2011年12月16日金曜日

孫子の兵法におけるスピードのイメージ

経営、経済におけるスピードについて常々考えているが、イメージは生物学、戦争論、スポーツ研究から求めることが多い。

例えば、戦争論でナポレオンが常に座右に置いたのが「孫子の兵法」であると言われている。孫子は、スピードとは「疾」と「勢」、「先」と「後」の2つのイメージで述べているのではないか、と感じている。今枝二郎(2004)『孫子のことば』斯文会は分かりやすい適書であると思い、そこからピックアップ列挙させていただくと

激水の疾くして石を漂わすに至る者は、勢なり。鷙鳥(しちょう)の撃ちて毀折(きせつ)に至る者は、節(=時機)なり。是の故に善く戦う者は、其の勢は険、其の節は短なり。勢は弩(ど)を彍(は)るが如く、節は機を発するが如し。紛紛紜紜(ふんぷんうんうん)、闘い乱れて乱すべからず、渾渾沌沌(こんこんとんとん)、形円くして敗るべからざるなり。P73

勇怯は勢なり。P75

故に善く戦う者は、之を勢に求め、人に責めず。故に能く人を択(えら)びて勢に任ぜしむ。勢に任ずる者は、其の人を戦わしむるや、木石を転ずるが如し。木石の性は、安ければ則ち静かに、危うければ則ち動き、方なれば則ち止まり、円なれば則ち行く。故に善く人を戦わしむるの勢い、円石を千仞(せんじん)の山に転ずるが如くなる者は、勢なり。P77

進みて禦(ふせ)ぐべからざる者は、其の虚を衝けばなり。退きて追うべからざる者は、速(すみや)かにして及ぶべからざればなり。P85

軍争(主導権争い=>機先)の難きは、迂(う)を以って直と為し、患(かん)を以て利と為せばなり。故に其の途(みち)を迂にして之を誘うに利を以てし、人に後れて発し、人に先んじて至る。これ迂直の計を知る者なり。軍争は利たり、軍争は危たり、軍を挙げて利を争わば、則ち及ばず、軍を委(す)てて利を争わば、則ち輜重捐(す)てられる。
 是(こ)の故に、甲(よろい)を巻きて趨(はし)り、日夜処(お)らず、道を倍して兼行し、百里にして利を争わば、則ち三将軍を擒(とりこ)にせらる。勁(つよ)き者は先だち、疲るる者は後れ、その法、十にして一(いつ)至る。五十里にして利を争わば、則ち上将軍を蹶(たお)す。其の法、半ば至る。三十里にして利を争わば、則ち三分の二至る。P99

故に兵は詐(さ)を以て立ち、利を以て動き、分合(分散と集合)を以て変を為す者なり。故に其の疾きこと風の如く、其の徐(しずか)なること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷(いかずち)の震うが如くにして、嚮(むか)うを指(しめ)す衆を分かち、地を廊(ひろ)むるに利を分かち、権を懸けて動く。迂直の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。P102

故に将に五危有り。必死は殺され、必生(ひつせい)は虜にされ、忿速(ふんそく=あせって怒り狂う)は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩さる。P119

隘(せま)き形には、我れ先に之に居らば、必ず之を盈(み)たして以て敵を待つ。若し敵先に之に居り、盈つれば而ち従うこと勿(なか)れ。盈たざれば而ち之に従え。険なる形には、我れ先に之に居らば、必ず高陽に居りて以て敵を待つ。若し敵先に之に居らば、引きて之を去りて従うこと勿れ。P145

孫子曰く、用兵の法には、散地有り、軽地有り、争地有り、交地有り、衢(く)地有り、重地有り、圮(ひ)地有り、囲地有り、死地有り。諸侯自ら其の地に戦う者を、散地と為す。人の地に入りて深からざる者を、軽地と為す。我れ得れば則ち利、彼れ得るも亦(ま)た利なる者を、争地と為す。我れ以て往くべく、彼れ以て来たるべき者を、交地と為す。
 諸侯の地三属し、先に至らば天下の衆を得る者を、衢地と為す。人の地に入ること深く、城邑(じょうゆう)に背くこと多き者を、重地と為す。山林・険阻・沮択(そたく)を行き、凡そ行き難きの道なる者を、圮地と為す。由りて入る所の者は隘(せま)く、従(よ)りて帰る所の者は迂にして、彼寡にして以て吾が衆を撃つべき者を、囲地と為す。疾く戦えば則ち存し、疾く戦わざれば則ち亡ぶ者を、死地(後方と左右が険しく、前方に敵軍と相対している所)と為す。P159

先ず其の愛する所を奪えば、則ち聴かん。兵の情は速(すみやか)なるを主とす。人の及ばざるに乗じて虞(はか)らざるの道に由り、其の戒めざる所を攻むるなり、と。P164

敵人開闔(こう)すれば必ず亟(すみやか)に之に入り、其の愛する所を先にして微(ひそ)かに之と期し、践墨(せんぼく)して敵に随(したが)い、以て戦事を決す。是の故に始めは処女の如くにして、敵人戸を開くは、後は脱兎の如くにして、敵は拒(ふせ)ぐに及ばず。P181

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