2012年11月29日木曜日

内閣府環境未来都市政策とビッグデータ活用統合医療ビジネス


内閣府環境未来都市政策とビッグデータ活用統合医療ビジネス

清家彰敏(富山大学)


1.緒言
内閣府環境未来都市政策では横浜、富山などへ世界から見学者を迎え、各国の都市構想を変革、インフラ輸出の加速をも期待する。本研究は、ビッグデータ活用ビジネスによる都市変革、特に統合医療ビジネスについて論じる。論点は、①IBMは情報量の急増する分野を新ビジネスとして選択する。同様に都市の新ビジネスは情報量の急増、ビッグデータ活用で起業される。②ビッグデータは空間軸と時間軸上で形成される。③ビッグデータ活用によって都市で大きな成果と変化が期待されるのは健康生活を守る統合医療である。事例として高齢者見守りの時間軸上ビッグデータ活用ビジネスと100ドル個人全ゲノム解読ビジネスが変革させる都市構想と政策を論じる。キーワードは、ビッグデータ、内閣府環境未来都市政策、統合医療である。

2.例えば富山型環境未来都市のイメージを模索してみよう
 配置薬は富山の伝統産業である。江戸時代は、立山信仰に基づき、現代の統合医療ビジネスを形成していた。全国を歩く越中富山の薬屋さんは、立山のお札と配置薬を持ち、子供たちには大人になるまでに起こりがちな病気、そのときの対症法を説き、大人には加齢と病気、また人生の悩みまで相談に乗った。最後は立山詣=観光で人生を全うした。立山信仰に基づき、人生設計と健康管理の重要性を全国にPR。生まれて健康に育ち仕事をし、やがて後継者に道を譲り、死んでいく過程への癒しと伝統的健康相談「統合医療」であった。
 ビッグデータとはインターネット上などで巨大かつ級数的に増加するデータを指している(以下「2F02」報告のビッグデータに関する理論を参照)。ビッグデータは未来の希望であるが恐怖でもある。個人の全ゲノム解析は2013年には100ドル1時間以内で可能となる。シークエンサーも1機1000ドルである。ゲノムを知り病気を予見することは希望でもあり恐怖でもある。これはパンドラの箱(東京大学医科学研究所宮野悟教授)である。個人ゲノム解析の拡大は世界の医学・医療政策の転換からデータセンター、スーパーコンピュータによるシミュレーション、各種投資決定にまで変化が要求される。
 
あらゆる商品が「センサとマップ(地図)から作られるビッグデータ」によって革命を迫られている。商品開発プロセス(MOT)においてマップ(地図)はフロント、センサはエンドに位置付けられる。マップ(地図)はトップダウンで商品を変革させ、センサはボトムアップで商品を変革させる。マップ(地図)は空間軸上で、センサは時間軸上でビッグデータとなる。マップ(地図)は、例えば遺伝子情報(生命地図)で空間軸上に広がり、センサ情報は長時間の監視カメラの情報とかで時間軸上に並ぶ。マップ(地図)は広義の「地図」概念である。あらゆる医療行為が「センサとマップ(地図)から作られるビッグデータ」によって革命を迫られている。創薬プロセス(MOT)においてマップ(地図)はフロント、センサはエンドになる。マップはモジュールがセンサは改善がキーワードである。
配置薬業は薬+情報が重要である。新しい未来型配置薬業として、富山大学が環境未来都市哲学を受けて、富山型統合医療システムを配置薬企業と連携、構想することが考えられる。情報は包括検診データ:臨床項目間(関係推定)情報端末(スマホ・スマートテレビ)、家庭診断見守りシステムなどから収集、ビッグデータとなる。見守りシステムでは、富山の立山科学がソフトバンクと連携して高齢者を中心とした3万人の見守りを行って成功している。
例えば、富山大学病院が富山大学、東京大、東京女子医大など世界中の先端医療システムなどと連携、包括診断を行い。この包括診断を基盤情報にして、情報端末は病院(医)、配置薬業(薬)、と農商工連携=農協(食)、見守り会社(情)、健康住宅会社(住)、健康衣服下着(衣)、都市の癒し環境(動物セラピー)と連携オーダーメード統合医療を行う。扱うデータはビッグデータである。
60歳以上が1000兆円の金融資産を持つ豊かな成熟社会である日本においては、環境未来都市構想を進化させていく鍵は、安心安全安定な食品などを認証できる健康創造であると思われる。「スーパー健康創造都市」といったイメージである。健康を守るのは「口から入るモノ」の管理である。農産物、食品も重要である。健康に注意して摂取された食品によって、腫瘍マーカーが低下するといった事例も見られる。またCO2排出量という点で農業は環境未来都市の重要なポイントである。そこで「認証制度」が注目される。

