次にミッション、そしてバリュー。必ずこの三点セットがあって、それに対して戦略をとる。その中にM&Aも入ります。論理的な展開でもそうです。中国の企業家と比べて、インドの企業家は国際ビジネスの取り扱いに慣れている。ただ、トップの考え方に手足が付いていっていない、つまりまだまだ下まで徹底して実践できていないところが今のレベルです。それを意識しているからこそ彼らは日本的やり方を学ぶのです。
インド人は「印僑」といわれるほどですから、ものすごく商売はうまい。今度、タタ製鉄は新日鐡と技術提携して高炉からの一貫製鉄所をつくるのですが、出資比率は五一%対四九%でタタがマジョリティーを持ちます。クボタと一緒に行う道路建設でもタタが五一%を押さえています。
清家 下があまり考えていないから上が速いスピードでやれるという面もあります。下が考え出すと、上が好きなようにできなくなる。日本の場合もそれでスピードがどんどん遅くなっていったという意見もあります。中国は下の方には経営情報を全く教えません。そうするといつまでも速く動ける。
それに日本人やドイツ人は例えばエンジニアとして一生を工場で送ることに余り抵抗がありませんが、中国人には一生を工場だけで過ごすことには抵抗があって、今は工場にいるけど、ここにいたくないという意識がいつもあります。現場に限らず、中国企業の幹部や技術者を対象に社内講師の育成に行っても、次に行ったときにはもう辞めていたりします。勤労意識が違う。
インドでは、勉強して実力をつけていけば工場現場の中からでもキャリアアップしていける可能性はあるんですか。
久保田 現場力というのはやはり日本が特別強いと思います。インドはそこまで行かないので、ある程度トップが決めて動機付けします。だから現場の意見を聞いて民主的に決めるということはありませんが、頑張れば頑張ったなりに報われるし現場の監督、職長くらいにはなれるチャンスはあります。
清家 中国人は企業に対するロイヤリティよりも、学閥とか横のネットワークを非常に重視します。現場の人の教育はインド人がするのですか。
久保田 タタのように社内に教育施設をもち、コースやカリキュラムを作っているところもあります。そこでも私たちが呼ばれてスタッフを教育し、彼らが現場へ行って現場にやらせています。日本で学んだことをあちこちで指導することにやり甲斐を感じているから、すぐに辞めて行くというのはあまりありません。スタッフの場合、よりよいところへ移ったりしますが、あくまで個人的なレベルの行動です。
だから、組織として会社に対するロイヤリティは全体として高いと思います。スタッフの定着率はあまりよくないけれど、ワーカーは現地の人であり、そこに家もあるし家族もいるから、割と定着率が高い。いい会社であるほど生活が保障され、伸びている会社であればそれだけでモチベーションが高い。その意味で、インド人は工場労働者としての人生に満足できると思います。「活性化」という言葉があるのですから、彼らにもいきいき働きたい、成長したいという気持ちがあって、和の精神とか自己実現という言葉が通用します。
企業が学校をつくる
清家 中国では日本と異なり男性と女性で働く職場や地位に関して差はありませんが、インドではどうですか。
久保田 業種による違いはありますが、例えば国内でも大手のテックマンという従業員四万人規模のIT企業がありますが、ここではゼネラルマネージャーも含め幹部に女性がたくさんいます。女性のドクターも多い。女性の進学率も次第に高くなって知恵で勝負するところ、専門的なところで活躍する女性が目立ってきていると思います。製造業の分野ではまだ少ないかもしれませんが、タタ自動車では、本来の秘書業務をやっていたのは女性でしたし、教育訓練や福祉スタッフ、試験評価部門にも女性がいました。開発のマネジメントや技術講演会には女性も参加していましたから、男女差にそれほど開きがあるとは感じませんでした。
インド中西部のムンバイから百五十㌔のところにプネと言う町がありますが、今この郊外に中国の規模をはるかに超えるようなITパークが建設されていますけど、こうしたきれいなところだと安心して働けるし、住むのにもいい。きれいなところで働きたいと思うのは、どの国の女性でも思いは同じでしょう。
