2011年6月25日土曜日

トヨタ思想の世界化と政策決定への影響と検証可能性

トヨタ思想の世界化と政策決定への影響

1. ソリューションビジネスとトヨタ生産方式
 世界でソリューションビジネスが全盛であるが、これは顧客主導型ビジネスであり、その原点はトヨタ生産方式にあるのではないか。トヨタ生産方式はトヨタ自動車の大野耐一元副社長が発明したビジネスモデルである。その特徴は4つに要約される。現在はインターネット上にSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)として広がりつつある。また、工場でトヨタ生産方式の有力な手法である「多台持ち」がインターネット上でのプログラムの「多台持ち」へと発展する可能性があり、インターネットの世界はトヨタ思想で覆われていくと考えられる。

1) 顧客主導の注文生産の視点で量産を行うため、在庫が極めて少ない。
 顧客が買わなければ商品は作らない。商品がなくなれば、部品を集めて商品を作る。商品が作られれば部品がなくなる。部品がなくなれば部品をつくる。このようにすれば在庫は存在しない。デル・コンピュータ社のパソコン受注生産もこの考えである。これがジャスト・イン・タイム(JITシステム)である。
2) 社内であっても顧客は必ず存在し、その人のソリューションの助けを行うのが仕事である。
 企業内においても顧客に相当する人は必ずいる。いつもその人を助けるつもりで仕事をするのがトヨタ思想である。例えば、消しゴムを取ってといわれたとき、従来の米国企業の社員は消しゴムを渡せば仕事をしたと考えた。トヨタ思想ではその人の立場にたってなぜ消しゴムを必要とするかを考え、消しやすい位置と方向に置いてあげる。また、その人の立場にたって、消しゴムをここで使ったほうがよいとソリューションまで一緒に考える。パナソニックもこの点は同じである。トヨタとパナソニックの違いは、トヨタは「欲しい人がやる、やらせる」点である。「消しゴムを持ってきてと頼んで、いつまでたっても持ってこないので部下を怒鳴った」という経験をした人もいるかもしれない。なぜ持ってこないのだろうか。部下は消しゴムが欲しくない。だから持ってこない。欲しいならあなたが取りに行けばよい。欲しくない人に仕事をさせたらぞんざいになる。欲しくないから消しゴムを持ってくることも忘れる、不満も出る。社長であろうと部下であろうと一番欲しいと思う人がそれをすれば、不満は無く忘れもせず、ぞんざいにもならない。
3) カンバンという物の流れと逆な情報の流れを作り出したため管理が容易である。
 部品にはカンバンとよばれる紙の札がついている。その札は部品が作られればその部品に付けられる。そして、次の作業者のところへ部品と札が行く。次の作業者がその部品を使ってしまえば、札ははずされ、戻ってくる。その札が戻ってくると作業を始める。その札が戻ってくるまでは仕事はしてはいけない。札が戻れば仕事をして、戻らなければ仕事はしてはいけない。極めて単純で、計画も管理の不要である。作業者、管理者はカンバンがあるかどうかだけを見てればよい。部品という物の流れとカンバンという情報の流れは逆である。このカンバンのおかげで、作業者は煩雑な計画とか、複雑な管理とかから開放され、作業だけに専念できる。
4) マシンタイムではなく、マンタイムを100%発揮させる作業環境をつくる(多工程持ち)。
 工場では通常、機械が動いているのを作業者が見ている。これはマシン(機械)が主役である。マシンタイムを100%にすることばかり技術者は考えている。トヨタ思想ではそう考えない。マン(作業者)はほとんど働いていない。例えば、機械に材料をセットしてスイッチを押し、加工が始まり、終わり、できた部品を機械からはずす、この工程を考えてみよう。このうち、人間が仕事をしているのは材料セットとスイッチ、部品はずしだけである。後は機械がやっているだけである。トヨタ思想では人間中心の作業設計を訴える。作業者を100%働かせるためには、作業者の周りに機械を配置する。作業者は1台目の機械に材料をセットし、スイッチをいれる。その機械が加工し始めると後は機械に任せ、2台目の機械に向う。材料をセット、スイッチを押し、また3台目に向う。4台目を終えたときには、1台目の加工が終了している。そこで、1台目のできた部品をはずし、次の材料をセット、スイッチを押す。次は2台目へと・・・この繰り返しである。この結果、マンタイムは100%になり、通常の4倍の生産性が達成されたことになる。
 なお、この4つめをトヨタでは「多台持ち」と呼んでいる。この方式の原型は、トヨタ自動車は豊田自動織機から社内ベンチャーとして創業されたが、この織機工場の織機が1人の女工の自動織機多台持ちであり、これがルーツといわれている。これが、インターネット上でのプログラムの「多台持ち」へと発展することが考えられる。現在のNTTの番号案内サービスは多台持ちである。交換手は問い合わせ先に関する不確実性を伴う応対だけ行う。後はコンピュータ検索コンピュータメモリで自動応対する。この自動応対の時間に交換手は次の問い合わせ先に応対している。「多台持ち」である。番号案内サービスは赤字であるがこの「多台持ち」の“台数”をどのくらい多くできるかが黒字化の鍵となる。

