2011年6月18日土曜日

欧米への最短コースは日本海航路 物流大動脈日本海航路と北陸新幹線の夢

今こそ、太平洋側に偏りすぎている交通のインフラを問う
物流大動脈日本海航路と北陸新幹線の夢
         
       富山大学経済学部・大学院MBA教授 清家彰敏

1.中国から米国への最短コースは日本海航路
上海・釜山発のコンテナ船は対馬海峡を通り日本海へ、津軽海峡を抜け米国へ向かう。日本海航路は太平洋岸を通る航路に比べて1日から2日短縮される。地球が丸いためこれが最短距離である。その結果、日本海は中国、韓国にとってもっとも重要な海となった。富山沖を通るコンテナ船は増える一方である。
それに対して日本発着のコンテナ船はほとんど日本海を走らない。2010年の輸出入の実態をコンテナ数によって全国64港を調査した(清家彰敏・北陸先端科学技術大学院大学研究員清剛治)。米国へのコンテナ輸出入はほとんどが太平洋側である。中韓への輸出でさえコンテナの84.5%が太平洋側から出港、輸入も83.6%が太平洋側へ入港していた。
現在、キヤノン、本田技研工業の海外売り上げ比率は80%に達し、トヨタ自動車など大手企業の売り上げの半分は海外に依存している。戦後の日本では製品製造プロセスは国内で完結し、最終製品が米国へ輸出された。しかし、21世紀日本の海外での競争力は最終製品だけではなくなった。日本の強みは基幹部品・最先端材料輸出となりつつある。代表は新日本製鉄、村田製作所、コーセルなどである。世界的な中堅企業も多い。日本発の基幹部品は中国、韓国などで最終製品となりコンテナ船が仕立てられ米国へ輸出される。このとき最短距離の日本海を通過する。
北米行き3140隻、アジア行き2972隻について国土交通総合研究所が2009年分析した 。北米行き日本海経由1059隻33.7%、アジア行き739隻24.9%。北米行きは韓国発764中国北部232台湾37中国南部26日本0隻であった。アジア行きは韓国着449台湾160中国北部82中国南部25日本23隻であった。日本海は韓国、中国の大動脈である。日本発着は全体の1.4%に過ぎない。

2.米国へ直行する上海の大型コンテナ船
積み替えtransship 率は2008年でシンガポールが83.1%、韓国64.9%、台湾33.9%、中国21.7%、日本18.0% 。「大型船になると釜山、シンガポールに寄らず、上海から北米に直行する」「上海の洋山港の出現は東アジアにコンテナ物流において超大型ハブ港として機能し、域内においてはすべてフィーダーサービスで賄う可能性すら持っている」アジア・北米航路における中国発貨物量68%、日本発6%、アジア・欧州航路中国発70%、日本発5% 。東アジアは自国貨物中心(海で分離される)、欧州は全欧州から貨物が集まる 。オランダロッテルダム港はモスクワからミラノの範囲まで集まる。中国は港湾整備が遅れているため韓国・日本・台湾の港湾を利用しているが将来は自国港湾で賄う 。

3.コンテナ船を仕立てる適正港湾の条件
上海、釜山より米国に近い日本海側の港でコンテナ船を仕立てると燃料消費をより削減できる(中央大学理工学部助教鳥海重喜氏)。そうなれば、日本海航路は米中貿易において太平洋側を通るより1割%近い燃費と日数の削減をもたらし、省エネ効果はさらに高まる。
さて、製品創造プロセスは企画・開発・部品生産・組立・販売の5プロセスである。グローバル化の現在このプロセス内に世界の無数の企業、工業団地はいやおうなく組み入れられる。このプロセスは流通大動脈となり、アジア、米国、欧州の3地域を繋いでいる。スエズ運河、パナマ運河、マラッカ海峡、と並び日本海は重要ルートである。しかし日本政府の意識は低い。
なお、メルカトール図法の地図を見慣れているとにわかには信じられないだろうが、地球儀を辿るとマラッカ海峡~ベトナム~中国~韓国~日本~北米西岸~パナマ運河がほぼ一直線上の大圏コース上に位置している(航路帯)いる 。シンガポール、ホーチミン、香港、上海、釜山、日本海、津軽海峡、アリューシャン、ロサンゼルス、メキシコ、パナマは一直線上にある。
この直線最短距離航路帯を世界の海上コンテナの半分近くが流動している 。また航路上に関わるコンテナ取扱量の比重をみるとASEAN13.6%、北東アジア35.7%、北米10.0%、中南米7.0%と世界の66.3%を占める(2007年) 。高橋 はこの航路帯について世界の東海道新幹線といった表現をし、「北米1港と中国2港との間をシャトル運行しており、ロサンゼルス港で船積みされた海上コンテナは13日後には上海港で船卸しされている(寄港地が多いと25日間)。」2007年にフルコンテナ船4,239隻(Lloyd’s)。ちなみに、世界の全物流の9割が海上物流である。
また、この海上新幹線上の駅は赤道上シンガポール、緯度10度ホーチミン(旧サイゴン)、20度香港、30度上海、40度には無い。東京、阪神、釜山は35度。台北は25度。この4駅は停車駅としては中途半端かもしれない。

