2011年2月24日木曜日

日本企業の強みは膨大な多種商品開発能力にある

日本企業の強みは膨大な多種商品開発能力にある

                富山大学大学院MBA教授 清家彰敏

1.日本企業の競争力庶民リーダーによる無数の新商品創出 

 日本企業は欧米、中国韓国の同業の企業より多種の新製品、多様な技術を開発、無数の改善を行っている。多種の新製品は顧客満足、付加価値を高め、多彩な技術、無数の改善は環境変化への適応力を高める。円高にも関わらず日本企業はほとんど倒産しない。
 パナソニック、ソニー、NTTドコモはアップルやサムスン、ノキアに比べて多種の製品仕様、多様な技術を持っている。トヨタ自動車は無数の改善を行い連続的に進化している。日本のスーパーマーケット、コンビニでの新商品開発は膨大で、カップいりスープが販売されれば具材は年々、多彩になり、春雨、パスタ、おこげ、パイ、かた焼きそば、など多種の商品が次々開発される。日本最大の小売グループ「セブンアイ」では開発リーダーと彼が編成する集団を「部会」と呼んでいる。
 欧米、中国では新製品開発、技術形成は少数の大学院でのエリートが行う。日本企業では企業内の庶民出身の技能上位1割層が行う(小池和男)。従業員の1割と考えると2万人の企業には2000人程度のリーダーがいて開発集団を作って膨大な新製品、技術を開発しているとも考えられる。アップルが社長を囲む少数のエリートで新商品開発するのと対照的である。
 これらのリーダーは10名程度の小集団で商品開発、技術開発、改善を行う。日本だけではなく海外の日本企業も同様なシステムを持って競争力を発揮している。「海外日本企業の競争力は・・・職場の中堅人材の形成、活用にある。進出したその国の庶民の技能を高め活用する点である(小池和男)。」日本企業は現地のエリート人材によらず、多くの庶民を採用してリーダーとして育成し、商品開発、技術開発、改善を行う。欧米企業の少数のエリートに日本企業の多数の庶民リーダーが対抗競争する。欧米企業が強力な大型戦艦1隻で向かってくるのに、日本は航空母艦の多数の飛行機で対抗するような構図である。
 リーダーの目標は、現在では新技術、新商品開発が中心となったが、かつては品質向上、原価低減が目標だった。このプロジェクトが最初に注目されたのは、QCサークルであり、工場内を中心とした社内の品質改善を行った。目標はSQDC(安全衛生・品質向上・納期短縮・原価低減)、設備導入技術導入に付随した改善である。
 このQCサークルはトヨタ自動車の幹部である大野耐一によって発明されたトヨタ生産方式という仕組みで管理されたとき最大の効果を発揮した。トヨタ自動車の社長はこの仕組みをもとにトヨタ自動車を世界企業に発展させた。幹部の機能が欧米企業と日本企業は異なる。欧米企業では幹部は自ら改善を行うのに対して、日本企業では幹部は庶民リーダーが改善を行いやすい仕組みを作れるかどうかが競争力の鍵となる。トヨタ生産方式はそのもっとも成功した仕組みであり、大野耐一はもっとも優れた日本型幹部であった。
 この庶民リーダーが編成する集団は自己組織的に進化し、やがて、社外の人材を巻き込み、改善以外で技術導入、技術開発、商品開発も手がけるようになった。社外を巻き込むように進化した理由は、社外を巻き込むことでより良く改善が実現できる問題が増加したためである。欧米からの優れた設備、技術の導入と日本での設備改良、日本ブランドの創出が庶民リーダーの大きな課題となった。目標は取引コストの低減、技術力向上、新事業開発などが主となった。ソニーなどは新製品開発、新事業開発などを行うようになった。
 次には、庶民リーダーはプロセスの上流を巻き込む、または下流を巻き込むことによる改善、技術開発、商品開発を行うようになった。上流の異質な職務を行う人材を巻き込むことにより、より高い成果が期待できた。目標は新商品開発・革新的技術開発、ブランド作りなどが中心となった。
 さらに、現在では、社外も含めて上流までも巻き込むプロジェクトが日本企業の中核となっている。目標は商品の多様化・顧客志向・高付加価値化・先端技術開発である。例えばセブンイレブン-ジャパンの「部会」である。この「部会」はトヨタ生産方式をより発展させた幹部により「仕組み(開発営業)」として成立した。
 
          商品開発・技術開発・改善のグリッド(ここは企業秘密:清家)

 セブンアイは部会という多くの商品開発プロジェクトを取引先数千社と行っており、多数の庶民リーダーが無数の新商品を開発する。部会が次々新商品を顧客に合わせ開発するため、きめ細かな顧客対応と高付加価値の商品供給ができることになる。新しい食品を開発するために研究所はその食品向けに小麦粉を改良し、素材の改良を行う。また流通は冷凍設備を改良するといった工夫を行う。顧客の意識変革のために教育を行ったりもする。この仕組みを開発営業と呼んでいる(清家彰敏)。
 欧米、中国企業にとっても付加価値をあげるためにはこのようなプロジェクトを行う多くのリーダーを庶民から得ることは重要である。このような庶民リーダーをどのように日本企業は管理しているのであろうか、それを欧米中国企業は学ばないといけない。