 さて、特に米国が注目したのが1)、2)である。本研究では1)、2)が社会、世界にどのような影響を与えつつあるかを問題とし、この1)、2)が起こす企業人の意識革命を今後取り上げる。
 1990年代に米国で成功した多くのビジネスモデルは80年代の日本研究から派生したと言われている。上記のトヨタ生産方式は日本型経営を徹底的に現在、日本研究からでたSCM(サプライ・チェーン。マネジメント)が世界の企業のモデルを転換させようとしている。この米国の流通業を中心に広がり、ウォールマート等の成功はシアーズ、バミューダ、ドロシーレーン・マーケットといった顧客価値を高める流通という概念から企業を再構築させた。その影響で、米国では流通業以外の企業もビジネス活動全体を顧客価値で統合的に再構築しつつある。また、IBM、富士通、日本電気等が営業部門がモデルとして、職務再設計を進めているソリューションビジネスも顧客の視点に立って、顧客主導、顧客の問題を顧客の立場になって解決するそれがソリューションビジネスである。

2. サービス化とソリューションビジネス
 サービスビジネスはソリューションビジネスの登場で新しいモデルを見出し、GEは大きな成功を迎えた。

3. トヨタ思想(トヨティズム)と政策決定者
 企業トップと政府のトップは日米欧の多くの国においては同じ階層であった。エリートは政府と図り、社会、産業の発展に責任を持っていた。しかし、トヨタ生産方式は企業をかつてのエリート主導から顧客主導に変えた。つまり、企業トップの成功の原則は国家的視点に立った行動ではなく、顧客の視点に立ったトヨタ思想の行動に転換したのである。トヨタ以前は、政府は多くの政府が行うべき役割のかなりな部分を企業に期待できた。それは競争原理が支配するとされる米国でも例外ではなかった。ところが、トヨタ思想以降、企業は顧客原理である。したがって、政府はこの企業から消えてしまったエリートの代わりをしなければならない。これが米国の政府でさえ、産業化を将来的に目的とする研究開発に注力させることになった。

4. 新しい政府と企業の関係
 かつては、政府、国家的視点の企業、一般企業の3層構造が、政府、一般企業の2層構造になったのである。(国家的視点の企業がなぜなくなったか、不景気の時期政府と企業の関係はとくに景気サイクル対応型組織どのように解釈する?)

5. 欧米におけるナショナル・イノベーション・システムの史的展開
 米国は1800年代、欧州に対し、発展途上国としての位置であり、欧州の物真似を中心として工業を発展させた。多くの企業家は国家意識が強く、現に現在も中核となるATT、GE、フォード等の大企業は政府と競争関係(消費者をリードする点で?)にあったり、政府と対立することはあっても、国家意識に満ち満ちている。現在でもマイクロソフトのビル・ゲーツは大いに国家意識を持っていることを発言の中で強調している。(国家主導と国家意識の違い点?国家=政府?
 欧州の大企業は、ドイツの産業は極めて国家意識が強いことで知られている。周知のごとく、フランスは国有企業が大きなウエイトを持っている。英国においても、食品産業など、政治色の強い企業はおのずと国家意識が強い。日本も同様であった。(国家意識の概念がはっきりしていないかな!国有企業の国家意識と民営企業の国家意識の違いは?)21世紀に入りGEのジャック・ウェルチは欧州企業を大きく変容させたが・・・。
 これらの企業は、国家とともに、消費者=国民をリードする存在であり、常に啓蒙的理念を持った、政府と同じ階層のリーダーによって導かれた。この点で、ナショナル・イノベーション・システムのプレイヤーは同質の存在であった。
 1970年代、新しいプレイヤーが登場した。それが、消費者運動家(現在のNPO、NGO)、機関投資家であった。この2つのプレイヤーの監視のもとでの「出来レース」それが70年代までであった。
 そのレースは、日本企業の登場した80年代に新しい展開をみた。トヨタ生産方式により「顧客主導」という新しい原則で行動する日本企業による従来の国家志向の企業群の圧倒である。これらの企業が次々、敗退し、新しいトヨタの原理で行動できる経営者と置き換えられたのである。それは90年代、世界的な傾向となり、そのトヨタの生まれた日本さえ例外ではなかった。日本における国家主導の企業、日産の危機とトヨタの原理に立ったルノーによる再建はその象徴であった。ナショナル・イノベーション・システムは、国家とまったく異なる顧客主導の企業との対峙となったのである。(国家主導と国家意識、顧客主導と顧客意識の概念が統一したほうがいいかな)