4.日本の優位性はアジアの玄関ポータルサイト
日本は北米に対するアジアの玄関、ポータルサイトであり、北海道(津軽海峡)東北はアジアの看板として、新駅(秋田・岩手・青森が緯度40度)を作りうるかもしれない。海上新幹線のイメージはアジアでは各駅に止まり、太平洋上は高速で通過し、シアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、パナマで各駅停車もありうる。 
また温暖化により北極海航路が拡大すると日本海航路の使用はさらに増える。2008年には124隻の商業船が北極海を航行した(ロシア政府発表)。北極海航路では、韓国・中国船は日本海、ベーリング海、北極海、バレンツ海、欧州へ、スエズ運河を経由しないため距離はほぼ半減する 。オランダのロッテルダムと横浜の間はスエズ運河経由だと2万5千キロメートルなのが、北極海航路を使えば1万2千キロメートルで済み、大幅な距離の短縮になる(ノルウェー船級協会吉田伏見男副社長 )。
なおロシア側北東航路は欧州から北海、ノルウェー海、バレンツ海を通り、北極海、ベーリング海、太平洋、日本海へと入り、韓国、中国へ向かう航路となる。バレンツ海には欧州沿岸を北上したメキシコ湾暖流が流入するため冬季にも凍結することがない。北極海航路は、現在夏場4ヶ月だけの利用に限られるが、将来拡大すると欧州へのアジアのポータルサイトとしても北海道(津軽海峡)東北、日本海の重要性は高まる。
米国、ロシアなど8カ国の北極評議会は、北極海で30~40年以内に夏には海氷がなくなると予測する 。米国東海岸行きも日本海、北極海北西航路はパナマ運河を経由せず大幅短縮となる。上海-ニューヨーク間は1万9千キロメートルが1万3千キロメートルまで短縮する。
温暖化とともにアジアのポータルサイト北海道(津軽海峡)東北、日本海は年々賑わいを増す。韓国、中国、東南アジアのコンテナ船は日本海を通り、北米、欧州へ向かう。日本の裏庭である日本海、北海道(津軽海峡)東北を隣人が通行していくのに、日本政府は背を向けて太平洋側の玄関ばかり綺麗に飾ってきた。日本海側に玄関を作らないとお客は立ち寄らず挨拶もしないで素通りする。

5.北極海資源と日本
また北極海には金、銀、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、ダイヤモンドなどの鉱物資源をはじめ、石油・天然ガスにおいてはいまだ手付かず状態にある世界の資源量(未確認資源量)の4分の1に相当する量とも、あるいはサウジアラビアにおける埋蔵量の4割にあたる量が眠っているともいわれている 。またサムスン重工業は極地運行用前後方向砕氷船を開発、7万トン級砕氷タンカーを受注している 。砕氷タンカーはタンカーの3倍の価格といわれている。日本は北極海を前提とした外交へ移行する必要があり、北極海に加えて北海道からのオホーツク海資源の開発を前提にすべきである。

