2011年3月1日火曜日

社会資本の老朽化・陳腐化とグローバル政策 ○清家彰敏(富山大学),清 剛治(北陸先端科学技術大学院大学)

研究技術計画学会全国大会(2010年亜細亜大学)報告2E08(清家文責にて一部加筆修正)

社会資本の老朽化・陳腐化とグローバル政策

○清家彰敏(富山大学),清 剛治(北陸先端科学技術大学院大学)

1.諸言
 別稿「社会資本の老朽化・陳腐化の動向と課題」(研究技術計画学会全国大会(2010年亜細亜大学)報告)において、国土交通省・白書にも示されるとおり、日本の社会資本の老朽化・陳腐化が進行していることが理解できた。今回注目した工業団地についても、特に日本海側について、老朽化・陳腐化への対処の観点から、適切な政策が必要と思われる。本稿ではその結果を踏まえ、これまでとは違う新たな切り口での政策の可能性を模索することをねらいとしている。具体的には、工業団地とセットで考えていかねばならない流通システム、すなわち現代日本の貿易実態をデータで示すことにより、その実態に即した工業団地の在り方をこの産業基盤の大転換期においてどのように行うべきかグローバルな視角で模索したい。
 研究課題は「中国・韓国と米国の貿易は日本海を通過する航路が最短距離であり、太平洋側は通らない。また北極回り航路が形成されるとさらに日本海航路の使用が増える。太平洋側の工業団地は今後その重要性が急速に低下するがその環境不適応は工場立地政策にどのように反映させるべきか」である。研究課題は「日本海航路への社会資本の移転」である。
 なお、日本海航路は米中貿易において10%近い日数と燃費の削減をもたらす。また欧中の北極航路はベーリング海、日本海を通り3分の1近くに日数、燃費を低下させる。

2.国土形成の歩みと今後
 戦後、我が国は社会資本に対し継続的公共投資を行ってきたことにより、世界有数の社会経済基盤を有する国家となった。道路・橋梁等の生活基盤をはじめ、情報通信基盤への積極的先端投資を行い、そのようなインフラ基盤の充実が、日本の産業競争の強さの基礎となってきた一つの要因ともいえる。その変貌は、戦後復興時の生産回復の視角からのインフラ整備から始まり、高度経済成長期の産業基盤整備の視角からの工業地域への集中投資を経て、全国均衡の工業発展を目指し、現在に至っている。
 一方、現在我が国を取り巻く環境は大きな構造転換期を迎えている。急激な高齢社会と人口減少、企業間グローバル競争の激化、さらにはリーマンショックにみられる様に、経済的不確実性が増大してきている近年においては特に、対処の結果として国家財政の危機も叫ばれている。
 このような未経験の状況下においては、これまで実践してきた高度成長期におけるスキームの多くが通用しないことが多い。しかしながら、我が国の政策思考は潜在的に過去の成功体験からなかなか脱却しきれていないように感じられる。
 産業をはじめとした、国際競争力を有する国家の再構築には、現況仮題をしっかりと踏まえ、その状況に沿った、あるいはそれを利用し逆手にとった政策を打ち出していく必要があると考えている。

3.グローバルな視角からの国土形成の必要性
 内需拡大が叫ばれている。しかしながら、国家成長には外需拡大が不可欠である。フラットにグローバル化された現在経済において、その恩恵をいかに最大限に得、成長につなげることができるかが問われている。グローバル化により生産性を向上させない限り内需型産業も成長せず、したがって内需も増えない。図表1-1、1-2(図表省略)に示されているように、高度成長期における主要貿易国は米国であった。当然ながら、ベルト地帯が形成されているとおり、その恩恵を享受する工業地域は太平洋側であり、インフラ整備も太平洋側が中心となっていったことは必然であろう。
 しかしながら、近年においては外需獲得への貿易状況は劇的に変化している。相手貿易国は中国を中心としたアジア諸国に変化しており、リーマンショックからの立ち直りの兆しは、まさに高度経済成長を続ける中国特需が要因である。ただし、この現況においては米国に向いた高度経済成長期のインフラ整備体制のままであり、余分な流通コスト等が派生していることはいがめない。

4.取扱コンテナ個数からみた現代日本における貿易の現状
 図表2-1、2-2(図表省略)は、既述の貿易現況において、どのように流通がグローバルになされているのかを示したものである。輸出入の実態をコンテナ数によって全国64港を調査したものである。基データとしては取り扱い先の全国家を把握できているが、特に貿易量の多い中国・韓国を対象として表記した。参考指標としてアメリカも併記した。
 その結果、中韓からの輸入に際し、コンテナの83.6%が太平洋側へ入港しており、また中韓への輸出に際し、コンテナの84.5%が太平洋側から出港していることが明らかとなった。

5.グローバルを視野に入れた新たな政策の可能性
 1971年「農業地域工業導入促進法」による、村ごとの工業団地整備、1972年「工業再配置促進法」の制定により、都市機能も含む工業団地を整備、米国のインダストリアルパーク的な工業団地整備が進められ、80年代のテクノポリス構想へ展開していった。
 この展開は、国土の均衡ある発展のための地方分散型産業立地政策といえる。しかしながら、現況の工業団地整備状況を見ると、本当の意味での産業振興~地方発展を目的としてこなかったともいえなくもない。前稿「社会資本の老朽化・陳腐化の動向と課題」において図表4に示したとおり、①現在造成をおこなっている多くが太平洋側であり、住宅団地も含め労働力のある地域に工業団地を造成していることが推測できる。また、既述のとおり、②グローバルな流通状況が対米国から対アジアへ大転換している現況がある。さらにはそのグローバルな流通と密接に関わってくる、③工業団地を取り巻く、道路・橋梁、港湾、空港の機能も含めて老朽化・陳腐化を考えていかねばならない。このことから、これから将来にかけての工業団地整備に関しては0ベースで政策を考えていくことが必要であると考える。
 以上のことにより、大規模な社会資本の更新・修繕の必要性を期に、主要な工業団地および道路や港湾等の社会資本を日本海側に構築(移転)・整備することによって、実態に合った効率良い流通(貿易)⇔製造(工業団地)の新しいシステムを創造していくことが望ましいと考えられる。しかしながら、闇雲に日本海側に造成すればよいということではなく、アジア諸国航路、および日本海側港湾から太平洋側都市圏への輸送手段を考慮し戦略的(集約性・効率性)に思考していかねばならない。