3.環境未来都市における認証制度を模索して(各県ホームページ参照)
山口県では県内で生産される農産物のうち、化学農薬・化学肥料を使用しないで栽培された農産物や、通常の栽培方式に比べて、化学農薬と化学肥料の使用量を50%以上減らした農産物及びそれらを主原料とした農産加工品を「エコやまぐち農産物」として認証する制度を設けている。 新潟県では、地域の慣行栽培に比べて農薬や化学肥料を5割以上減らして作られた農産物を認証する「新潟県特別栽培農産物認証制度」を運営している。認証された農産物には、県のシンボルマークが入った認証マークが貼られる。長野県は地域の一般的な栽培方法と比較して、化学肥料及び化学合成農薬を50%以上(平成24年産までは30%以上)削減して生産する農産物を認証し、認証された農産物には、県の認証番号が入った認証票(シンボルマーク)を付けることができる。 認証は、長野県知事名で行う。 審査は、有機JAS認証の登録認定機関である(財)長野県農林研究財団が行う。(審査手数料有料)
富山県の農工商連携事業は、環境負荷の少ない農業支援、地域の農産品を活用した健康食品、健康を付加価値したサービス、商品とサービスの発信拠点設置、環境や健康を付加価値とした多様なビジネス創出、輸出産業は情報端末と富山型統合医療+農商工連携衣食住、クラスターの形成を目指しており、富山市の環境未来都市構想に合っている。主事業としては、農商工連携(6次産業化)推進のため多様な産業者が連携しやすいネットワークの育成、6次産業へ挑戦する農業者への官民学連携支援の仕組みの構築となっている。
次に健康創造の基盤となる統合医療を支える医療とビッグデータの現状と動向について考えてみよう。

4.環境未来都市とビッグデータ利活用統合医療ビジネス
医療とビッグデータにおいては海外との競争力が鍵となる。海外との競争の中で、日本の医療は進化していくことになる。
日本の経営学者の世界の医療への貢献は、ただ1点であると思われる。それは日本型組織の無名・無数の医療従事者・関係者たちの患者への奉仕が欧米の有名・少数の巨大製薬会社、医療エリートの政治的・戦略的な計画、イレッサなどに代表される創薬戦略、時として陰謀によって不当な犠牲にならないため、貢献・努力が正当に評価されるための仕組み・理論の構築である。
配置薬は富山の伝統産業である。伝統的健康相談「統合医療」であった。それを現在に再現することが環境未来都市においてビッグデータを活用したビジネスの構築となる。

デジタル超「配置薬」システム 
 配置薬業は各家庭と路上に「薬」に加えて「情報端末」を置いてデータを収集する。
 家庭と路上での「情報端末」(スマホ・スマートテレビ・自動車情報通信端末、都市の診断見守りシステム)は、住民から細かいデータを収集する。
 例えば自動車からは運転状況のデータが収集できる。高齢者の運転状況を長期間モニターする。「脳梗塞などの症状が表れ運転に乱れが生じている?」といったデータを感知することも可能となる。
 この「情報端末」からのデータを受けて、病院は「富山型統合医療システム」を確立できる。

 情報は包括検診データ:臨床項目間(関係推定)

 病院は最先端医療のデータを使って包括診断し、「医食同源」ビジネスを富山で拡大することが出来る。配置薬業は「情報端末」のデータを受けて、置き薬の薬の構成を住民個々にオーダーメイドで変える。以前より高い住民サービスを行うことが可能となる。

 配置薬業のデジタル配置薬企業への革新である。

 この病院とデジタル配置薬企業に加えて、衣食住の企業が参加し、デジタル超「配置薬」システムを構築する。デジタル「配置薬」システムでは病院(医)、配置薬業(薬)、農協(食)、見守り会社(情)、健康住宅会社(住)、健康衣服下着(衣)、都市の癒し環境(動物セラピーなど)が医食同源に基づいた住民サービスを情報端末からのデータにより展開する。

5.日本的環境未来都市を考える際の強み

 日本は、欧米と比較して、病院から健康衣服下着までといったきめ細かな住民サービスビジネスで優れている。また日本人は仕事を常に改善、高い顧客満足を与えようと務める。その結果、住民へのホスピタリティは日々向上することになる。これは日本の強みである。
 日本型住民サービスを情報端末でよりシームレスにする。それがデジタル超「配置薬」システムの目的である。これで世界に先駆ける。
 将来は医療ビッグデータの利活用による最先端オーダーメード統合医療を富山で実現し、さらなる住民サービスの向上を図る。