6.欧州航路とロシアシベリア鉄道の競争
人類の歴史は陸と海の物流効率の交替によって起こっている(清家)。古代は陸における駱駝、牛馬が、中世は海における帆船が物流効率で上回った。近代は陸の列車、自動車と海の動力船が競争し現在にいたっている。英国、米国は海を支配し世界の覇者になってきた。ちなみに現在物流の1割は陸、9割は海といわれている。日露戦争はロシアと英国(+日本)の中国をめぐる覇権争い、ロシアのシベリア鉄道と英国・香港航路の物流効率競争が主因になっているともいわれている。競争の勝者日英同盟が覇権を握った。
ロシアのシベリア鉄道はアジア・欧州航路の競争者である。北極航路の主役でもあるロシアは2005年鉄道が全貨物の約42%を占め、一番重要な輸送手段である(辻久子)。世界の貿易に占める海上輸送9割に比較すれば、ロシアで鉄道が大きな意味を持つことが分かる。また貨物は国内貨物67%、国際貨物33%である。国際貨物の内訳は海上13%、陸上20%であるから海上物流が弱い。ロシアが海上国際物流の強化策として北極航路に期待する理由はここにあるが、日本政府ではロシア資源・エネルギー戦略の陰に隠れほとんど議論されない。
さて、欧州・アジア物流において陸のシベリア鉄道はどの程度の競争力を持っているのだろうか。
フィンランド・トランジットは、極東ボストチヌイまで海路を経由してシベリア鉄道を使う所要日数が、諸手続きなどを含んで釜山18~22日、神戸24日、上海26日であった。シベリア鉄道の所要日数は、ボストチヌイ発フィンランド国境ブスロフスカヤ行きブロックトレインは約11日間でユーラシアを横断し2005年まで頻繁に運行されていた。
それに対して海のスエズ回り航路は諸手続きなどで35日である。運賃は海路経由シベリア鉄道がやや海のスエズ回り航路より高い。シベリア鉄道は、ソ連時代、政策的に低運賃に抑えられていたがロシアになって高くなった。しかし、海上運賃は上下動が激しく、シベリア鉄道は海上運賃が高騰すると競争力が高まる。ちなみに欧州向け海上運賃は日本が一番安く、次が韓国で、中国は高い(2007年)。
日本は旧ソ連時代シベリア鉄道を活用したが、1990年代以降は主役を韓国に譲った。韓国は自動車産業を中心に海路経由シベリア鉄道とスエズ回り航路の両方を併用している。韓国は小型車部品を蔚山から海路ボストチヌイへ運び、その後シベリア鉄道で黒海タガンログまで諸手続きなど含め23日間で輸送している(2007年)。これが陸である。海スエズ回りは、釜山からコンスタンツァ経由フィーダー船で諸手続きなど含め30日程度かかる(2007年)。
なお、現代自動車工場向け部品輸送に用いられているブロックトレインは24m(80フィート)コンテナ貨車が31-38両連結され、約1000m程度である(辻久子)。ちなみに東海道新幹線は16両、1両25m、約400mである。

7.太平洋側社会資本の日本海側への移転
日本の太平洋側の鉄道・道路・橋梁・港湾・空港・工場団地の中核は1960年代、70年代を中心に作られ老朽化・陳腐化が問題となっている。東日本大震災が2011年3月11日に発生、原子炉災害も加わり未曾有の災害となった。津波災害対策に社会資本の再建、再配置を考えるとき、世界的物流の大動脈となりつつある日本海側への社会資本の分散は意味を持っている。
日本が主役で最終製品、基幹部品を作っている限り、太平洋側から輸出しようが日本海側から輸出しようが大きな差は無い。相手が待ちわびているからである。しかし、今後新興国の技術が向上し、グローバル化が進むとそうとばかりは言っておられない。流通の大動脈の中に社会資本、工業団地を位置づけないと置いていかれる。裏通りでは仕事が来ない。そうなっていない工業団地は滅ぶ。
工業団地の役割は世界経済のサービス化への対応、スマートシティ建設プロセスの分業拠点と今後大きく変化しつつある。また国内のボーダーレス化が進む未来はメイドインジャパン化の拠点、海外商品・サービスの導入拠点としての意味も大きくなる。ますますリニューアルが必要となる。
太平洋側の工業団地は今後その重要性が急速に低下する。工業団地の再配置については3つの大きな問題が存在する。1つは日本海側と太平洋側のバランス、2つは港湾と陸上交通と産官学施設の融合、3つは規模の経済の発揮とソリューション物流である。
1つ日本海側と太平洋側のバランスである。過去、工業団地は太平洋側へ偏り日本海側軽視であった。よく言われたのが、米国重視は太平洋側重視という考えである。前述したように米国に近いのはむしろ日本海側である。しかし、田中角栄総理の列島改造論以来の1971年「農業地域工業導入促進法」1972年「工業再配置促進法」などにより工場の地方分散、80年代テクノポリス構想などでも、インフラの多くは結果的に太平洋側に偏った。さらに現在も工業団地の造成をおこなっている多くが太平洋側である。日本にとって日本海側は存在が薄い。日本の政策課題は「日本海航路周辺への社会資本の移転」である。
北米向け海上コンテナ輸送が日本海を経由する度合いが増え、日本海沿岸諸港の国際海上コンテナ取扱量の平均伸び率は日本全国平均の2倍を超えたとの政府の認識は遅いくらいである(平成20年7月閣議決定) 。今後、日本海側への移転が今回の東日本大震災を受けて試みなければならない。