6.政策提言の模索
 今回の調査、ヒヤリング、考察より研究課題「日本海航路への社会資本の移転」への政策提言1)から4)を模索した。

1)理想的な造成地域として浮かびあがってくるのが、①北海道・青森地域(津軽海峡・首都圏輸送)、②舞鶴(日本海中心位置・関西圏/中部圏輸送)、③北九州地域(関門海峡・九州圏輸送)、である。日本海側においては、北海道と青森は大規模な工業団地が空いており、日本海航路を活用する最適地である。福岡・北九州は韓国釜山とともに良い立地であるが、現在工業団地の空きは少ない。日本の3大工業集積地について考察してみよう。京阪神地帯は舞鶴が日本海の港となる。中京地帯は石川港が東海北陸道を使っての日本海港である。それに対して、京浜地帯は新潟港と富山伏木港が重点港湾から外れて日本海港軽視の状態となった。
日本海側石川、富山、新潟などにとっては北朝鮮の良質低賃金労働力約2000万人は大変な魅力となる。北朝鮮と北陸は高速船(テクノライナー)を使えば8時間であり、夕方収穫した野菜を翌日の朝、日本に届けることが可能である。
2)東名名神、東海道新幹線、首都高とそれに付帯した多くの太平洋側の産業などのインフラは1964年のオリンピック前後に完成した社会資本であり、耐用年数が50年と考えると更新が間近になった。社会資本の多くは更新するか、代替する必要がある。
3)中国から見て、米国への製品輸出は帰り船の積載率が悪い。帰りは出来るだけ米国の商品を満載して、日本、韓国、北朝鮮、ロシア、台湾へ立ち寄るほうが帰り船の積載率が上がる。そのためには日本海航路は日数、燃費だけでなく太平洋航路よりはるかに有利である。そのような中国の事情を顧慮すれば京浜地帯は日本海港を国家が重点港にしなかったことの不利は大きい。
4)日本は工場分散を全国に行った結果、社会資本の拡散による非効率、収穫逓減の法則から考えて、社会資本で大きな問題を抱えている。それは分配と労働力の確保という政策と反する原理である。中国が拡散する今、工場を集中させる意味は大きい。

7.結論にかえて
 本稿においては、老朽化・陳腐化が進む工業団地の在り方をこの産業基盤の大転換期においてどのように行うべきかグローバルな視角で模索した。現代日本の貿易実態はデータによればアジア中心に展開されていた。工業団地という社会資本は、構成する一部である、取り巻く道路・橋梁、港湾、空港等の更新・修繕についても含意されるため、グローバルな流通システムの観点から論じることが妥当であると考えている。
 研究課題「日本海航路への社会資本の移転」への将来検討資料をとして、1)産業技術的視点、2)周辺国の動向について整理した。
1)(産業技術的視点)東海道における社会資本の劣化は北陸社会資本としての北陸新幹線沿線の活用で補完でき、これは地震等対策ともなる。北陸新幹線は日本縦断観光新幹線、日本縦断貨物新幹線の一部としての将来は構想可能である。北海道から九州まで貨物新幹線が開通すれば1日配送圏は飛躍的に広がり、グリーンツーリズムからいってもトラック輸送の激減でもメリットは大きい。高齢化している日本では長距離トラック網の維持は困難である。貨物新幹線は東海道新幹線のみ旅客輸送に特化させ、北海道から大宮、北陸新幹線、大阪から九州となるのがもっとも妥当と思われる。
この貨物新幹線は時速250キロから300キロ走行を実現させれば、貨物新幹線は世界への輸出産業となる。青函トンネル通行用の在来車両搭載用新幹線は、貨物新幹線への発展可能性を持っていると思われる。
2)(周辺国の動向)周辺国からの社会資本要請は、日韓トンネルは戦前より計画されているが、それに加えロシアはシベリア鉄道を間宮海峡からサハリン、そして日本の北海道新幹線と連結させる構想がある。シベリア鉄道は超広軌で、中国、韓国、日本の新幹線とはゲージが異なる(ドイツとも異なり、これが第2次世界大戦ドイツ軍のソ連戦の兵站維持を困難にした)が、日本海環状新幹線の検討も可能である。

 今後、現地調査もふまえ詳細な状況データを収集し、具体性のある緻密な政策提言へ向けて、継続的に調査・研究を実施していく予定である。


参考文献

高玲「日本海側コンテナ港の現状と課題」『立命館経営学』第47巻第4号、2008年11月
後藤文子「日本における大規模コンテナターミナル整備について ‐日本のコンテナ貨物の中身の価格はアジア第1位‐」平成18年度国土交通省国土技術研究会、自由課題、報告論文
財務省貿易統計 http://www.customs.go.jp/toukei/info/vessel.htm
細谷祐二「産業立地政策、地域産業政策の歴史的展開 -浜松にみるテクノポリスとクラスターの近接性について-」産業立地、2009年1月

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