2010年9月8日水曜日

ロボット経済のスパコンによるシミュレーション


1.ロボットの2機能
 ロボットには2つの機能がある。人間の支援と代替である。支援は人間の仮想年齢を低下させる機能があり、国民の平均年齢が下がれば、国民が仮想に若返り、生産、販売に励み、消費が増えることになりGDPが増加する。またロボットが人間に代わり、生産、販売、消費をすることになれば、これは移民と似た効果を持つことになり、移民経済的にはGDPが増加することになる。
 しかし、ロボットに関わる制度や技術の経済的効果を定量的に把握した上で将来的なロボットの普及が経済に与える影響を分析評価し、ロボット技術が産業として発展していくための経済的課題を明らかにする取り組みについては、ほとんどなされていない。そのため、制度的課題や技術的課題の検討においても、経済効果について具体的に踏み込んだ比較評価を行うことは困難な状況となっている。
 上述の背景を踏まえ、本事業では、①ソフトウェア的なロボットを含む経済主体としてのロボット(ロボット)によって生じる新たな経済効果の定量的なモデル化について研究を行うとともに、②このモデルに基づく経済効果算定シミュレータの実現可能性について、スーパーコンピュータの将来的利用も含めて調査研究を行うことが期待される。

2.ロボット移民
 経済主体(economic agent、economic man、 economic unit)は、消費者と企業を一般に対象とする。これは、古典派経済論者、ロボット理論の学者、組織論者を問わず人間のみを対象としている。しかし、経済主体はプログラムの登場によって、人間だけではないと明確に認識できるようになってきた。このプログラムはインターネット上の生活、ビジネスではネットロボット(インターネット上で人間の機能を代替するソフトウェア)、現実社会では産業ロボット、ネット家電、インテリジェント自動車、民生ロボットと言った人間の機能の一部を代替、代行する「存在」に搭載される。
 金融工学のプログラムの発展は、プログラム間の取引で、人間の介在を必要としなくなった。金融工学のプログラムは専門知識のない人間より、明らかに役に立つとも考えられる。本研究は、経済主体の定義や概念を人間以外に拡張する試みの一環である。「人間」のみを考える経済から「人間」と「プログラム(ネットロボット、ロボット等)」の2つの経済主体が形成する経済、それをロボット経済と規定する。この経済では、人間だけの社会へロボットが移民をしてくる。
 日本の工場には産業用ロボットが導入されたが、これらは中国、ブラジルから労働者が移民してきたのと同じである。欧州では、工場以外にも、病院、介護施設、家庭、スーパーマーケット等へ移民が行われており、日本でもそれが期待されているが、ここにもロボットが移民してくると予想できる。

3.ロボット移民とGDP押し上げ効果
 20世紀、産業ロボットが自動車産業、電機産業へ導入されたのに対して、21世紀におけるアルバイト労働、高齢者に頼る販売・流通・サービスといった産業、“癒し”産業ともいわれる高齢者慰安、観光・ペット産業へのロボット導入である。移民にGDP押し上げ効果があることはよく知られているが、移民と代替的なロボット導入にどの程度のGDP押し上げ効果があるかが、スーパーコンピュータによるロボット経済シミュレーションの狙いである。移民政策に国家、地方自治体が予算を使って、移民が増えればGDPが増加するのと同じように、ロボット開発に予算を使えば、ロボットが増えGDPが増加する。
 各産業に与える影響では、電機業界、自動車業界、産業ロボット業界、その他が4分の1ずつのロボットを供給すると仮定してみよう。ロボットは平均的な労働者の労働期間を40年間と考え40年のレンタルを行うと仮定すると、それぞれ2010年には300億円程度の売上増が見込める。関連消費がその約4倍と見込まれるので、その供給の30%を供給産業が行えると考えると各産業の産業規模はそれぞれ700億円程度となる。
 他の産業は情報サービス、情報通信産業、工作機業界、ファッション業界、玩具業界、ゲーム業界等がそれぞれ売上を享受することになり、500億円、300億円、300億円、200億円、200億円、200億円といった試算もできる。
 ロボット系が電機、自動車、産業ロボット業界から供給されるのに対して、ロボットやネットネットロボット連携商品は主に家電業界、建設業界、玩具業界から供給され、これは2010年には100万セットの移民があると試算すると2010年には1兆円のGDP効果が考えられる。ネットロボット系はハードの負担が軽くゲーム業界、玩具業界、携帯電話業界、情報サービス業界といった技術保持産業からだけでなく、コンテンツ保持産業からの供給が主流になり、これは予測が難しい。介護コンテンツを持った企業が、同業者に先駆けてネットロボットを製品化し、競争企業を排除する可能性がある。