8.日本縦断貨物新幹線
2つは港湾と陸上交通と産学官施設の連携である。日本海航路の港湾、工業団地などを陸上で結ぶ幹線として、既存および建設中の新幹線を連結させ、日本縦断貨物新幹線の構想を作り上げることが重要であると思われる。これは地震等の大災害対策ともなる。建設中の北陸新幹線は日本縦断貨物新幹線の一部として活用可能である。北海道から九州まで貨物新幹線が開通すれば当日配送圏は飛躍的に広がり、グリーンツーリズムからいってもトラック輸送の激減でもメリットは大きい。高齢化している日本では長距離トラック網の維持は困難である。
東海道新幹線を旅客輸送に特化させ、日本縦断貨物新幹線は、北海道、東北、大宮、北陸、大阪、中国、九州となるのがもっとも妥当と思われる。その駅にターミナルを作り短距離トラックシャトル便が郵便局、コンビニを結んで走れば即日配送圏の拡大で日本列島は大きく変化する。また貨物新幹線は製品として世界への輸出産業ともなる。
 ところで中国は土地が国有で社会資本の建設は極めて速い。金沢に新幹線が来る前に中国中に新幹線網が完成しかねない。ロシアも同様である。日本の社会資本建設が遅れると東アジアで取り残される可能性大である。

9.ソリューション物流と規模の経済の発揮
中国、韓国から見て、米国への商品輸出は帰り船の積載率が悪い場合がみられる。米国には売れる商品が無いという中国の経営者さえいる。米国の特産品である「ソフト」はコンテナに積む必要がない。したがって、帰り船を満載にするには、なるべくアジアの沢山の国の注文を取って回りたい。そして、帰りは出来るだけ米国の商品を積載して、日本、韓国、北朝鮮、ロシア、台湾の顧客へ分散して届けるスタイルを取ると帰り船の積載率が上がる。日本海航路の途上に港(京都舞鶴、富山伏木、新潟など)を完備し、各国の集荷に加え、日本の各地を加え積載率を上げるのが自然である。そのためには欧米行きはシンガポールから日本海までで範囲の経済の発揮、帰り船は顧客ソリューションの発揮が鍵となる。
なぜ、日本は1990年代以降停滞したのか。そのひとつの原因が大規模物流に応える大規模港湾、大規模工業団地、大規模施設の形成に失敗したからである。日本政府は49の地方自治体の要求にこたえる形で、1970年代以降投資を繰り返し、必然的に分散投資になった。その結果、1970年代1980年代までは周辺は日本だけが先進地域であったためこの分散投資は競争力の低下に繋がらなかった。むしろ競争の効果さえ見られた。しかし、周辺国が物流の急増、コンテナ船の大型化に合わせ、大規模投資を繰り返し始めた1990年以降急速に競争力が低下した。この流れを日本は転換しなければならない。
日本の各地と結ぶ日本海側の港の集中投資、規模の経済の発揮として浮かびあがってくるのが、①北海道・青森地域(津軽海峡・首都圏輸送)、②舞鶴(日本海中心位置・関西圏/中部圏輸送)、③北九州地域(関門海峡・九州圏輸送)、である。日本海側においては、北海道と青森は大規模な工業団地が空いており、日本海航路を活用する最適地である。福岡・北九州は韓国釜山とともに良い立地であるが、現在工業団地の空きは少ない。北海道と青森、それに秋田、岩手を組み合わせて、大規模港湾、物流新幹線、短距離トラックシャトル便、大規模工業団地、大規模官学施設のクラスターが東日本大地震の復興の上位構想として計画されなければならない。

10.おわりに
東日本大震災、大規模な社会資本の更新・修繕の時期をとらえ、主要な工業団地および道路や港湾等の社会資本を日本海側に構築(移転)・整備することによって、急成長する東アジア、日本海航路に合わせた流通(貿易)⇔製造(工業団地)の新しいシステムを創造していくことが望ましい。

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