2010年9月7日火曜日

サービスビジネスとグローバル戦略


         
1.世界での成功とサービスビジネス
現在、世界の先進国の経済は成熟し、成長しているのは新興工業国が中心である。そのため、日米欧のグローバル企業は世界へ進出し、世界市場で覇権をめぐって競争を繰り広げている。発展途上国の成長を支援し共に繁栄する現地化経営の実現がトヨタ自動車、本田技研、日立製作所、パナソニック、ソニー、資生堂といったグローバル企業の使命である。その鍵はサービスである。
 世界の新興国の多くの消費者にとって、サービスを受けることは新鮮な事であり、受けた側は大きな満足を得るが、逆にサービスを提供することは、苦手である。日本のように笑ってお客様に接することもなかなかできないようである。日本型の至れり尽くせりのサービス精神を現地の人に身につけさせ、組織として体制化できれば、世界の各地でのビジネスにおいて大きな武器となることは間違いない。
それは単なる接客テクニックを身につけ、販売量を上げることではない。顧客とのツーウェイコミュニケーションを行うことで、顧客のニーズ・ウォンツ情報を的確に把握できれば、彼らの欲求にフィットした製品開発につながる、つまりはヒット商品を産む機会が飛躍的に増加することになる。サービス発製品開発の仕組み作りにより、現地の中で自立して新製品を生み出すことが期待できる。
 現地市場及び現地人のニーズ及びウォンツを現地人のサービス網がそれをキャッチし、現地人による製品開発及び基礎研究を行い、新製品を製造・販売するという一連の流れを作り出すことが戦略的重要である。以下の資生堂の海外事業での成功はそれを示唆している。

2.サービスからの製品開発戦略の重要性-
 資生堂においては、美容アーチストによる店頭販売の強化が商品の機能性をクローズアップさせ、商品開発につながることが成功の要素となっている。日本企業が世界へ進出し市場を拓くにあたり、そこで成功するためには、ローカルなサービス分野が重要であり、さらに、そのサービス分野に技術要素を入り込ませ、研究開発分野と相互作用させることが重要である。
 これは、市場との接点であるサービス分野において技術戦略の重要性が増しており、特に、サービス分野と研究開発分野の相互作用が商品開発にとって重要な位置付けを占めるようになっていることを示している。すなわち、「販売やアフターケア」、「商品開発における市場把握」といった点において技術要素の介在と研究開発との密な連携が、ヒット商品開発、顧客満足の向上、ブランドイメージ形成の観点から必須となっている。 
 日本は少子化、高齢化が進展し、技術開発を担える技術者の数が減少している。現地の教育レベルの向上への貢献、地元の知的エリートとの交流の視点からも現地でのR&D人材の積極的雇用に取り組む必要があることは明らかである。「サービス分野」と「研究開発分野」の相互作用をスムーズに行うためにも現地人材の活用が必須である。そのポイントは以下である。

3.現地人材とのコラボレーション 商品開発における市場把握
 現地の優秀な人材を活用して開発された商品が、現地で大量に消費され、世界的にも競争力があれば、その低コストから、世界的なヒットになる可能性がある。世界中のあらゆる進出地域から世界標準の製品が生まれる可能性も高い。いかに、そのようなチャンスを増やすか、現地の人材を活用しない手はない現地人にどんどん働いてもらって、その良いところを日本と現地が折半する考え方である。このようなまとまりを生むのは何であろうか。人材教育、企業理念が根幹であると考える。
 「販売やアフターケア」といった顧客との接点という点では、現地のチャネルを活用して販売ルートを確保するとともに、言葉、文化的背景といった点からも、現地の人材の雇用が必要であり、雇用した現地の人材に対する教育によって、必要な技術を習得させるとともに、企業の方針、風土を伝え国籍を超えた企業人、例えば「資生堂人」「トヨタ人」を世界に作っていくことが重要となる。そのポイントは以下である。企業哲学を浸透させた、言わば「資生堂人」、「トヨタ人」とでも形容するような、国の所属を超えた人材を育成するには、どのようなアクションが必要となるか、以下の3点を指摘したい。
 第一に、ビジョンやベクトルを示すことである。しかもできるだけシンプルで、共鳴を呼ぶものでなければならない。資生堂の場合は「美」または「美の創造」となる。
 第二に、行動原理を作り出すことである。
 「美」という人類共通の価値観のもと、自分以外の人間(顧客)から学ぶという姿勢が、顧客や社会、ひいては人類に真に貢献するものが何かを考え、最高の価値を作り出すことにつながるのだということを人材にとっても、組織全体にとっても、最優先される行動原理として埋め込んでいくことである。
 第三に、こうした価値観や行動原理を徹底し、進化させるためには、人材と組織全体の行動を引き出す仕掛け作りが必要である。資生堂のコア技術は「資生堂型美容部員を作り出すこと」といえる。そのための、教育スタッフが教育プログラムにより、まず、人材育成のために徹底して各人が学ぶための仕組みが整備された。思想、価値観、能力を学び、経験を広げ、単なる美容部員ではなく、「資生堂人」として進化するしくみが整備されている。
 最後に、販売、製品、人材、思考を複合化する、組み合わせることで、お互いの知恵と能力を重ね合わせ、創造性と効率性を高めるという概念も重要である。個人主義から、会社全体を意識し、組織意識を醸成することが、組織の強さを規定する事の一つである。人材と組織が同じ方向を向いて、同じスピードで向上し続けていくことが重要ではないだろうか。
 資生堂のように「美」の追求というシンプルさ、共通性が、所属する国を超えて人材と組織の共進化を起こし、現地発の世界標準製品を生み出すことを期待したい。この世界各地で展開するサービスビジネスをグローバルに連結し、経営支援を供給するにはサプライチェーンの整備が重要である。それは儲かる仕組みの構築でもある。

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