4.ロボット移民の活躍
 現実社会では、家庭で掃除機、洗濯機は家庭の生産性を急上昇させ、家事労働時間は激減した。工場の機械、フォークリフト、産業ロボットは工場の生産性を高め、社員の何十人分の働きをする。工事現場では作業員がつるはしを振るう現場は無くなり、人間の30人分、100人分の能力といった重機が働く。人間以上に働く機械、ロボットは増加する一方である。人間を代替する内容も肉体から知能へシフトしてきている。
 インターネットの場でも同様で、多くのロボット(プログラム)が人間以上の活躍をし、人間以上の活躍をするロボットは級数的に増加している。多くの種類の人間を代行するロボットが登場している。
 これらのロボットはビジネス活動を人間と共同で行っているのである。また、ポータルサイトで販売を助けるロボットは販売能力でやがて人間を超えるかもしれない。人間の販売員は対応できる消費者の数で物理的に限界があるが、ロボットは無限の消費者を対象にできる。これらのロボットは人間と異なり、24時間働き、その能力は体調等で左右される事はなく安定している。
 また、消費者側もプログラムによって助けられる。検索ロボットは知識生産活動を支援する有力なプログラムであるが、消費活動を支援する有力なロボットでもある。インターネットショッピングは、検索ロボットなしには成立できない。消費者の活動を支援するロボットが発展すれば、初期の指示と最終消費以外はすべてロボットが代行できるようになる。例えば、来年の誕生日のパーティーをフランス風に行うという指示をすれば、来年の誕生日(最終消費)までの間、ロボットが様々なお膳立てができる。ロボットは徐々に人間を助ける存在から、人間に代わる存在へと変化しつつある。
 伝統的な経済学の完全競争のモデルでは個々の経済主体(消費者、企業)の意思決定は、他の経済主体に対して何らかの影響力をもたないし、他の経済主体の決定によって影響も受けない。

5.R to Rビジネスとロボットの進化
 無数のロボットが生活の場でインターネットに支援されビジネスを行う未来を考えてみよう。ロボットの機能は人間の支援(機能代替)と代替である。人間の増加に比べてロボットプログラムの増加が大きければ、やがて我々はロボットプログラムがほとんどを占める経済の中で生きる事になるかもしれない。R to R ビジネス(ロボット ツウ ロボット)であるこれをロボット経済学と規定することができるかもしれない。

 最終的にはR to R(ロボット ツウ ロボット)の部分が最も多くなるであろう。

 検索ロボットは、多くの部分で人間の介在を必要としていたためR to H だったが、既にR to Rになりつつある。人間が知識を探索する場合、知識サイズ拡大に対する人間の探索能力に限界があるため、困難を要することとなる。
 経済主体としてのロボットの進化に貢献するのはゲーム理論である。ゲーム理論では、各個人の決定は他の人々に影響をもたらし、他の人々の決定によっても自分の利得が左右され、ナッシュ均衡に達する。ゲーム理論における人間は、伝統的な経済学における人間像と比べると、他の人々へ影響を与え、他の人々から影響を受ける、より「社会的な」存在であるといえる。さらに知識や情報が共有されていない状況をもカバーし、知識・情報の交換、伝達を行う存在でもある。また、自ら利益のためにさまざまな策略を張り巡らす、機会主義的な人間でもある。そのような機会を見つけ出し利用するための情報処理・類推・計算能力の面では、ゲーム理論の人間は、伝統的な経済学における人間以上に高度な能力を備えているといえる。ロボットプログラムの経済主体としての進化はこの方向で起こっている。
 人口の規模と市場規模の関係は断ち切れない。人口とは経済の基準原則である。経済=f(人口)である。例えば中国は人口が13億人、そして日本は1億2千万人程度である。人口が10倍ということは、市場規模は10倍にとどまらない。市場は人と人の間に成立するため、その規模は50倍にも100倍にも膨れ上がる。ネットワークの経済性である。これでは人口の数で日本は、中国には勝てない。従来、経済学とは「人口」をどう取り扱うかという考え方に立って展開される。しかし、ロボット経済学で説明される、来るべき世界において、人口の数が持つ意味はどんどん小さくなる。ロボットの創造を生産と消費において促進した国、企業、社会が世界の中心になるのであって、人口大国、政治大国が中心となる時代は終わりを告げるのである。

6.ロボット経済シミュレーションの国家的意味
本研究では、上記の議論を踏まえ、このような特徴を持ったロボットの経済効果について定量的なモデル化を試みてきた。経済主体は、生産、販売、購買、消費、賭博等の機能を持つが、ここでは簡単のために「販売(生産含む)」と「購買(消費含む)」機能のみの「売買行為」に限定してロボット支援・代替が起こるとしてシミュレーションを行うことが可能となる。

0 件のコメント:

コメントを投稿