2010年9月2日木曜日
世界鉄鋼覇権とインフラビジネス(1)
本研究は世界の新興国を中心に行われている巨大なインフラ投資の基礎素材となる鉄鋼をめぐる覇権のゆくえ、そしてその中で世界と競争を繰り広げる日本鉄鋼メーカーと総合商社の2タイプの日本型戦略について考察する。そして、その日本型戦略を統合する政略の可能性について論じる。
鉄鋼業は欧米、新興国では、急成長産業として政府、産業界、大学で注目されている産業である。日本の鉄鋼業は、かつて欧米を凌駕し、世界トップとなり、そして現在中国に大きく差をつけられ、インドに脅かされている。
日本の鉄鋼メーカーは自社だけの利益を追求せずに、組織間関係全体の最適化に配慮をしてきた。その理由は樺澤氏 の指摘する長期的な構造不況業種として、成長産業に貢献し、ウイン・ウインを実現するためである。また日本の鉄鋼メーカーは財務体質が弱く、また中韓のような政府の支援が無いので、資源確保をやりたくても出来ない。
総合商社は三菱商事も三井物産も鉄鉱石の権益確保を進めているが、実はこれは日本鉄鋼メーカーのためではなく、中国鉄鋼メーカー他の海外鉄鋼メーカーに販売するための権益確保が多くなってきている。鉄鋼メーカーの中には、こうした資源権益の確保に動く総合商社を「国賊」と呼ばわりする人もいる。しかし、総合商社も日本政府、日本の鉄鋼メーカーにかまって手をこまねいてはいられない。中国企業が次々資源権益をさらっているのである。
日本では、鉄鋼メーカー主導の組織間関係と総合商社主導の組織間関係の2つの日本型戦略が生まれ、世界の鉄鋼覇権をめぐり、鉄鋼メーカー、資源企業、各国政府と合従連衡をしている。本研究は2つの日本型戦略の相違とその競争力について史的に分析し、将来と政府の政略の可能性について予測する。
論文の構造及びプレイヤー
主要なプレイヤーは
鉄鋼メーカーは、新日本製鉄、JFEホールディング(JFEスチール)、神戸製鋼所である。
総合商社は、三菱商事、三井物産である。
構造は、前提と組織から戦略が構想される、と考えている。4前提のうちA、B、Cの3つは所与と規定し、前提D(仮説1)は本稿で検証する。組織は、組織Aは鉄鋼メーカーで所与、組織B(仮説2)は総合商社で検証する。戦略A、B、Cは本稿で導き出す。
前提
前提Aは「欧米企業は成長戦略としてトップダウンのM&Aを行い、戦略から組織を変革させる。日本企業はボトムアップで改善を行いインクリメンタルイノベーションで自己組織的に組織変革を行う」である。
前提B「日本型成長戦略は3つあり、1つは総合電機のようなR&D資源に恵まれた企業に見られる成長事業への進出であり、あと2つは単能企業であり、R&D資源が限られる鉄鋼メーカー、総合商社にそれぞれ見られる成長戦略である」をもとに論じる。
前提Cは「日本鉄鋼メーカーは組織間関係からの戦略を選択してきた」
前提D(仮説1)は「総合商社は組織間関係からの戦略を選択してきた」
組織
組織Aは「鉄鋼メーカーにみられる、成長産業、家電、自動車産業を選択し、パラサイトし成長し、次に顧客としての成長産業に貢献する形でウイン・ウインの共進化を遂げる。共進化はフォン・ヒッペルのユーザーサプライヤーインターラクションの理論で説明できる」である。成長産業の研究開発の支援、補完、分担、オーダーメード化として貢献し、基本的には取引コストの低下、売上増がその目的となる。売上増に利益配分は相関する。利益配分は投入工数、コストに応分なものとして、トヨタ自動車などは新日鉄に分配する。
組織B(仮説2)は「総合商社にみられる、連結の経済である。それは成長産業どうしを結びつけ、その口銭をとる。売上増が口銭増、利益増となる。その際、連結で両者がシナジー効果を出す形なれば、組織間関係として共進化を仲介したことになる」である。
組織A、Bから
戦略
戦略Aは「日本政府の政略が無いと日本はダウンストリームの競争力しかない」
戦略Bは「低品位鉱の活用による新技術開発は未来の戦略である」
戦略Cは「ジャパンイニシアティブは、総合商社の歴史から見てやがて日本鉄鋼メーカーの時代の先駆けとなる」
仮説は下記の2つとなる。
前提D(仮説1)は「総合商社は組織間関係からの戦略を選択してきた」
組織B(仮説2)は「総合商社にみられる、連結の経済である。それは成長産業どうしを結びつけ、その口銭をとる。売上増が口銭増、利益増となる。その際、連結で両者がシナジー効果を出す形なれば、組織間関係として共進化を仲介したことになる」である。
鉄鋼業におけるメーカーと総合商社の戦略は先行事例であり、今後多くの産業、特にインフラにおけるグローバル競争に適応できる可能性がある。インフラは新興国を中心に次々建設されている。日本メーカーと総合商社は、都市建設、新幹線、水ビジネス、原子力、スマートグリッド、新・省エネルギーなど膨大なインフラ市場へ進出している。日本が世界に誇る環境技術がそのビジネスの中核技術となっている 。このインフラ市場における先行事例が鉄鋼業である。また鉄鋼業の歴史は、世界で今後展開されるインフラビジネスの未来予測の資料である。鉄鋼研究の現在における意味はここにある。
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