業種や地域の違いはあれ、教育環境の向上も女性の社会進出が盛んになってきたという背景もあると思います。インドで特徴的なのは、企業には社会的責任として学校をつくることが気風としてあって、学校へ行く子どもが増えています。企業が学校をつくるのは一つは治安の維持のため、もう一つは将来の労働力のためです。インド工科大学(IIT)もタタ財団が資金を出していますし、タタに限らず企業には公益性の意識は強いのではないでしょうか。
小学校ではまず英語教育をし、高学年になってヒンズー語を教えます。インドでは英語ができるというのは必須条件なので、エリートだけでなく、タクシー運転手とかホテルマンも皆英語を話します。そうした英語力の高さを生かしてITで世界的評価を高めたわけで、IT企業は女性の職場進出でもIT産業は大きな役割を果たしたと言えます。
それと、インドの場合、植民地時代があり、生活の中で英語をしゃべる人が多いから自然と皆英語を話すようになります。地理的にも欧米の時間帯の中間にあるなど、先進国の企業にとってビジネス上のメリットが多い。特にIT企業にとって欧米相手に英語で話が通じるから、向こうでプログラム開発をしている技術者が休む時間にインドの技術者がそれを引き継ぐという、二十四時間体制で対応できるのが強みでしょう。
よく質問されるカースト制度に関しても、ITの職場ではほとんど影響がないし、製造の現場でも最初、指導に行ったころはカースト制の壁があってむずかしいところもありましたが、現場がちゃんとしないと品質的にいろいろ問題を起こしますから、昔ほどカースト制は表に出なくなりました。上の方もあまりカースト制を意識していません。学校もそうだし、選挙で最下層のカーストがどんどん議員に選ばれて、カースト制が崩れつつあります。
一人っ子政策のつけが来る
清家 英語教育は中国でも非常に熱心で、幼稚園でも英語を教えています。教育ママというか、儒教的な意味での熱心さがあります。そうはいっても学費がすごく高いので、いい学校へ行くにはお金がかかる。それでも大学を出ても就職できないことを覚悟のうえで親はいい大学へ進学させようとします。一部のエリート層は非常に恵まれていますが、所得によって将来受けられる教育に格差が出てきていますね。インドの場合はどうでしょう。
久保田 親というより国や地方がサポートする感じです。誰かが有名大学に入ると村あげて応援し、社会人として成功した時、彼らは大学へ行かせてくれた家族に感謝することはもちろん地域社会に対しても恩返しすることを当然のように行うという風土があります。
中国はこれから一人っ子政策のつけが来ると思います。最近、中国のアモイにできた新しい大学を見に行ったら、先生は一生懸命講義をしているのに、教室の後ろの方の学生は遊んでいるのです。勉強はしないのに、汚い仕事は嫌、いい仕事をしたいという。こういう人を採用したら企業は最悪です。一方、インドは人口が増えても抑制策をとっていません。もともと民主化が進んでいるし、インドそのものが成長過程にありますから、インドの方が安定していくかかもしれません。
進出の際に注意すること
清家 日本企業が中国へ進出する場合、トップと仲介者とスタッフを重点に置いて、工場労働者にあまり重点を置かない方がむしろ成功している場合が多いように感じます。誘致する側、つまり地方政府がОKといっているなら、現地の住民のことはほとんど考えなくていい。
契約に対する意識も違いますね。日本人は事前に慎重に調べますけど、中国人はあまり調べないでぱっと契約するから、進出条件とビジネス条件が違って後でトラブルになったりします。中国の法律はOECDでやっているものをそのままもってきます。細則とか事例がないので、人治でやっている部分がかなりあります。税法なども頻繁に変わります。
久保田 インドはヨーロッパ的な契約社会を踏襲していますから、最初の段階で特許の範囲で抑えておくとかきっちり詰めておく必要があります。ただし、インドも経済が開放されてから、いろいろぎくしゃくしながら再構築しているので、税法が変わったりしますね。この点でまだ途上にあります。