2.幹部の仕事は仕組み作り 物流トヨタ生産方式は範囲の経済を実現させる

 日本企業の幹部は、欧米企業のように自ら仕事を行い、企業をリードしていくのは主の仕事ではない。仕組みを作ることで庶民リーダーの商品開発、技術開発、改善が行いやすい環境をつくる。仕組み作りとは環境づくりである。
 トヨタ生産方式は細分化、リードタイムの短縮、可視化などによって、QCサークルが活動しやすい仕組みを作り上げた。例えば、大量生産工程の細分化は、庶民リーダーの権限が及びやすいサイズに活動の場を小さくした。ベルトコンベアーの大量生産工場の改善は全社に影響力を持つ欧米留学帰りの幹部にはできても、庶民リーダーには不可能である。手ごろなサイズに切り分けることは、庶民リーダーと開発集団を活性化するのに重要である。
 トヨタ自動車でも改善から欧米を凌駕する技術開発に重点が移っていくと、社外の巻き込みが重要になり、多くの企業を巻き込んだ物流中心の物流トヨタ生産方式にトヨタ生産方式は進化した(田中正知)。
 例えば、トヨタのプレス工場で複雑なプレスし易い鋼板を開発するリーダーは、新日鉄の研究所から、高炉の技術者、技能者、トヨタの購買員、新日鉄の営業員他、多くの企業が参加する開発集団を作る。この集団では、プレスし易い亜鉛鋼板の材質研究などが主の役割となる。材質が変わって、プレスが容易になり、プレスの技術が上がれば、プレス向きの亜鉛鋼板の素材改良が起こりより優れた鋼板が開発される。しかし、庶民リーダーはエリートではないため、開発の実務作業や結成されたメンバーの指揮はできても、メンバーを集めるとか、メンバーを集めやすい仕組み作りは難しい。
 トヨタ自動車の幹部、エリートが行けば、新日鉄は好意的に対応するが、地位が無いリーダーがいっても相手にされない。新日鉄も物流トヨタ生産方式の仕組みの中に巻き込んでしまえば、庶民リーダーは縦横に活躍できる。幹部、エリートはこのように①仕組み作りを行う。そして、一度仕組みができてしまうと、庶民リーダーは新日鉄を訪れて小集団を結成できるようになる。また、リーダーが思いつかないような企業、上流の組織と関係を作り、リーダーがやりやすくするのもエリートとしての仕組み作りである。
 小売業における開発営業においては、社外と上流を巻き込んだ新商品開発集団を庶民リーダーが編成しやすくすることが仕組み作りの目的であり、その仕組み作りは社外、上流を巻き込むことになった。その結果、総合商社のエリート社員が数百社を巻き込む巨大な仕組みを作った。物流トヨタ生産方式は商品の種類が増えて規模の経済性が発揮できなくて効率が下がるのを防止する。
 また、多種の商品を庶民リーダーが創出する際に、物流商社(菱食など)、食材企業(日清製粉など)、冷凍食品機器企業(ニチレイ)、食品企業(日清食品など)、スーパーマーケット、コンビニなどが範囲の経済を発揮できるように仕組はトヨタ生産方式の個別管理、リードタイム短縮などの仕組が作られ、食品開発と並行して食材、設備、システムの改良がおこなわれより良い仕組へと進化させるのが幹部としての総合商社社員の役割である。
 コンビニで販売できる新商品を開発するにあたり、問題解決に必要な社内、関係企業の有能な人材がチームのメンバーとして獲得できるかどうか、がもっとも重要な関心となる。重要なメンバーの獲得と開発集団の運営が容易となるような仕組み作りを行うことが幹部としての総合商社の役割である。
 また庶民リーダーの指導が重要である、①庶民リーダーと集団の関係を良好にする、②のレベルを現場(改善、QCサークル)、社外(物流改善)、プロセス(イノベーション)と3段階に上げていく、③他社をベンチマークする(見学にいく)。④トヨタ方式で管理する(コストダウン、在庫削減)。⑤ローテーションを行う。⑥スピードアップ⑦リードタイム短縮などがある。

3.社長の役割

 社長の役割は、庶民リーダーが「循環」的に自主活動、レベルアップを行い管理の必要が無くなるように支援することであり、幹部が仕組みを作る際のガイドラインをつくる。管理ポイントは、庶民リーダーの何パーセントが「循環」のレベルまで達しているかどうか、がポイントとなる。例えば①トヨタ方式の行き過ぎの見直し、②プロセスの重点を明示(設計が重点とか)、③コスト感覚での適正スピードの決定(アイリスオーヤマは遅くした)、④開発営業の分割単位(集団の規模)、境界の決定、⑤開発営業間の競争と協調程度の明示、⑥開発営業分野の選択と集中、⑦幹部人材育成、⑧利益水準の決定(儲かればいいとも限らない)、⑨革命を行う。
 社長の役割は、境界の決定、集団の規模、スピードを決定することが重要である。本田技研工業が「高速回転経営」を社長方針として、出せば、開発営業の時間軸が限定される。本田技研は時間短縮である。アイリスオーヤマが大山社長の方針(体質であるかもしれない)で「遅い経営」を志向すれば、それは時間軸の延長である。境界の決定は、ダイハツ工業が欧州から撤退の社長方針を出せば、市場の範囲が限定され、三菱重工業が資材調達を一元化すれば、空間が限定される。プロセスの重点の決定、ファナックは社長方針でプロセスの上流「設計」に重点が置かれている。
 欧米からは戦略とエリートの利活用を学び、日本からは庶民リーダーの育成と活用、幹部に仕組みをどのように作らせるかを学ばなければならない。

                                2011年1月31日

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