実証の方法
1) 国をリードする大企業の経営原理がトヨタ思想に変わったという事例、最低4社、できれば8社
米国の大企業トップの発言をニューズウイーク等で読み、「国家・技術・社会」が国家主導、「顧客・利益・効率」が顧客主導、それ以外に「株価」・「環境」をどう考えるか、これをもとにグリッドに大企業を割り付ける。
1960年代、1970年代、1980年代、1990年代の4期。米国のGE、ATT、GM、ボーイング、フォード、といった具合に、できれば同じ企業、できなければトップ企業の発言を50社集める。
2) トヨタ思想に変わって、国を考えない企業が増えたとのインタビュー
3) 数値データ
4) サプライチェーンマネジメントを採用している企業の産業におけるウエイト

トヨタ型開発の問題と新しいモデルの模索

1. 世界の研究開発は従来のイノベーションモデルに対して、トヨタ型、ベンチャー型の新たな2つが登場して、その2つが鬩ぎ合っている。

2. ベンチャー型は情報産業から現れ、他の産業にその開発原理が拡大していっている。周辺産業は徐々にかつてのイノベーションモデルからベンチャーモデルへとパラダイム転換を迫られている。このモデルは基本的に市場において拡大している。産業マップを文部科学省(科学技術庁)で清家が1996年に作った報告書から作る(技術分野間の距離)。これ以降の研究が目玉商品になるかな?

3. その一方、トヨタ型モデルは大企業とグループの内部組織と市場を組織化した中間組織において浸透していっている。

4. それに対して、この両者を統合するモデルが2つ現れている。1つはIBMでサービス化戦略によって、ベンチャー企業を取り込もうとするものである。これは、ハードからソフト、サービス、コンサルタントと展開していくプロセスにおいてベンチャーを寄生させようとするものである。
ソニーはそれに対して、2つの産業間を面にすることによって、その面に自社の小規模事業グループ、ベンチャー企業を寄生させようとする。
この両者は基本的に組織を市場化するベクトルを持っている。その点で中間市場化(中間組織と逆)と規定できる。

5. GEはそれに対して、内部組織と中間組織の中でグループ経営をトヨタ型であるソリューションビジネスとして行おうとする。

6. 企業は1)ベンチャー型と2)ベンチャー型+大企業と3)大企業+子会社(トヨタ型とGE型)に分けられる。

7. ソニーとホンダの違いは多数の独立事業型組織のソニーと多数の独立製品型組織のホンダ。

8. ソニーとホンダの共通点は事業グループ、製品グループの独立性が高く、かつグループが小規模な点である。

9. 商品の魅力で購買者を誘惑する点もソニーとホンダの共通点である。

10. 多くの事業、製品はソニーとホンダにおいてはリーダーの執念で作り上げられ、独立性が高い。

11. その事業、製品はそれ自体で完結しており、その事業の成否はリーダーの個性にかかっている。

12. 事業・製品の成否は確率的に管理される。

実証の方法等

1. モデルをつくり分かりやすく説明する。
2. ソニーとホンダ以外にもそのような企業があるかどうか。
3. 確率によって計算される事業がソニー、ホンダ以外にもあることを事例で示す。
4. トヨタとの違いをはっきり表で示す(生産性本部のメンバーとの共同作業)。

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