物流大動脈日本海航路と北陸新幹線の夢
経済学部・大学院MBA教授 清家彰敏
1.中国から米国への最短コースは日本海航路
上海・釜山発のコンテナ船は対馬海峡を通り日本海へ、津軽海峡を抜け米国へ向かう。日本海航路は太平洋岸を通る航路に比べて1日から2日短縮される。地球が丸いためこれが最短距離である。その結果、日本海は中国、韓国にとってもっとも重要な海となった。富山沖を通るコンテナ船は増える一方である。
それに対して日本のコンテナ船はほとんど日本海を走らない。2010年の輸出入の実態をコンテナ数によって全国64港を調査した(清家彰敏・北陸先端科学技術大学院大学研究員清剛治)。米国へのコンテナ輸出入はほとんどが太平洋側である。中韓への輸出でさえコンテナの84.5%が太平洋側から出港、輸入も83.6%が太平洋側へ入港していた。
工業団地も太平洋側へ偏り日本海側軽視である。1971年「農業地域工業導入促進法」1972年「工業再配置促進法」80年代テクノポリス構想で、インフラの多くは太平洋側に偏った。さらに現在工業団地の造成をおこなっている多くが太平洋側である。日本にとって日本海側は存在が薄い。
さて、現在、キヤノン、本田技研工業の海外売り上げ比率は80%に達し、トヨタ自動車など大手企業の売り上げの半分は海外に依存している。戦後の日本では製品製造プロセスは国内で完結し、最終製品が米国へ輸出された。しかし、21世紀日本の海外での競争力は最終製品だけではなくなった。日本の強みは基幹部品・最先端材料輸出となりつつある。新日本製鉄、村田製作所、コーセルなどに代表される。世界的な中堅企業も多い。日本発の基幹部品は中国、韓国などで最終製品となりコンテナ船が仕立てられ米国へ輸出される。このとき最短距離の日本海を通過する。
ところで、上海、釜山より米国に近い日本海側の港でコンテナ船を仕立てると燃料消費をより削減できる(中央大学理工学部助教鳥海重喜氏)。そうなれば、日本海航路は米中貿易において太平洋側を通るより1割%近い燃費と日数の削減をもたらし、省エネ効果はさらに高まる。
さて、製品創造プロセスは企画・開発・部品生産・組立・販売の5プロセスである。グローバル化の現在このプロセス内に世界の無数の企業、工業団地はいやおうなく組み入れられる。このプロセスは流通大動脈となり、アジア、米国、欧州の3地域を繋いでいる。スエズ運河、パナマ運河、マラッカ海峡、と並び日本海は重要ルートである。しかし日本政府の意識は低い。
また温暖化により将来北極回り航路が形成されると日本海航路の使用はさらに増える。中国・韓国と欧州間は北極海航路が拓かれるとベーリング海、日本海を通過、スエズ運河を経由せず距離は半減する(日本経済新聞2010年12月27日9面「経営の視点 ハブ港奪回の最後のチャンス(竹田忍編集委員)」)。米国東海岸行きも日本海、北極海航路によってパナマ運河を経由せず大幅短縮となる。
さて、中国、韓国から見て、アメリカへの商品輸出は帰り船の積載率が悪い場合がみられる。米国には売る商品が無いという中国の経営者さえいる。アメリカの特産品である「ソフト」はコンテナに積む必要がない。したがって、帰り船を満載にするには、なるべくアジアの沢山の国の注文を取って回りたい。そして、帰りは出来るだけアメリカの商品を積載して、日本、韓国、北朝鮮、ロシア、台湾の顧客へ分散して届けるスタイルを取ると帰り船の積載率が上がる。日本海航路の途上に港(京都舞鶴、富山伏木、新潟など)を完備し、各国の集荷に加え、日本の各地を加え積載率を上げるのが自然である。
日本の各地と結ぶ日本海側の港として浮かびあがってくるのが、①北海道・青森地域(津軽海峡・首都圏輸送)、②舞鶴(日本海中心位置・関西圏/中部圏輸送)、③北九州地域(関門海峡・九州圏輸送)、である。日本海側においては、北海道と青森は大規模な工業団地が空いており、日本海航路を活用する最適地である。福岡・北九州は韓国釜山とともに良い立地であるが、現在工業団地の空きは少ない。
2.北陸新幹線からの夢
日本海航路の港湾、工業団地などを陸上で結ぶ幹線が日本縦断新幹線であると思われる。これは地震等の大災害対策ともなる。北陸新幹線は日本縦断貨物新幹線の一部として構想可能である。北海道から九州まで貨物新幹線が開通すれば1日配送圏は飛躍的に広がり、グリーンツーリズムからいってもトラック輸送の激減でもメリットは大きい。高齢化している日本では長距離トラック網の維持は困難である。東海道新幹線を旅客輸送に特化させ、日本縦断貨物新幹線は、北海道、東北、大宮、北陸、大阪、中国、九州となるのがもっとも妥当と思われる。貨物新幹線は世界への輸出産業ともなる。
ところで中国は土地が国有で社会資本の建設は極めて速い。金沢に新幹線が来る前に中国中に新幹線網が完成しかねない。ロシアも同様である。日本の社会資本建設が遅れると東アジアで取り残される可能性大である。
3.太平洋側社会資本の日本海側への移転
日本の太平洋側の鉄道・道路・橋梁・港湾・空港・工場団地の中核は1960年代、70年代を中心に作られ老朽化・陳腐化が問題となっている。東日本大震災が2011年3月11日に発生、原子炉災害も加わり未曾有の災害となった。津波災害対策に社会資本の再建、再配置を考えるとき、世界的物流の大動脈となりつつある日本海側への社会資本の分散は意味を持っている。
日本が主役で最終製品、基幹部品を作っている限り、太平洋側から輸出しようが日本海側から輸出しようが大きな差は無い。相手が待ちわびているからである。しかし、今後新興国の技術が向上し、グローバル化が進むとそうとばかりは言っておられない。流通の大動脈の中に社会資本、工業団地を位置づけないと置いていかれる。裏通りでは仕事が来ない。そうなっていない工業団地は滅ぶ。
工業団地の役割は世界経済のサービス化への対応、スマートシティ建設プロセスの分業拠点と今後大きく変化しつつある。また国内のボーダーレス化が進む未来はメイドインジャパン化の拠点、海外商品・サービスの導入拠点としての意味も大きくなる。ますますリニューアルが必要となる。
さて太平洋側の工業団地は今後その重要性が急速に低下する。その環境不適応を工場立地政策にどのように反映させるべきか。日本の政策課題は「日本海航路周辺への社会資本の移転」である。東日本大震災、大規模な社会資本の更新・修繕の時期をとらえ、主要な工業団地および道路や港湾等の社会資本を日本海側に構築(移転)・整備することによって、急成長する東アジア、日本海航路に合わせた流通(貿易)⇔製造(工業団地)の新しいシステムを創造していくことが望ましい。
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