インドでは国との関係が大事です。土地をリースしないといけないし、住民ともうまくやっていかないといけないので、そういう意味のサポートやサジェスチョンが必要になります。インドはまだ生活環境が整っていないし、日本人に合う食べ物も限られますから、赴任するときに家族で行くのは大変かもしれません。どこかとアライアンスを組んで、その中でインド人を使いながら、場合によってはかなりの権限を与えながら共存していくという感じがいいのではないでしょうか。
清家 サプライチェーンでの取引は日本のような長期的な系列取引の傾向はありますか。
久保田 ある程度長い付き合いをするなかで共存共栄していこうというスタンスはあります。ビジネスとしていい関係ならお互いに大切にしていきますが、相手が悪いと思ったら切ります。日本のように情に流されることはありません。いい仕事が来れば、自分たちも力がついてくるのだから、そういう意味でほとんどがウィン・ウィンの関係です。
清家 地域的に工場立地するならここがおすすめというのはありますか。
久保田 インドは生産基地と大きな市場という二つの面をもっています。生産基地についてはマルチスズキが成功例で、部品メーカーもたくさん出てビジネスが成り立っています。生産基地であり、同時に市場になっている。工業団地のようにいろんな企業が集積している地域を選んで出るのであれば、それほど問題は起こりません。そういうところはインフラや治安の問題、生活の面からいって条件が整備されています。ロジスティクスも整っているし、地元との交流も盛んです。単独で行くのはしんどいので、やはりグループでアライアンスを組みながらやるのがいいと思います。ただし、ネックは電力事情が悪く、停電はしょっちゅうです。成長に対してインフラがついていっていないのです。
日本に足りないハングリー精神
清家 海外へ出る場合、良いパートナーを探すことになるのですが、本当に良いパートナーと長期的な関係をつくるのはむずかしいですね。
久保田 インド人は自分たちのビジネスのパートナーとして適切かどうか、見ていると思います。ビジネスの構造はどんどん変わっていきますから、その都度考え、評価していきます。もちろん競争はさせますが、それは入札のような競争でなくて、育てていくという意味の競争です。駄目だったらマネジメントを替えますから、結構プレッシャーです。
清家 サムスンやLG電子、現代自動車、ポスコ、斗山重工業など韓国企業のインド進出が目立っています。日本企業とどこに違いがあると思われますか。
久保田 韓国は自国の市場が小さいうえ、「ここで負けたら後がない」という気持ちが強いから最初から世界戦略をとっています。日本は小さく成功したら次第に大きくしていくのに対し、韓国は集中投資します。兵役があることも違います。韓国人は海外へ出て仕事することを兵役に比べたら「まし」だといいます。だから進出先には家族連れで行ってマネジメントをします。日本のように腰かけではありません。イメージづくりもうまい。だけど、品質管理についてはやはりメード・イン・ジャパンの評価は高いです。
清家 韓国は先を行く欧米と日本、そして後から追ってくる中国の間でサンドイッチ状態にあるから、サムスンなどは中国やインドに対しても先に進出となるわけでしょうね。その場合、私はこの中国、インドの二つの国はかなり違うということをどこまで勉強するかが大事だと思うんです。世界はどんどん変化しています。三年後、五年後にはまったく環境が変わっていると考えた方がいいかもしれません。
久保田 中国、インド、韓国に共通しているのは、豊かになりたいという健全なハングリー精神があることです。そのやり方とか社会構造は違いますから、その違いがこれからいろいろ表面化してくるのではないかと思います。
清家 日本は豊かになろうと思っていない。そこが一番の問題です。企業の方からよく耳にするのは、新入社員は「よく働くのだけど、上に言われて働くだけ」と聞かされることが多い。学生を見ていても自分からどんどん変えていこうとか、何かに挑戦しようという気概が足りないと感じます。
久保田 大学教育はあてにならないし、企業が採用した人を鍛えていくしかないのですね。大学へ行っただけでは通用しないとなると、大学も変わらざるをえないと思います。インド人はプライドが高いから、「シー・モア(もっとみろ)」「シンク・モア(もっと考えろ)」と言うと反応してくれます。今の日本には「モア」の概念がありません。
