21世紀、世界企業の競争の場は欧米日から新興国に移動した。新興国の競争力の中心は1990年代~2000年代前半の人件費の安さから、2000年代後半からスピードに変わりつつある。また競争業種も繊維・玩具から家電・自動車へと変わり、現在は生活インフラ産業へ変わってきた。かつて、中国はソニー、トヨタ自動車を待望したが、現在はソニー、トヨタはいらない。
新興国の内需拡大、環境都市インフラブームにのって、世界は製造業から都市生活産業の時代へ移行しようとしている。もはやトヨタ、ソニーは求められず、日立製作所、東芝からセブンイレブン、ローソン、ダイソーが求められる。日本のすべての産業が世界の人々の生活向上のためにグローバル化する時代でもある。
2011年現在でも建設機械においては、中国での設備投資は日本の20分の1で済むといわれている(コマツへの日経新聞取材、2011年)。中国の三一重工のコマツに対する競争力はそこにあるとの考えである。しかし、実は新興国での競争の本質はスピードであった。
中国での企業指導の体験を元にすると、「世界の40年は中国の7年」という新華社の記事が実感として感じられる。社会感覚、時代感覚として40÷7=約6倍のスピードである。中国社会は日本社会より変化が速い。どのような経営を行えばよいか、日本企業は、特に東京本社は理解が出来ない。例えば、中国三一重工とコマツの相違は産業のスピード理解が違う点にある。中国の建設業界の仕事は日本の建設業界より遥かに速い。日本の公共事業の遅さに慣れたコマツの経営者、特に東京の社員は付いていけない。新幹線を40年で建設した日本と7年で建設した中国とは建設業界の構造自体が日本と異なる。スピードはここでも約6倍である。
中国企業の最大の競争力は人件費の安さからスピードへと移りつつある。日本の電機産業は中国での敗退の主因を人件費の安さに挙げ、世界における韓国企業に対する敗退を模倣と技術漏洩などに求めたが、実は時代に置いていかれたスピードの遅さが敗退の原因である。
武田薬品工業社長長谷川(2011)の「世界市場が大きく動く中では何もしないこともリスクだということを忘れてはいけない」が世界企業の行動原理である。
参考文献
長谷川閑史(2011)「何もしないリスク認識を」『日本経済新聞』日本経済新聞社,2011年10月25日朝刊15面
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