6.世界は環境スマートシティブーム

世界は最先端都市インフラづくりブームであるところが日本の日立、東芝、荏原・・・の都市インフラ設備は高価で、韓国、中国製に負ける。国家を挙げて日本政府が支援しても、難しい。今後も勝てる見込みは少ない。そこで、都市の設備機器は中国製でも、都市運営ソフトウェア(都市ソリューション)は日本が創るのならコスト競争力があるとの構想で進めている。「設備機器は中国製、運行ソフトが日本製」は競争力がある。しかし、都市インフラ輸出で成功例がある。それは森ビルの上海などでの高層ビル建設、ビル自体が都市の発想である。
 またコンビニは都市ライフの象徴として、アジアに次々、ファミリーマート、ローソン、セブンイレブンが進出している。コンビにはおそらくアジアに100万店が展開する時代にすぐなり、中国をみて感じるようにアジアは日本の数倍、6倍以上のスピードで変化している。日本型コンビニがその中心として都市の中核施設となる。

7.環境未来都市構想と日本型都市インフラの世界進出の要諦
21世紀、世界企業の競争の場は欧米日から新興国に移動した。新興国の競争力の中心は1990年代~2000年代前半の人件費の安さから、2000年代後半からスピードに変わりつつある。また競争業種も繊維・玩具から家電・自動車へと変わり、現在は生活インフラ産業へ変わってきた。かつて、中国はソニー、トヨタ自動車を待望したが、現在はソニー、トヨタはいらない。
 新興国の内需拡大、環境都市インフラブームにのって、世界は製造業から都市生活産業の時代へ移行しようとしている。もはやトヨタ、ソニーは求められず、日立製作所、東芝からセブンイレブン、ローソン、ダイソーが求められる。日本のすべての産業が世界の人々の生活向上のためにグローバル化する時代でもある。
 2011年現在でも建設機械においては、中国での設備投資は日本の20分の1で済むといわれている(コマツへの日経新聞取材、2011年)。中国の三一重工のコマツに対する競争力はそこにあるとの考えである。しかし、実は新興国での競争の本質はスピードであった。
 中国での企業指導の体験を元にすると、「世界の40年は中国の7年」という新華社の記事が実感として感じられる。社会感覚、時代感覚として40÷7=約6倍のスピードである。中国社会は日本社会より変化が速い。どのような経営を行えばよいか、日本企業は、特に東京本社は理解が出来ない。例えば、中国三一重工とコマツの相違は産業のスピード理解が違う点にある。中国の建設業界の仕事は日本の建設業界より遥かに速い。日本の公共事業の遅さに慣れたコマツの経営者、特に東京の社員は付いていけない。新幹線を40年で建設した日本と7年で建設した中国とは建設業界の構造自体が日本と異なる。スピードはここでも約6倍である。
 中国企業の最大の競争力は人件費の安さからスピードへと移りつつある。日本の電機産業は中国での敗退の主因を人件費の安さに挙げ、世界における韓国企業に対する敗退を模倣と技術漏洩などに求めたが、実は時代に置いていかれたスピードの遅さが敗退の原因である。
日本型環境未来都市プロジェクトを世界に日本が広げていくには、ビッグデータにもとづく統合医療が作る街並み・高層ビル、都市インフラの設備・機器の設置・提供のすべてにおいて、スピードが求められる。それが世界で成功する道であることを歴史が教えてくれている。ビッグデータが作る都市は膨大なデータであるが故に逆にスピードが求められるというパラドックスの中で進められなければならない。武田薬品工業社長長谷川(2011)の「世界市場が大きく動く中では何もしないこともリスクだということを忘れてはいけない」は世界がスピード化する行動原理であると思われる。これが環境未来都市とビッグデータ統合医療都市構想が世界へ展開できる条件・要諦である。

8.結語
内閣府環境未来都市政策では各国の都市構想を変革、インフラ輸出の加速をも期待する。本研究は、ビッグデータ活用ビジネスによる都市変革、特に統合医療ビジネスについて論じ、①都市の新ビジネスは情報量の急増、ビッグデータ活用で起業される。②ビッグデータ活用によって都市で大きな成果と変化が期待されるのは健康生活を守る統合医療が変革させる都市構想と政策を論じた。

参考文献
長谷川閑史(2011)「何もしないリスク認識を」『日本経済新聞』日本経済新聞社,20111025日朝刊15

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