清家 プライドが高いのは中国人も同じですね。中国に行って指導するとき、彼らに「ご存知のように」というとしっかり聞いてくれます(笑)。有難うございました。
2011年2月24日木曜日
日本企業の強みは膨大な多種商品開発能力にある
日本企業の強みは膨大な多種商品開発能力にある
富山大学大学院MBA教授 清家彰敏
1.日本企業の競争力庶民リーダーによる無数の新商品創出
日本企業は欧米、中国韓国の同業の企業より多種の新製品、多様な技術を開発、無数の改善を行っている。多種の新製品は顧客満足、付加価値を高め、多彩な技術、無数の改善は環境変化への適応力を高める。円高にも関わらず日本企業はほとんど倒産しない。
パナソニック、ソニー、NTTドコモはアップルやサムスン、ノキアに比べて多種の製品仕様、多様な技術を持っている。トヨタ自動車は無数の改善を行い連続的に進化している。日本のスーパーマーケット、コンビニでの新商品開発は膨大で、カップいりスープが販売されれば具材は年々、多彩になり、春雨、パスタ、おこげ、パイ、かた焼きそば、など多種の商品が次々開発される。日本最大の小売グループ「セブンアイ」では開発リーダーと彼が編成する集団を「部会」と呼んでいる。
欧米、中国では新製品開発、技術形成は少数の大学院でのエリートが行う。日本企業では企業内の庶民出身の技能上位1割層が行う(小池和男)。従業員の1割と考えると2万人の企業には2000人程度のリーダーがいて開発集団を作って膨大な新製品、技術を開発しているとも考えられる。アップルが社長を囲む少数のエリートで新商品開発するのと対照的である。
これらのリーダーは10名程度の小集団で商品開発、技術開発、改善を行う。日本だけではなく海外の日本企業も同様なシステムを持って競争力を発揮している。「海外日本企業の競争力は・・・職場の中堅人材の形成、活用にある。進出したその国の庶民の技能を高め活用する点である(小池和男)。」日本企業は現地のエリート人材によらず、多くの庶民を採用してリーダーとして育成し、商品開発、技術開発、改善を行う。欧米企業の少数のエリートに日本企業の多数の庶民リーダーが対抗競争する。欧米企業が強力な大型戦艦1隻で向かってくるのに、日本は航空母艦の多数の飛行機で対抗するような構図である。
リーダーの目標は、現在では新技術、新商品開発が中心となったが、かつては品質向上、原価低減が目標だった。このプロジェクトが最初に注目されたのは、QCサークルであり、工場内を中心とした社内の品質改善を行った。目標はSQDC(安全衛生・品質向上・納期短縮・原価低減)、設備導入技術導入に付随した改善である。
このQCサークルはトヨタ自動車の幹部である大野耐一によって発明されたトヨタ生産方式という仕組みで管理されたとき最大の効果を発揮した。トヨタ自動車の社長はこの仕組みをもとにトヨタ自動車を世界企業に発展させた。幹部の機能が欧米企業と日本企業は異なる。欧米企業では幹部は自ら改善を行うのに対して、日本企業では幹部は庶民リーダーが改善を行いやすい仕組みを作れるかどうかが競争力の鍵となる。トヨタ生産方式はそのもっとも成功した仕組みであり、大野耐一はもっとも優れた日本型幹部であった。
この庶民リーダーが編成する集団は自己組織的に進化し、やがて、社外の人材を巻き込み、改善以外で技術導入、技術開発、商品開発も手がけるようになった。社外を巻き込むように進化した理由は、社外を巻き込むことでより良く改善が実現できる問題が増加したためである。欧米からの優れた設備、技術の導入と日本での設備改良、日本ブランドの創出が庶民リーダーの大きな課題となった。目標は取引コストの低減、技術力向上、新事業開発などが主となった。ソニーなどは新製品開発、新事業開発などを行うようになった。
次には、庶民リーダーはプロセスの上流を巻き込む、または下流を巻き込むことによる改善、技術開発、商品開発を行うようになった。上流の異質な職務を行う人材を巻き込むことにより、より高い成果が期待できた。目標は新商品開発・革新的技術開発、ブランド作りなどが中心となった。
さらに、現在では、社外も含めて上流までも巻き込むプロジェクトが日本企業の中核となっている。目標は商品の多様化・顧客志向・高付加価値化・先端技術開発である。例えばセブンイレブン-ジャパンの「部会」である。この「部会」はトヨタ生産方式をより発展させた幹部により「仕組み(開発営業)」として成立した。
商品開発・技術開発・改善のグリッド(ここは企業秘密:清家)
セブンアイは部会という多くの商品開発プロジェクトを取引先数千社と行っており、多数の庶民リーダーが無数の新商品を開発する。部会が次々新商品を顧客に合わせ開発するため、きめ細かな顧客対応と高付加価値の商品供給ができることになる。新しい食品を開発するために研究所はその食品向けに小麦粉を改良し、素材の改良を行う。また流通は冷凍設備を改良するといった工夫を行う。顧客の意識変革のために教育を行ったりもする。この仕組みを開発営業と呼んでいる(清家彰敏)。
欧米、中国企業にとっても付加価値をあげるためにはこのようなプロジェクトを行う多くのリーダーを庶民から得ることは重要である。このような庶民リーダーをどのように日本企業は管理しているのであろうか、それを欧米中国企業は学ばないといけない。
2.幹部の仕事は仕組み作り 物流トヨタ生産方式は範囲の経済を実現させる
日本企業の幹部は、欧米企業のように自ら仕事を行い、企業をリードしていくのは主の仕事ではない。仕組みを作ることで庶民リーダーの商品開発、技術開発、改善が行いやすい環境をつくる。仕組み作りとは環境づくりである。
トヨタ生産方式は細分化、リードタイムの短縮、可視化などによって、QCサークルが活動しやすい仕組みを作り上げた。例えば、大量生産工程の細分化は、庶民リーダーの権限が及びやすいサイズに活動の場を小さくした。ベルトコンベアーの大量生産工場の改善は全社に影響力を持つ欧米留学帰りの幹部にはできても、庶民リーダーには不可能である。手ごろなサイズに切り分けることは、庶民リーダーと開発集団を活性化するのに重要である。
トヨタ自動車でも改善から欧米を凌駕する技術開発に重点が移っていくと、社外の巻き込みが重要になり、多くの企業を巻き込んだ物流中心の物流トヨタ生産方式にトヨタ生産方式は進化した(田中正知)。
例えば、トヨタのプレス工場で複雑なプレスし易い鋼板を開発するリーダーは、新日鉄の研究所から、高炉の技術者、技能者、トヨタの購買員、新日鉄の営業員他、多くの企業が参加する開発集団を作る。この集団では、プレスし易い亜鉛鋼板の材質研究などが主の役割となる。材質が変わって、プレスが容易になり、プレスの技術が上がれば、プレス向きの亜鉛鋼板の素材改良が起こりより優れた鋼板が開発される。しかし、庶民リーダーはエリートではないため、開発の実務作業や結成されたメンバーの指揮はできても、メンバーを集めるとか、メンバーを集めやすい仕組み作りは難しい。
トヨタ自動車の幹部、エリートが行けば、新日鉄は好意的に対応するが、地位が無いリーダーがいっても相手にされない。新日鉄も物流トヨタ生産方式の仕組みの中に巻き込んでしまえば、庶民リーダーは縦横に活躍できる。幹部、エリートはこのように①仕組み作りを行う。そして、一度仕組みができてしまうと、庶民リーダーは新日鉄を訪れて小集団を結成できるようになる。また、リーダーが思いつかないような企業、上流の組織と関係を作り、リーダーがやりやすくするのもエリートとしての仕組み作りである。
小売業における開発営業においては、社外と上流を巻き込んだ新商品開発集団を庶民リーダーが編成しやすくすることが仕組み作りの目的であり、その仕組み作りは社外、上流を巻き込むことになった。その結果、総合商社のエリート社員が数百社を巻き込む巨大な仕組みを作った。物流トヨタ生産方式は商品の種類が増えて規模の経済性が発揮できなくて効率が下がるのを防止する。
また、多種の商品を庶民リーダーが創出する際に、物流商社(菱食など)、食材企業(日清製粉など)、冷凍食品機器企業(ニチレイ)、食品企業(日清食品など)、スーパーマーケット、コンビニなどが範囲の経済を発揮できるように仕組はトヨタ生産方式の個別管理、リードタイム短縮などの仕組が作られ、食品開発と並行して食材、設備、システムの改良がおこなわれより良い仕組へと進化させるのが幹部としての総合商社社員の役割である。
コンビニで販売できる新商品を開発するにあたり、問題解決に必要な社内、関係企業の有能な人材がチームのメンバーとして獲得できるかどうか、がもっとも重要な関心となる。重要なメンバーの獲得と開発集団の運営が容易となるような仕組み作りを行うことが幹部としての総合商社の役割である。
また庶民リーダーの指導が重要である、①庶民リーダーと集団の関係を良好にする、②のレベルを現場(改善、QCサークル)、社外(物流改善)、プロセス(イノベーション)と3段階に上げていく、③他社をベンチマークする(見学にいく)。④トヨタ方式で管理する(コストダウン、在庫削減)。⑤ローテーションを行う。⑥スピードアップ⑦リードタイム短縮などがある。
3.社長の役割
社長の役割は、庶民リーダーが「循環」的に自主活動、レベルアップを行い管理の必要が無くなるように支援することであり、幹部が仕組みを作る際のガイドラインをつくる。管理ポイントは、庶民リーダーの何パーセントが「循環」のレベルまで達しているかどうか、がポイントとなる。例えば①トヨタ方式の行き過ぎの見直し、②プロセスの重点を明示(設計が重点とか)、③コスト感覚での適正スピードの決定(アイリスオーヤマは遅くした)、④開発営業の分割単位(集団の規模)、境界の決定、⑤開発営業間の競争と協調程度の明示、⑥開発営業分野の選択と集中、⑦幹部人材育成、⑧利益水準の決定(儲かればいいとも限らない)、⑨革命を行う。
社長の役割は、境界の決定、集団の規模、スピードを決定することが重要である。本田技研工業が「高速回転経営」を社長方針として、出せば、開発営業の時間軸が限定される。本田技研は時間短縮である。アイリスオーヤマが大山社長の方針(体質であるかもしれない)で「遅い経営」を志向すれば、それは時間軸の延長である。境界の決定は、ダイハツ工業が欧州から撤退の社長方針を出せば、市場の範囲が限定され、三菱重工業が資材調達を一元化すれば、空間が限定される。プロセスの重点の決定、ファナックは社長方針でプロセスの上流「設計」に重点が置かれている。
欧米からは戦略とエリートの利活用を学び、日本からは庶民リーダーの育成と活用、幹部に仕組みをどのように作らせるかを学ばなければならない。
2011年1月31日
富山大学大学院MBA教授 清家彰敏
1.日本企業の競争力庶民リーダーによる無数の新商品創出
日本企業は欧米、中国韓国の同業の企業より多種の新製品、多様な技術を開発、無数の改善を行っている。多種の新製品は顧客満足、付加価値を高め、多彩な技術、無数の改善は環境変化への適応力を高める。円高にも関わらず日本企業はほとんど倒産しない。
パナソニック、ソニー、NTTドコモはアップルやサムスン、ノキアに比べて多種の製品仕様、多様な技術を持っている。トヨタ自動車は無数の改善を行い連続的に進化している。日本のスーパーマーケット、コンビニでの新商品開発は膨大で、カップいりスープが販売されれば具材は年々、多彩になり、春雨、パスタ、おこげ、パイ、かた焼きそば、など多種の商品が次々開発される。日本最大の小売グループ「セブンアイ」では開発リーダーと彼が編成する集団を「部会」と呼んでいる。
欧米、中国では新製品開発、技術形成は少数の大学院でのエリートが行う。日本企業では企業内の庶民出身の技能上位1割層が行う(小池和男)。従業員の1割と考えると2万人の企業には2000人程度のリーダーがいて開発集団を作って膨大な新製品、技術を開発しているとも考えられる。アップルが社長を囲む少数のエリートで新商品開発するのと対照的である。
これらのリーダーは10名程度の小集団で商品開発、技術開発、改善を行う。日本だけではなく海外の日本企業も同様なシステムを持って競争力を発揮している。「海外日本企業の競争力は・・・職場の中堅人材の形成、活用にある。進出したその国の庶民の技能を高め活用する点である(小池和男)。」日本企業は現地のエリート人材によらず、多くの庶民を採用してリーダーとして育成し、商品開発、技術開発、改善を行う。欧米企業の少数のエリートに日本企業の多数の庶民リーダーが対抗競争する。欧米企業が強力な大型戦艦1隻で向かってくるのに、日本は航空母艦の多数の飛行機で対抗するような構図である。
リーダーの目標は、現在では新技術、新商品開発が中心となったが、かつては品質向上、原価低減が目標だった。このプロジェクトが最初に注目されたのは、QCサークルであり、工場内を中心とした社内の品質改善を行った。目標はSQDC(安全衛生・品質向上・納期短縮・原価低減)、設備導入技術導入に付随した改善である。
このQCサークルはトヨタ自動車の幹部である大野耐一によって発明されたトヨタ生産方式という仕組みで管理されたとき最大の効果を発揮した。トヨタ自動車の社長はこの仕組みをもとにトヨタ自動車を世界企業に発展させた。幹部の機能が欧米企業と日本企業は異なる。欧米企業では幹部は自ら改善を行うのに対して、日本企業では幹部は庶民リーダーが改善を行いやすい仕組みを作れるかどうかが競争力の鍵となる。トヨタ生産方式はそのもっとも成功した仕組みであり、大野耐一はもっとも優れた日本型幹部であった。
この庶民リーダーが編成する集団は自己組織的に進化し、やがて、社外の人材を巻き込み、改善以外で技術導入、技術開発、商品開発も手がけるようになった。社外を巻き込むように進化した理由は、社外を巻き込むことでより良く改善が実現できる問題が増加したためである。欧米からの優れた設備、技術の導入と日本での設備改良、日本ブランドの創出が庶民リーダーの大きな課題となった。目標は取引コストの低減、技術力向上、新事業開発などが主となった。ソニーなどは新製品開発、新事業開発などを行うようになった。
次には、庶民リーダーはプロセスの上流を巻き込む、または下流を巻き込むことによる改善、技術開発、商品開発を行うようになった。上流の異質な職務を行う人材を巻き込むことにより、より高い成果が期待できた。目標は新商品開発・革新的技術開発、ブランド作りなどが中心となった。
さらに、現在では、社外も含めて上流までも巻き込むプロジェクトが日本企業の中核となっている。目標は商品の多様化・顧客志向・高付加価値化・先端技術開発である。例えばセブンイレブン-ジャパンの「部会」である。この「部会」はトヨタ生産方式をより発展させた幹部により「仕組み(開発営業)」として成立した。
商品開発・技術開発・改善のグリッド(ここは企業秘密:清家)
セブンアイは部会という多くの商品開発プロジェクトを取引先数千社と行っており、多数の庶民リーダーが無数の新商品を開発する。部会が次々新商品を顧客に合わせ開発するため、きめ細かな顧客対応と高付加価値の商品供給ができることになる。新しい食品を開発するために研究所はその食品向けに小麦粉を改良し、素材の改良を行う。また流通は冷凍設備を改良するといった工夫を行う。顧客の意識変革のために教育を行ったりもする。この仕組みを開発営業と呼んでいる(清家彰敏)。
欧米、中国企業にとっても付加価値をあげるためにはこのようなプロジェクトを行う多くのリーダーを庶民から得ることは重要である。このような庶民リーダーをどのように日本企業は管理しているのであろうか、それを欧米中国企業は学ばないといけない。
2.幹部の仕事は仕組み作り 物流トヨタ生産方式は範囲の経済を実現させる
日本企業の幹部は、欧米企業のように自ら仕事を行い、企業をリードしていくのは主の仕事ではない。仕組みを作ることで庶民リーダーの商品開発、技術開発、改善が行いやすい環境をつくる。仕組み作りとは環境づくりである。
トヨタ生産方式は細分化、リードタイムの短縮、可視化などによって、QCサークルが活動しやすい仕組みを作り上げた。例えば、大量生産工程の細分化は、庶民リーダーの権限が及びやすいサイズに活動の場を小さくした。ベルトコンベアーの大量生産工場の改善は全社に影響力を持つ欧米留学帰りの幹部にはできても、庶民リーダーには不可能である。手ごろなサイズに切り分けることは、庶民リーダーと開発集団を活性化するのに重要である。
トヨタ自動車でも改善から欧米を凌駕する技術開発に重点が移っていくと、社外の巻き込みが重要になり、多くの企業を巻き込んだ物流中心の物流トヨタ生産方式にトヨタ生産方式は進化した(田中正知)。
例えば、トヨタのプレス工場で複雑なプレスし易い鋼板を開発するリーダーは、新日鉄の研究所から、高炉の技術者、技能者、トヨタの購買員、新日鉄の営業員他、多くの企業が参加する開発集団を作る。この集団では、プレスし易い亜鉛鋼板の材質研究などが主の役割となる。材質が変わって、プレスが容易になり、プレスの技術が上がれば、プレス向きの亜鉛鋼板の素材改良が起こりより優れた鋼板が開発される。しかし、庶民リーダーはエリートではないため、開発の実務作業や結成されたメンバーの指揮はできても、メンバーを集めるとか、メンバーを集めやすい仕組み作りは難しい。
トヨタ自動車の幹部、エリートが行けば、新日鉄は好意的に対応するが、地位が無いリーダーがいっても相手にされない。新日鉄も物流トヨタ生産方式の仕組みの中に巻き込んでしまえば、庶民リーダーは縦横に活躍できる。幹部、エリートはこのように①仕組み作りを行う。そして、一度仕組みができてしまうと、庶民リーダーは新日鉄を訪れて小集団を結成できるようになる。また、リーダーが思いつかないような企業、上流の組織と関係を作り、リーダーがやりやすくするのもエリートとしての仕組み作りである。
小売業における開発営業においては、社外と上流を巻き込んだ新商品開発集団を庶民リーダーが編成しやすくすることが仕組み作りの目的であり、その仕組み作りは社外、上流を巻き込むことになった。その結果、総合商社のエリート社員が数百社を巻き込む巨大な仕組みを作った。物流トヨタ生産方式は商品の種類が増えて規模の経済性が発揮できなくて効率が下がるのを防止する。
また、多種の商品を庶民リーダーが創出する際に、物流商社(菱食など)、食材企業(日清製粉など)、冷凍食品機器企業(ニチレイ)、食品企業(日清食品など)、スーパーマーケット、コンビニなどが範囲の経済を発揮できるように仕組はトヨタ生産方式の個別管理、リードタイム短縮などの仕組が作られ、食品開発と並行して食材、設備、システムの改良がおこなわれより良い仕組へと進化させるのが幹部としての総合商社社員の役割である。
コンビニで販売できる新商品を開発するにあたり、問題解決に必要な社内、関係企業の有能な人材がチームのメンバーとして獲得できるかどうか、がもっとも重要な関心となる。重要なメンバーの獲得と開発集団の運営が容易となるような仕組み作りを行うことが幹部としての総合商社の役割である。
また庶民リーダーの指導が重要である、①庶民リーダーと集団の関係を良好にする、②のレベルを現場(改善、QCサークル)、社外(物流改善)、プロセス(イノベーション)と3段階に上げていく、③他社をベンチマークする(見学にいく)。④トヨタ方式で管理する(コストダウン、在庫削減)。⑤ローテーションを行う。⑥スピードアップ⑦リードタイム短縮などがある。
3.社長の役割
社長の役割は、庶民リーダーが「循環」的に自主活動、レベルアップを行い管理の必要が無くなるように支援することであり、幹部が仕組みを作る際のガイドラインをつくる。管理ポイントは、庶民リーダーの何パーセントが「循環」のレベルまで達しているかどうか、がポイントとなる。例えば①トヨタ方式の行き過ぎの見直し、②プロセスの重点を明示(設計が重点とか)、③コスト感覚での適正スピードの決定(アイリスオーヤマは遅くした)、④開発営業の分割単位(集団の規模)、境界の決定、⑤開発営業間の競争と協調程度の明示、⑥開発営業分野の選択と集中、⑦幹部人材育成、⑧利益水準の決定(儲かればいいとも限らない)、⑨革命を行う。
社長の役割は、境界の決定、集団の規模、スピードを決定することが重要である。本田技研工業が「高速回転経営」を社長方針として、出せば、開発営業の時間軸が限定される。本田技研は時間短縮である。アイリスオーヤマが大山社長の方針(体質であるかもしれない)で「遅い経営」を志向すれば、それは時間軸の延長である。境界の決定は、ダイハツ工業が欧州から撤退の社長方針を出せば、市場の範囲が限定され、三菱重工業が資材調達を一元化すれば、空間が限定される。プロセスの重点の決定、ファナックは社長方針でプロセスの上流「設計」に重点が置かれている。
欧米からは戦略とエリートの利活用を学び、日本からは庶民リーダーの育成と活用、幹部に仕組みをどのように作らせるかを学ばなければならない。
2011年1月31日
2011年2月21日月曜日
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